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六章 君ガ為のカタストロフィ
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精霊術を発動させて周囲の風を操作し、それを刀身へと集めて放出させる。
まずは天野を剣から引き剥がす為に。
「……ッ」
風が放出され始めた瞬間に天野は剣から手を離し、こちらの腹部に蹴りを叩き込んでくる。
その勢いで弾き飛ばされ、二度アスファルトをバウンドした所で体制を立て直した。想定とは違うものの天野から離れる事には成功。そしてすぐさま叫びながら天野の元へと駈けだす。
だけど感情の矛先は果たして天野の方を向いていたのだろうか?
結局俺がやっている事は思考を天野を倒す事に反らす事だ。
自分がやっている事がそういう事だと理解できる位には、纏まらなくなっていた思考が纏まり始めている。
この短期間でだ。必死になって現実から逃げだしているのにすぐに追いつかれて突きつけてくる。
だから、結局現実逃避なんてのは無駄な足掻きなんだと思う。
接近して、何度か天野の拳と大剣を撃ち合わせた。
だけどその短期間。その短期間だけで半ば無意識の内に答えは導き出されてしまった。
だってそうだ。簡単なんだ。天野が投げかけてきたのはあまりに簡単な問いなんだ。
それが簡単な物だから、目を背けた。必死になって考えないようにした。明確に自分が答えを得たと認識しないように必死だった。
きっとどこかで出していた答えに気付いていないフリをしていたんだ。
ここでエルを助ける事が正しいことなのか否か。
そんな事は間違っているに決まっている。
あまりに大袈裟な例えだが、きっとこの問いは一人を助けて世界を捨てるか、世界を救って一人を見殺しにするかという様な問いに近いのかもしれない。
なんの解決策もないのにエルを助ければ、天野の言う通り関係のない人間を殺す事に繋がるかもしれないのだから。
命の価値が平等なのかなんてことを聞かれればそれは俺の答えられる範疇にない程に高尚な話になるけれど、それでも一人の命と大勢の命を天秤にかけば、きっと重いのは大勢の命だ。
例えエルが俺にとってどれだけ大切な存在であってもその事実は。その認識は俺の中では覆らない。
だから逃げたんだ。そんな答えだから逃げようとしたんだ。
エルと出会う前のかつての自分の様に。
何もできやしないのに、それが正しいと思うからといって首を突っ込んでしまう自分が嫌いで。
嫌いだから。苦痛だらけだから。目の前の光景から目を背けようと。現実から目を背けようと必死になった。
そうしてきた時の様に逃げだそうとしたんだ。
エルを自ら失わせるような答えから逃げだしたかったんだ。
そしてその時と同じように、現実に追いつかれたんだ。
そうする事は辛い事だけど、それが正しいと思う事だから動くんだ。動こうとするんだ。
ああ、そうだ。エルを助ける事は間違っている。そんな事は考えたくないけれど、どうしようもなく間違っている。
だからここでエルを見捨てて大勢の無関係な人間の命を守る事が正しい事なんだと。
そう認識したから、剣を振るいながらもエルを天野に明け渡そうと心が促していた。
だけど今回は。今回だけはそこで終わりだった。
精霊加工工場を襲撃する直前に、エルと共に旅を続けるかエルから離れて工場に捕まっている精霊を助けるかと悩んでいた時の様な、自分の中でどちらも正しいと思っていたような事でもない。
迷いようもない。迷わせてくれない。明確にただ一つの正しいと思う事が提示されているのに。
後は否応無しにそこに突き進むしか脳がない。それが瀬戸栄治という人間の筈なのに。
今も尚、こうして躊躇い立ち止っていた。
損得勘定無しに背を押されながらも、それでも立ち止っていだ。
正しいけれどエルを失う道と。
どうしようもなく間違っているけれどエルを助けられるかもしれない道。
