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四章 精霊ノ王
3 楽園の考察 下
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「そうだな……どう考えていいのか分からねえよ」
俺はエルの問いにそう答える。
答えた上で念のため、俺達の言葉の根底が同じかどうかを確認する事にした。
「で、エル。そういう事を聞くって事は……お前もヒルダの言葉に思う所があったって事だよな?」
「はい……どうしてもあの別の世界って言葉が引っ掛かって」
エルは当然の事ながら俺の居た元の世界に訪れた事が無い。だけど俺との会話の中で少なくとも現代日本の知識はある程度知っている。
そしてあの時、俺がこの世界に飛ばされる要因になった一件の事も。
「たまたまそういう言葉を選んだだけなんだとは思います。そりゃ私達からすれば人間の脅威が無い世界なんてのは別の世界に等しいです。だけど比喩と現実は同じじゃないでしょう。実際に比喩でも何でもなく、別の世界がある事を私は知っています。そして……池袋という場所で何が起きたかも」
例えば。別の世界に行けるというのが文字通り別の世界。即ち俺が元居た世界で、その場所にたどり着くというだけだったら特に問題視する必要はない。確かに色々あるだろうがそれでもきっとこの世界よりはずっと精霊に対する視線はまともになるだろうし、そして俺も元の世界へ帰る方法を知ると同時に戻る事が出来て願ったり叶ったりだ。
だけどあくまでそれは、そういう事だけだったらの場合の話。
禍々しい雰囲気を纏った女の子に襲われて、俺はこの世界にやってきた。
今まであの存在が精霊だという事をずっと否定してきたし、これからだって否定する。だってあの雰囲気はどう考えたって精霊ではない。だから今回だって否定するつもりだった。
だけどそうもいかない。いかなかった。
精霊達が目指す絶界の楽園が俺のいた世界である可能性。そして明らかに人間離れした力を使っていたあの女の子達の存在。そういった要素が組み合わされれば、信憑性がまるでなくても仮説の一つくらいは生み出されてしまう。
「私、考えちゃったんです。エイジさん達を襲ったのはやっぱり精霊なんじゃないかって。絶界の楽園に向かってたどり着いた精霊なんじゃないかって」
「……」
「私がエイジさんと契約して、自分でも知らなかった力が使えるようになったみたいに……私達も、自分達の事で分からない事は沢山あるんです。だから余計にそういう事もあるんじゃないかって。そんな事が頭から離れなくて。きっと考えすぎなんでしょうけど」
まともな根拠なんてのはどこにもない。ただ断片的な要素が重なってそういう可能性が微かに見えるだけ。ある程度同じ知識を共有している俺達が、二人ともその可能性にたどり着けた事が奇跡と言っていい程の希薄な物。
行き先が俺達の世界という仮説の上に立つ仮説。あまりにも薄すぎる。
だけどそんな代物でも、一度考えてしまえば脳裏にこべりついて離れない。
故にどれだけ薄くとも、考えざるをえなくなる。
精霊が俺達の世界に訪れる事によって、池袋を襲ったあの女の子の様になるかもしれないという可能性を。
その可能性を立証する根拠が無いのと同様に、否定しきる為の根拠も見つからない。
アルダリアスで精霊の専門家とも言えるシオンと、俺が居た世界の話をした時も、生まれたのは考察であり真実ではなかったんだ。
そしてその時の話にああいう事件が起きたのは今まででたったの一回なんだという否定材料を混ぜ込んでも、おそらくは大丈夫だろうという曖昧なラインにまでしかたどり着けない。
故に否定しきれない。微かな可能性を否定できない。
否定できないからこそ、そういう不安に塗れた思考に繋がる。繋がってしまう。
「エイジさんはどう思いますか?」
「お前と殆ど同じだよ……考えすぎだといいんだけどな」
そうは言っても、そんな簡単な言葉で場を終えられる訳が無い事は。終わらせちゃいけない事は、よく分かっているつもりだ。
だから考えるんだ。
絶界の楽園について生まれた不安要素。この不安要素が出てきたのならば、できうる限りの対策を取らないいけない。
だけど取れる対策なんて数少なくて、結局事は二極になるんだ。
