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六章 君ガ為のカタストロフィ
ex 無謀と希望
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(さて……どうするよこの状況)
天野を止める為に動きながら、この状況について土御門誠一は改めてそう考える。
この状況を打開する事が無謀かどうかと言われれば、そうではないだろう。まだどうしようもないと確定したわけでは無い。故にまだそこには希望が残されている。
だけどそれがいかに希薄で、無謀に近い事なのかは嫌というほど分かる。
まずは自身の後方で親友が必死に治療している精霊についてだ。
エルの身に起きている異変を何とかする事がどれだけ難しい事かは未だに精霊と戦い続けている身からすればよく分かる。
精霊に関する研究が具体的にどこまで進んでいるのかは分からないが、それがこのタイミングで偶然完成でもしない限りこちらからエルを元に戻すのは難しいだろう。
もしくはエル自身が自然にその状態に陥る今の状態から脱するか。
それもまた難しい事だ。
つまりは現状都合のいい奇跡を待たざるを得ない。
そして眼前。視界の先。
天野宗谷を押さえるという事。
これに関してはより鮮明に無謀に近い事だと脳が訴えている。
押さえるとは言ったが実際問題エルを回復させる時間を稼ぐだけではなく、天野を一時的に戦闘不能にまで追い込まなければ同じことの繰り返しになる。
だがそれが可能かと言えば、こちらも同じように奇跡でも起きない限りは無理だというべきなのかも知れない。
土御門誠一は魔術師の中では天才に部類される存在だ。
魔術師を多く排出する魔術の名門である土御門家に生まれただけあって魔術の素質は十分。そこにかつて茜と共に行っていた精霊を救うための戦いに望むために必死に詰んだ訓練の結果、同年代の魔術師の中では魔術、体術共に非常に高い実力を誇っている。
だけどそんな彼の実力もあくまで同年代の中ではという話。魔術師全体で見れば上位20%にギリギリ食い込めているかどうかの実力でしかない。
それでは防衛省精霊対策局という枠組みの頂点に君臨する男と戦うには役不足にも程がある。
そしてその頂点と現在相対している様に見える宮村茜もまた、天野宗也と戦うにはきっと役不足だ。
宮村茜は魔術という分野において神童と呼ばれていた時期があった程の天才。誠一など比にならない程の天才の中の天才だ。
単純な才覚だけで言えば天野宗也に匹敵しているだろう。
故に彼女の実力は最高峰だ。少なくともこの世界において同年代の人間が魔術で彼女を倒す事などできないであろうと誠一は思う。
そういう実力だからこそ、精霊を安楽死させるという行動を取ることができた。
超高難易度の術式。優れた能力を持つ魔術師が術式を組み上げるまでの時間を他の人間に稼いでもらったとしても、発動した術が効力を示すのは精々二割程度。五回に一度程度となる様なそんな術式。
それを彼女は発動さえさせれば100パーセント効力を示す。遂行できる。
そうするだけの能力がある。
だから並大抵の魔術師では茜に歯が立たない。少なくとも誠一では歯が立たない。
そしてそんな茜でも天野には勝てない。
天野と茜の魔術の才能は同程度だと思う。だけどその上に重なるのは経験の差だ。
その差があまりにも大きすぎる。
一方は実践経験が豊富な最強の魔術師。
一方はまともに実践をしたことがない神童。
……そうだ。茜にはまともな実践経験がない。
初めて精霊と戦った時に、茜は精霊と戦えなくなった。
そこからはもうまともとは言えない戦い方しかしていない。
故にあるのは訓練で培った実力。彼女の二つ名が神童から問題児に落ちる前の訓練の経験。
それしかない。
そして下手をすれば魔術使う事そのものに、一年以上のブランクがある。
だから、そんな状態である程度天野と戦えているのが異常なのだ。
そしてそれが異常の上限。
次の瞬間、刀を拳に押し返されて茜がこちらに飛ばされてくる。
そしてアスファルトを滑るように態勢を整えながら、茜は誠一の前で再び刀を構える。
だが既に。誠一が栄治と話を付けてこうして前線に躍り出てきたその時には、もう茜は随分と疲弊していた。肩で息をしている。
涼しい顔では無いにしても栄治との戦いと茜との攻防の後でもさほどダメージを追っている様子はない天野と対比すれば、さらに戦況は良くない方向に傾いてしまっている事が分かる。
そしてそこに自分が加わった所で、その傾きを変えられるかといえば難しい。
……それでも。
「……茜。まだやれるか?」
「……もちろん」
「……だったら頼むわ。俺も全力で頑張る」
「……頼りにしてるよ、誠一君」
それでもそれが答えだ。
それが誠一の答えであり茜の答えなのだ。
「退け、宮村。土御門弟。できるだけ身内で争う様な真似はしたくない」
だからそう言って視界の先で拳を構える天野の言葉に対する答えは一つだ。
「「断る!」」
そう言って今度は二人同時に動きだした。
誰の為に。
(……絶対助ける!)
