人の身にして精霊王

山外大河

文字の大きさ
130 / 431
四章 精霊ノ王

24 到達

しおりを挟む
 目と鼻の先にある目的地。
 感覚的にその場所に辿り着く事自体はもう容易な事に主終えていたのだが、それでも案外そう簡単には行かない。

「……大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫。あと少しなら多分大丈夫……」

 元々かなりの距離を歩いていた事に加えて、森の中は想像以上に足場が悪く体力を奪ってくる。もうアスレチックって言っても過言ではない。

「……多分まだ先は長いですよ。前に見た地図を思いだす限り、結構この森面積ありそうですし」

「……だ、大丈夫、ダイジョウブ……ハハハハハ」

「エイジさん、顔笑ってませんよ。物凄く顔引きつってますよ」

 ……いや、だって本当にキツいからな。全然大丈夫じゃないもん。

「……」

 大丈夫、どうにかなるさ。思い出せ、この世界に来た直後の事を。怪我が完治していない状態でハーフマラソンに近い距離を走りきった時の事を。あれと比べればこんなもん楽勝だ。
 ……楽勝な筈なんだけどなぁ。
 あの時とは違い、死に物狂でに走る様な状況でもなければ、そんな精神状態でもない。そんな状況は脱したばかりで、今はもう周囲を警戒する程度の物になっている。
 故に火事場の馬鹿力じみた体力は沸いてこなくて。まあああいうのが発揮されるタイミングってのは、あまり良い事が起きている時ではないだろうし、沸かないに越した事は無いのかもしれないけれど。
 だからって少し位沸いたっていいじゃないか……なんて事を考えながら。そんな馬鹿な考えで思考を埋めながら、俺は歩き続けた。
 そうでないと前に進めないだろうから。どこかで立ち止まってしまうかもしれないから。今はそんな考えで頭の中を埋めることにした。





 そこからどれ位の距離を歩いたのだろうかと考えたが、それがそこまで大した距離ではないという事は前知識を考えるに理解できる。
 ただ俺の体力面が色々とネックになり、湖のすぐ近くにまで辿り着いた時にはもう日が落ちてから随分たち、月明かりだけが周囲を照らす夜になっていた。
 ……予定よりも随分と遅くなった様な気がする。

「……大丈夫? 死にそう」

「やっぱり足腰弱いね」

 そんな言葉が胸に突き刺さる。まるで否定できない。本当に死にそうなんだが……。
 とはいえなんとなくそう感じるだけで、実際何度も死にかけた事があるから、今の俺が死とは遠い状態だと言う事は理解できる。理解できるけど、なんか死にそう。

「で、でも、ほら、もう湖見えますから、もうゴールです。大丈夫です」

「……そ、そうだな」

 リーシャの言葉にそう返すが、なんかこう、プライド的な方向では全然大丈夫じゃないんだけどな。
 と、そんな事を考えながらもう少しだけ前に進んだ所で……その湖に誰かがいるが見えた。

「……精霊?」

 視界の先に十人程の精霊が集まっていた。もしかすると俺達が歩いてきた方角とは違う方角から、この地に向けて歩いてきたのかもしれない。タイミング敵に俺達があの業者を引き付けていた訳だから、その間に到達したとかそういう事だろうか?
 ……っていうか歩いてみて改めて思ったが、あの業者の連中どうやってこの広い範囲に展開している人間を全員終結させたんだ? アレだろうか、テレポート的な精霊術を使える奴が何人か居たのだろうか? 信号弾にしてもそんなに遠い奴には見えないだろうし……駄目だ、一応一カ月は滞在していても、この世界の技術だとか、そういう所は分からない事が多い。
 まあそれはさておき、というか終わったからどうでもいい事だ。大事なのは目の前の精霊。どうやらまだこちらに気づいていないようだ。
 そう思った直後、ナタリアが俺達にしか聞こえない様な声で呟く。

「……隠れるぞ」

「……ッ」

 ナタリアに急に襟首を掴まれ無理茂みの中に連れ込まれる。

「ちょ、ちょっと何やってるんですか」

 エルも一応茂みに入りながらナタリアにそう言って、ヒルダ達も一応首を傾げながらも茂みの中に入ってきた。

「……コイツをあの精霊達の視界に入れるわけにはいかないだろう」

「……ああ、成程」

 ナタリアの取った行動……とりあえず俺だけでも瞬時に茂みの中に連れ込んだ意味が理解できてそう呟く。
 精霊にとって人間は敵だ。そんな俺が精霊達の視界に入る事で起きる事は、きっとあまり彼女達にとってもこちらにとってもいい事ではない。それだけは言える。
 だからきっとこの判断は正解だ。
 それは他の皆も理解している様で、エルは俺の言葉に続く。

「だったら今は様子見……ですね」

 その言葉に皆が頷く。
 そしてここで様子見を行うという事は、一つ大切な事柄の詳細が判明するいう事になる。
 ……この場所が、正解かどうかという事だ。
 そしてその答えはすぐに出てくる。

「……ッ」

 ……次の瞬間、強い光が周囲に発せられ、思わず瞳を閉じる。
 ほぼ同時に、何か所からも発せられた光。
 それが全て消えさり視界が元通り鮮明になった時。

「……消えた」

 その鮮明となった視界の先に、彼女達はいない。
 それは即ち、こういう事だ。

「ここが……正解」

 エルがそう呟く。
 そう……多分そういう事だ。予想通り、そういう事だったんだ。
 この湖が、絶海の楽園への入り口。
 俺達がずっと探していた目的地への入り口だった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...