その分岐路の前で立ち止れていたんだ。
きっと初めて俺は立ち止れていたんだ。
……それはどうしてだろうと、そんな事を考えた。
そしてそれを考え始めれば、何が正しいのかなんて問いよりも遥かに簡単にその答えは導き出せた。
半殺しにされてでもエルを助けようとさせたあの強制力。俺の全てを埋め尽くす程に大きかった誇り。
それに匹敵する程に、俺の中でエルの存在が大きくなっていたんだ。
無茶をする俺に付いて来てくれて。
本当に辛かった時に側にいてくれて。
こんなどうしようもない奴を助けようとしてくれて。
いつだって俺に手を差し伸べてくれて。
そんな女の子の存在が、誇りで埋め尽くしていた俺の心に根付いていたんだ。
引き剥がせない程に。深く依存してしまっている様に。
エルという存在はどうしたって失えない程に、俺にとっては大きな存在になっていたんだ。
だから俺は分岐路に立っている。どちらの道にもまだ歩みは進められる。
かつて、エルを助ける為にシオンと動いた時にシオンから俺の発言に対してこんな言葉を向けられた。
まるでエルを助ける事が間違ってると思ったら助けない様な、そんな口振りだと。
そしてあの時俺はその言葉に頷いた。
相手がどんな奴だろうと。自分とどういう関係性を築いていようと、躊躇いはしても決断するんだと。
その場の俺はその現実を受け入れて、躊躇いに躊躇ってもその引き金を引くと。
間違いない。それが瀬戸栄治という人間の本質だ。それこそが自分自身で、そうまでしてでも自分が正しいと思える事に手を伸ばせるのが俺の誇りなんだ。
きっとシオンにそう語った瀬戸栄治なら、躊躇って躊躇って躊躇って。最終的には引き金を引いたのだろう。
それが俺という人間だ。それでこそ俺という人間なんだ。
「……」
だったらもう踏み躙ろう。
そんな自分は踏みにじろう。
自分の中の正しさを。
これまで俺を突き動かしてきた誇りを。
まだ確かに俺の中に根付いていた瀬戸栄治という人間を。無くなれば抜け殻になってしまう程に大きな瀬戸栄治という人間を構築するその核を。
全て、全て踏み躙ろう。
エルを救う。ただそれだけの為に。
まずは天野を剣から引き剥がす為に。
「……ッ」
風が放出され始めた瞬間に天野は剣から手を離し、こちらの腹部に蹴りを叩き込んでくる。
その勢いで弾き飛ばされ、二度アスファルトをバウンドした所で体制を立て直した。想定とは違うものの天野から離れる事には成功。そしてすぐさま叫びながら天野の元へと駈けだす。
だけど感情の矛先は果たして天野の方を向いていたのだろうか?
結局俺がやっている事は思考を天野を倒す事に反らす事だ。
自分がやっている事がそういう事だと理解できる位には、纏まらなくなっていた思考が纏まり始めている。
この短期間でだ。必死になって現実から逃げだしているのにすぐに追いつかれて突きつけてくる。
だから、結局現実逃避なんてのは無駄な足掻きなんだと思う。
接近して、何度か天野の拳と大剣を撃ち合わせた。
だけどその短期間。その短期間だけで半ば無意識の内に答えは導き出されてしまった。
だってそうだ。簡単なんだ。天野が投げかけてきたのはあまりに簡単な問いなんだ。
それが簡単な物だから、目を背けた。必死になって考えないようにした。明確に自分が答えを得たと認識しないように必死だった。
きっとどこかで出していた答えに気付いていないフリをしていたんだ。
ここでエルを助ける事が正しいことなのか否か。
そんな事は間違っているに決まっている。
あまりに大袈裟な例えだが、きっとこの問いは一人を助けて世界を捨てるか、世界を救って一人を見殺しにするかという様な問いに近いのかもしれない。
なんの解決策もないのにエルを助ければ、天野の言う通り関係のない人間を殺す事に繋がるかもしれないのだから。
命の価値が平等なのかなんてことを聞かれればそれは俺の答えられる範疇にない程に高尚な話になるけれど、それでも一人の命と大勢の命を天秤にかけば、きっと重いのは大勢の命だ。