後ろにいる彼らの為に。
天野を止める為に動きながら、この状況について土御門誠一は改めてそう考える。
この状況を打開する事が無謀かどうかと言われれば、そうではないだろう。まだどうしようもないと確定したわけでは無い。故にまだそこには希望が残されている。
だけどそれがいかに希薄で、無謀に近い事なのかは嫌というほど分かる。
まずは自身の後方で親友が必死に治療している精霊についてだ。
エルの身に起きている異変を何とかする事がどれだけ難しい事かは未だに精霊と戦い続けている身からすればよく分かる。
精霊に関する研究が具体的にどこまで進んでいるのかは分からないが、それがこのタイミングで偶然完成でもしない限りこちらからエルを元に戻すのは難しいだろう。
もしくはエル自身が自然にその状態に陥る今の状態から脱するか。
それもまた難しい事だ。
つまりは現状都合のいい奇跡を待たざるを得ない。
そして眼前。視界の先。
天野宗谷を押さえるという事。
これに関してはより鮮明に無謀に近い事だと脳が訴えている。
押さえるとは言ったが実際問題エルを回復させる時間を稼ぐだけではなく、天野を一時的に戦闘不能にまで追い込まなければ同じことの繰り返しになる。
だがそれが可能かと言えば、こちらも同じように奇跡でも起きない限りは無理だというべきなのかも知れない。
土御門誠一は魔術師の中では天才に部類される存在だ。
魔術師を多く排出する魔術の名門である土御門家に生まれただけあって魔術の素質は十分。そこにかつて茜と共に行っていた精霊を救うための戦いに望むために必死に詰んだ訓練の結果、同年代の魔術師の中では魔術、体術共に非常に高い実力を誇っている。
だけどそんな彼の実力もあくまで同年代の中ではという話。魔術師全体で見れば上位20%にギリギリ食い込めているかどうかの実力でしかない。
それでは防衛省精霊対策局という枠組みの頂点に君臨する男と戦うには役不足にも程がある。
そしてその頂点と現在相対している様に見える宮村茜もまた、天野宗也と戦うにはきっと役不足だ。
宮村茜は魔術という分野において神童と呼ばれていた時期があった程の天才。誠一など比にならない程の天才の中の天才だ。
単純な才覚だけで言えば天野宗也に匹敵しているだろう。
故に彼女の実力は最高峰だ。少なくともこの世界において同年代の人間が魔術で彼女を倒す事などできないであろうと誠一は思う。
そういう実力だからこそ、精霊を安楽死させるという行動を取ることができた。
超高難易度の術式。優れた能力を持つ魔術師が術式を組み上げるまでの時間を他の人間に稼いでもらったとしても、発動した術が効力を示すのは精々二割程度。五回に一度程度となる様なそんな術式。
それを彼女は発動さえさせれば100パーセント効力を示す。遂行できる。
そうするだけの能力がある。
だから並大抵の魔術師では茜に歯が立たない。少なくとも誠一では歯が立たない。
そしてそんな茜でも天野には勝てない。
天野と茜の魔術の才能は同程度だと思う。だけどその上に重なるのは経験の差だ。
その差があまりにも大きすぎる。
一方は実践経験が豊富な最強の魔術師。
一方はまともに実践をしたことがない神童。
……そうだ。茜にはまともな実践経験がない。
初めて精霊と戦った時に、茜は精霊と戦えなくなった。
そこからはもうまともとは言えない戦い方しかしていない。
故にあるのは訓練で培った実力。彼女の二つ名が神童から問題児に落ちる前の訓練の経験。
それしかない。
そして下手をすれば魔術使う事そのものに、一年以上のブランクがある。
だから、そんな状態である程度天野と戦えているのが異常なのだ。
そしてそれが異常の上限。
次の瞬間、刀を拳に押し返されて茜がこちらに飛ばされてくる。
そしてアスファルトを滑るように態勢を整えながら、茜は誠一の前で再び刀を構える。
だが既に。誠一が栄治と話を付けてこうして前線に躍り出てきたその時には、もう茜は随分と疲弊していた。肩で息をしている。
涼しい顔では無いにしても栄治との戦いと茜との攻防の後でもさほどダメージを追っている様子はない天野と対比すれば、さらに戦況は良くない方向に傾いてしまっている事が分かる。
そしてそこに自分が加わった所で、その傾きを変えられるかといえば難しい。
……それでも。
「……茜。まだやれるか?」
「……もちろん」
「……だったら頼むわ。俺も全力で頑張る」
「……頼りにしてるよ、誠一君」
それでもそれが答えだ。
それが誠一の答えであり茜の答えなのだ。
「退け、宮村。土御門弟。できるだけ身内で争う様な真似はしたくない」
だからそう言って視界の先で拳を構える天野の言葉に対する答えは一つだ。
「「断る!」」
そう言って今度は二人同時に動きだした。
誰の為に。
(……絶対助ける!)
後ろにいる彼らの為に。
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