絶界の楽園を目指すか、それとも違う選択肢を模索するか。
俺達は此処に来て、そんな選択肢に悩まされる事となった。
俺はエルの問いにそう答える。
答えた上で念のため、俺達の言葉の根底が同じかどうかを確認する事にした。
「で、エル。そういう事を聞くって事は……お前もヒルダの言葉に思う所があったって事だよな?」
「はい……どうしてもあの別の世界って言葉が引っ掛かって」
エルは当然の事ながら俺の居た元の世界に訪れた事が無い。だけど俺との会話の中で少なくとも現代日本の知識はある程度知っている。
そしてあの時、俺がこの世界に飛ばされる要因になった一件の事も。
「たまたまそういう言葉を選んだだけなんだとは思います。そりゃ私達からすれば人間の脅威が無い世界なんてのは別の世界に等しいです。だけど比喩と現実は同じじゃないでしょう。実際に比喩でも何でもなく、別の世界がある事を私は知っています。そして……池袋という場所で何が起きたかも」
例えば。別の世界に行けるというのが文字通り別の世界。即ち俺が元居た世界で、その場所にたどり着くというだけだったら特に問題視する必要はない。確かに色々あるだろうがそれでもきっとこの世界よりはずっと精霊に対する視線はまともになるだろうし、そして俺も元の世界へ帰る方法を知ると同時に戻る事が出来て願ったり叶ったりだ。
だけどあくまでそれは、そういう事だけだったらの場合の話。
禍々しい雰囲気を纏った女の子に襲われて、俺はこの世界にやってきた。
今まであの存在が精霊だという事をずっと否定してきたし、これからだって否定する。だってあの雰囲気はどう考えたって精霊ではない。だから今回だって否定するつもりだった。
だけどそうもいかない。いかなかった。
精霊達が目指す絶界の楽園が俺のいた世界である可能性。そして明らかに人間離れした力を使っていたあの女の子達の存在。そういった要素が組み合わされれば、信憑性がまるでなくても仮説の一つくらいは生み出されてしまう。
「私、考えちゃったんです。エイジさん達を襲ったのはやっぱり精霊なんじゃないかって。絶界の楽園に向かってたどり着いた精霊なんじゃないかって」
「……」
「私がエイジさんと契約して、自分でも知らなかった力が使えるようになったみたいに……私達も、自分達の事で分からない事は沢山あるんです。だから余計にそういう事もあるんじゃないかって。そんな事が頭から離れなくて。きっと考えすぎなんでしょうけど」
まともな根拠なんてのはどこにもない。ただ断片的な要素が重なってそういう可能性が微かに見えるだけ。ある程度同じ知識を共有している俺達が、二人ともその可能性にたどり着けた事が奇跡と言っていい程の希薄な物。
行き先が俺達の世界という仮説の上に立つ仮説。あまりにも薄すぎる。
だけどそんな代物でも、一度考えてしまえば脳裏にこべりついて離れない。
故にどれだけ薄くとも、考えざるをえなくなる。
精霊が俺達の世界に訪れる事によって、池袋を襲ったあの女の子の様になるかもしれないという可能性を。
その可能性を立証する根拠が無いのと同様に、否定しきる為の根拠も見つからない。
アルダリアスで精霊の専門家とも言えるシオンと、俺が居た世界の話をした時も、生まれたのは考察であり真実ではなかったんだ。
そしてその時の話にああいう事件が起きたのは今まででたったの一回なんだという否定材料を混ぜ込んでも、おそらくは大丈夫だろうという曖昧なラインにまでしかたどり着けない。
故に否定しきれない。微かな可能性を否定できない。
否定できないからこそ、そういう不安に塗れた思考に繋がる。繋がってしまう。
「エイジさんはどう思いますか?」
「お前と殆ど同じだよ……考えすぎだといいんだけどな」
そうは言っても、そんな簡単な言葉で場を終えられる訳が無い事は。終わらせちゃいけない事は、よく分かっているつもりだ。
だから考えるんだ。
絶界の楽園について生まれた不安要素。この不安要素が出てきたのならば、できうる限りの対策を取らないいけない。
だけど取れる対策なんて数少なくて、結局事は二極になるんだ。
絶界の楽園を目指すか、それとも違う選択肢を模索するか。
俺達は此処に来て、そんな選択肢に悩まされる事となった。
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