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六章 君ガ為のカタストロフィ
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……どうするべきだ。どう動けばいい。
例えば目の前の強敵を退けるために最も有効な手段を選べと言われれば、それはエルの変化した大剣に切断力を付与することだろう。
少なくとも今の状態よりは致命傷を与えやすいと思う。
だけどそれはしなかった。それだけは選んではいけない選択肢だと思った。
別に俺が人を殺したくないからという理由ではない。当然人を殺したくなんてないがそういう事では断じて違う。
この世界の人間をエルの力で殺してはいけない。
ましてや直接エルを獲物として振るっている今のような状態だともっての他だ。
この世界はきっとエルにとっているべき世界だ。帰る場所と言って良いような世界なんだ。そうでなければならないんだ。
ならばその力でこの世界の人間を殺すような事があってはいけない。他ならぬエルの為に。それだけは駄目なんだ。
だが仮に刀身に切断力を付与したとしても、それで勝てるかどうかは別なのだろう。
「……ッ」
接近してきて放った一撃。素早くそして隙もない。そんな状態で放った薙ぎ払い。
それをギリギリの高さに跳んで回避される。
だけどそれでは終わらない。終わらせない
こちらが剣を振った事により発生した風が勢いよく逆巻き竜巻を発生させた。
天野を巻き込むように発生したその竜巻。だがそれが天野の元まで辿り着くまでのほんの一瞬の間に、こちらにカウンターで蹴りか何かを放とうとしていた天野が動きを変える。
自身の足元に結界を作りだし、それを蹴る事により後方に跳躍。俺の竜巻は天野の作りだした結界を破壊するだけに留まる。
多分今まで戦ってきた相手ならおそらくここで倒せていた。なぎ倒すか竜巻に巻き込ませるか。そうでなくても有効打になり得た筈だ。
だけどそのどちらも回避される。
「……ッ」
止まるな。立ち止るな。
竜巻できっと天野の視界からは俺が消えている。位置情報は把握されても俺の細かな動きは見えない筈だ。
だから今行動に移す。
足元に風の塊を瞬時に作成。それを踏み抜き竜巻に突っ込んだ。
全身に激痛が走る。だけど一瞬。それはたったの一瞬だ。その地点は一瞬で通り抜け、そこには何も残さない。
その全てを刀身に纏わせる。
そして刀身から風を放ち、天野へ向けて再加速。
竜巻による死角。自らの作りだした竜巻に自ら突入する自爆。そして俺の動体視力でも負いきれない速度。
意表を付く為にはきっと十分な条件。これなら躱せない。躱させない。躱させてたまるか。
「うおおおおおおおおおおおおおッ!」
そしてなんとか軌道修正しつつ天野の元へと辿り着き、速度全てを剣撃に乗せて振り下ろす。
「……ッ!」
だが刀身にが天野に到達する前に何かとぶつかる衝撃が両手に伝わってくる。
気が付けば目の前に何重もの結界が張り巡らされているのが一瞬見えた。
だけど一瞬だ。次の瞬間にはもうそんな物は存在しない。
破砕音と共に全てを叩き壊す。以前までならそれも適わなかったかもしれない。
だけど今なら。誠一達と特訓を重ねた今なら突破できる。
今度こそ一撃を叩き込める。
「……ッ!」
だがその一撃は天野へと到達しない。
目の前で起きたのは信じられない光景だ。
白刃取り。天野は必死な形相であの速度で放った剣を受け止めていた。
ふざけるなと、素直にそう思った。
あの速度の剣撃だ。少なくとも立場が逆なら間違いなくそんな手段では回避できない。アイラの太刀を受け止めた時の様に運が良かったとしても、運だけでは乗り切れない。だからそんな無茶苦茶があっていいのかと思った。
だけど考えてみれば布石はあった。あの結界だ。あの結界がほんの一瞬到達を遅れさせ、その威力を僅かながらに殺してくる。それでも俺には無理だ。
少なくとも天野の表情にも余裕は感じられない。つまりそれを止められたのは辛うじてという風に思えた。