例えエルが俺にとってどれだけ大切な存在であってもその事実は。その認識は俺の中では覆らない。
だから逃げたんだ。そんな答えだから逃げようとしたんだ。
エルと出会う前のかつての自分の様に。
何もできやしないのに、それが正しいと思うからといって首を突っ込んでしまう自分が嫌いで。
嫌いだから。苦痛だらけだから。目の前の光景から目を背けようと。現実から目を背けようと必死になった。
そうしてきた時の様に逃げだそうとしたんだ。
エルを自ら失わせるような答えから逃げだしたかったんだ。
そしてその時と同じように、現実に追いつかれたんだ。
そうする事は辛い事だけど、それが正しいと思う事だから動くんだ。動こうとするんだ。
ああ、そうだ。エルを助ける事は間違っている。そんな事は考えたくないけれど、どうしようもなく間違っている。
だからここでエルを見捨てて大勢の無関係な人間の命を守る事が正しい事なんだと。
そう認識したから、剣を振るいながらもエルを天野に明け渡そうと心が促していた。
だけど今回は。今回だけはそこで終わりだった。
精霊加工工場を襲撃する直前に、エルと共に旅を続けるかエルから離れて工場に捕まっている精霊を助けるかと悩んでいた時の様な、自分の中でどちらも正しいと思っていたような事でもない。
迷いようもない。迷わせてくれない。明確にただ一つの正しいと思う事が提示されているのに。
後は否応無しにそこに突き進むしか脳がない。それが瀬戸栄治という人間の筈なのに。
今も尚、こうして躊躇い立ち止っていた。
損得勘定無しに背を押されながらも、それでも立ち止っていだ。
正しいけれどエルを失う道と。
どうしようもなく間違っているけれどエルを助けられるかもしれない道。
その分岐路の前で立ち止れていたんだ。
きっと初めて俺は立ち止れていたんだ。
……それはどうしてだろうと、そんな事を考えた。
そしてそれを考え始めれば、何が正しいのかなんて問いよりも遥かに簡単にその答えは導き出せた。
半殺しにされてでもエルを助けようとさせたあの強制力。俺の全てを埋め尽くす程に大きかった誇り。
それに匹敵する程に、俺の中でエルの存在が大きくなっていたんだ。
無茶をする俺に付いて来てくれて。
本当に辛かった時に側にいてくれて。
こんなどうしようもない奴を助けようとしてくれて。
いつだって俺に手を差し伸べてくれて。
そんな女の子の存在が、誇りで埋め尽くしていた俺の心に根付いていたんだ。
引き剥がせない程に。深く依存してしまっている様に。
エルという存在はどうしたって失えない程に、俺にとっては大きな存在になっていたんだ。
だから俺は分岐路に立っている。どちらの道にもまだ歩みは進められる。
かつて、エルを助ける為にシオンと動いた時にシオンから俺の発言に対してこんな言葉を向けられた。
まるでエルを助ける事が間違ってると思ったら助けない様な、そんな口振りだと。
そしてあの時俺はその言葉に頷いた。
相手がどんな奴だろうと。自分とどういう関係性を築いていようと、躊躇いはしても決断するんだと。
その場の俺はその現実を受け入れて、躊躇いに躊躇ってもその引き金を引くと。
間違いない。それが瀬戸栄治という人間の本質だ。それこそが自分自身で、そうまでしてでも自分が正しいと思える事に手を伸ばせるのが俺の誇りなんだ。
きっとシオンにそう語った瀬戸栄治なら、躊躇って躊躇って躊躇って。最終的には引き金を引いたのだろう。
それが俺という人間だ。それでこそ俺という人間なんだ。
「……」
だったらもう踏み躙ろう。
そんな自分は踏みにじろう。
自分の中の正しさを。
これまで俺を突き動かしてきた誇りを。
まだ確かに俺の中に根付いていた瀬戸栄治という人間を。無くなれば抜け殻になってしまう程に大きな瀬戸栄治という人間を構築するその核を。
全て、全て踏み躙ろう。
エルを救う。ただそれだけの為に。
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