「……問うぞ」
そして俺の攻撃を受け止めた天野から飛んできたのは反撃では無く言葉だった。
もしかすると他にも回避手段があるのに態々こちらを捕まえるために。捕まえて何かを告げるために天野は俺の剣を止めたのかもしれない。考えてみればこういう事をやってのける技量をもっている相手が、本当にこれ以外の手段が取れなかったのかと言われるとそれは違うのではないかと思う。
だけどそんな終わった事の事情はどうでもよくて、天野が言おうとしている事もどうでもよくて。
ただ今は受け止められて動かない剣を動かすために必死に力を入れながら、必死に思考を働かせて打開の策を考える。
打開の策を考える。打開の策を考える。打開の策を考える。
打開の策を考えていた筈だった。
「お前は今自分のやっている事が、本当に正しいとでも思っているのか……ッ!?」
考えていた筈だったんだ。
天野がこちらの力を必死の形相で抑え込みながらも投げかけた問い。
その問いに思考回路を持っていかれた。
そして天野の言葉は続く。今までの雰囲気が僅かに変化し、声を少し荒立たせながら。
「この場を切り抜けてどうする。俺を倒してその先どうする! 考えるのか? いつ暴走するのかも分からないリスクを抱えたまま。なんの対策の目途もないままこの先の事でも考えるのか!?」
それはまさに俺のやろうとしていた事だ。
エルを連れてかえる。打開策なんて何もない。それでも一旦落ち着いて考えようと。コーヒーでも淹れて今後の事を考えようと。そんな俺の思い描いた今後の事。
思い描いた現実逃避。
「ふざけるな……その精霊は殺すぞ」
今突きつけられているのは正論で。
「無関係の人間を殺すぞ!」
どうしようもなく現実の話で。
目を背けては行けなかった筈の事で。
そこまで考えたら、もう訳が分からなくなった。
「……るせぇ」
色んな事が分からなくなって。思考が纏まらなくなって。
「うるせええええええええええええええええええええええええッ!」
その全てから逃避するように。答えを先延ばしにして。現実から逃避して。
そして精霊術を発動させた。
例えば目の前の強敵を退けるために最も有効な手段を選べと言われれば、それはエルの変化した大剣に切断力を付与することだろう。
少なくとも今の状態よりは致命傷を与えやすいと思う。
だけどそれはしなかった。それだけは選んではいけない選択肢だと思った。
別に俺が人を殺したくないからという理由ではない。当然人を殺したくなんてないがそういう事では断じて違う。
この世界の人間をエルの力で殺してはいけない。
ましてや直接エルを獲物として振るっている今のような状態だともっての他だ。
この世界はきっとエルにとっているべき世界だ。帰る場所と言って良いような世界なんだ。そうでなければならないんだ。
ならばその力でこの世界の人間を殺すような事があってはいけない。他ならぬエルの為に。それだけは駄目なんだ。
だが仮に刀身に切断力を付与したとしても、それで勝てるかどうかは別なのだろう。
「……ッ」
接近してきて放った一撃。素早くそして隙もない。そんな状態で放った薙ぎ払い。
それをギリギリの高さに跳んで回避される。
だけどそれでは終わらない。終わらせない
こちらが剣を振った事により発生した風が勢いよく逆巻き竜巻を発生させた。
天野を巻き込むように発生したその竜巻。だがそれが天野の元まで辿り着くまでのほんの一瞬の間に、こちらにカウンターで蹴りか何かを放とうとしていた天野が動きを変える。
自身の足元に結界を作りだし、それを蹴る事により後方に跳躍。俺の竜巻は天野の作りだした結界を破壊するだけに留まる。
多分今まで戦ってきた相手ならおそらくここで倒せていた。なぎ倒すか竜巻に巻き込ませるか。そうでなくても有効打になり得た筈だ。
だけどそのどちらも回避される。
「……ッ」
止まるな。立ち止るな。
竜巻できっと天野の視界からは俺が消えている。位置情報は把握されても俺の細かな動きは見えない筈だ。
だから今行動に移す。
足元に風の塊を瞬時に作成。それを踏み抜き竜巻に突っ込んだ。
全身に激痛が走る。だけど一瞬。それはたったの一瞬だ。その地点は一瞬で通り抜け、そこには何も残さない。
その全てを刀身に纏わせる。
そして刀身から風を放ち、天野へ向けて再加速。
竜巻による死角。自らの作りだした竜巻に自ら突入する自爆。そして俺の動体視力でも負いきれない速度。
意表を付く為にはきっと十分な条件。これなら躱せない。躱させない。躱させてたまるか。
「うおおおおおおおおおおおおおッ!」
そしてなんとか軌道修正しつつ天野の元へと辿り着き、速度全てを剣撃に乗せて振り下ろす。
「……ッ!」
だが刀身にが天野に到達する前に何かとぶつかる衝撃が両手に伝わってくる。
気が付けば目の前に何重もの結界が張り巡らされているのが一瞬見えた。
だけど一瞬だ。次の瞬間にはもうそんな物は存在しない。
破砕音と共に全てを叩き壊す。以前までならそれも適わなかったかもしれない。
だけど今なら。誠一達と特訓を重ねた今なら突破できる。
今度こそ一撃を叩き込める。
「……ッ!」
だがその一撃は天野へと到達しない。
目の前で起きたのは信じられない光景だ。
白刃取り。天野は必死な形相であの速度で放った剣を受け止めていた。
ふざけるなと、素直にそう思った。
あの速度の剣撃だ。少なくとも立場が逆なら間違いなくそんな手段では回避できない。アイラの太刀を受け止めた時の様に運が良かったとしても、運だけでは乗り切れない。だからそんな無茶苦茶があっていいのかと思った。
だけど考えてみれば布石はあった。あの結界だ。あの結界がほんの一瞬到達を遅れさせ、その威力を僅かながらに殺してくる。それでも俺には無理だ。
少なくとも天野の表情にも余裕は感じられない。つまりそれを止められたのは辛うじてという風に思えた。
「……問うぞ」
そして俺の攻撃を受け止めた天野から飛んできたのは反撃では無く言葉だった。
もしかすると他にも回避手段があるのに態々こちらを捕まえるために。捕まえて何かを告げるために天野は俺の剣を止めたのかもしれない。考えてみればこういう事をやってのける技量をもっている相手が、本当にこれ以外の手段が取れなかったのかと言われるとそれは違うのではないかと思う。
だけどそんな終わった事の事情はどうでもよくて、天野が言おうとしている事もどうでもよくて。
ただ今は受け止められて動かない剣を動かすために必死に力を入れながら、必死に思考を働かせて打開の策を考える。
打開の策を考える。打開の策を考える。打開の策を考える。
打開の策を考えていた筈だった。
「お前は今自分のやっている事が、本当に正しいとでも思っているのか……ッ!?」
考えていた筈だったんだ。
天野がこちらの力を必死の形相で抑え込みながらも投げかけた問い。
その問いに思考回路を持っていかれた。
そして天野の言葉は続く。今までの雰囲気が僅かに変化し、声を少し荒立たせながら。
「この場を切り抜けてどうする。俺を倒してその先どうする! 考えるのか? いつ暴走するのかも分からないリスクを抱えたまま。なんの対策の目途もないままこの先の事でも考えるのか!?」
それはまさに俺のやろうとしていた事だ。
エルを連れてかえる。打開策なんて何もない。それでも一旦落ち着いて考えようと。コーヒーでも淹れて今後の事を考えようと。そんな俺の思い描いた今後の事。
思い描いた現実逃避。
「ふざけるな……その精霊は殺すぞ」
今突きつけられているのは正論で。
「無関係の人間を殺すぞ!」
どうしようもなく現実の話で。
目を背けては行けなかった筈の事で。
そこまで考えたら、もう訳が分からなくなった。
「……るせぇ」
色んな事が分からなくなって。思考が纏まらなくなって。
「うるせええええええええええええええええええええええええッ!」
その全てから逃避するように。答えを先延ばしにして。現実から逃避して。
そして精霊術を発動させた。
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