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六章 君ガ為のカタストロフィ
42 イルミナティ Ⅲ
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「約束……?」
「ああ、約束だ。かつてこの世界に存在した精霊と人類が結んだ、世界に抗うための約束だよ」
「ちょっと待って!」
宮村が男の言葉を一度止めさせる。
「この世界に精霊がいたってどういう事!? それに約束って――」
「大昔の話だ」
男は宮村の言葉に答える様にそう前置きしてから言葉を続ける。
「かつて精霊はこの世界で人間と共存していた。互いが互いを尊重しあい、そこに争いも生まれない。そんな時代が確かにあった……まさしく理想の世界。いわば楽園だよ」
「……ッ!?」
その瞬間、脳裏に一つの言葉が過った。
絶界の楽園。
俺達がずっと目指していた理想郷。精霊が人間に怯えなくても済む、精霊がまともに生きる事ができる世界。
そんな世界は結果的に存在しなかった。しなかったから、この世界に連れてきた皆は死んでしまった。
だけど考えてみれば人為的に精霊を暴走させる魔術がなければこの世界はまさしく精霊の理想郷になり得て、そして男が語った世界はまさしく精霊にとっての理想郷そのもので。
そしてその理想郷を口にした男は言葉を続ける。
「だが平和な世界にも影はある。人間通しの争いがちっぽけな物に見える程の外敵がその時代には存在していた」
「外敵?」
「それこそが世界の意思だよ。もっとも世界が相手となればそれは外敵ではなく内敵とでも言うべきなのかもしれんが……とにかく世界の意思は人間に牙を向き始めた」
「牙を向くって、それだとまるでその世界の意思ってのが殺しにかかってくるみたいに聞こえるんだが……なんだ、世界の意思って奴は実体でもあるのか?」
「正解だ、土御門誠一君。察しが良くて助かる」
男はそう言うが、問いかけた誠一は半信半疑という風に言う。
「……自分で言っておいてなんだが、そんな人間を殺しにかかってくる様な何かがいるとかイメージ沸かねえんだが、本当の話なんだろうな?」
……確かにあまりイメージの沸く話ではない。
世界に意思がある。そんな無茶苦茶な事も受け入れたし、男が語った話も俺にとってはもうあるかも知れない事の範疇だ。だから俺はひとまず男の話をあるかもしれないと受け入れる。
だがその意思に実態があって人を殺しているなんて事が信じがたい事である事には間違いない訳で、それ故に流石に浮かんでくる光景がフィクション染みてしまう。
それに関して宮村も半信半疑で聞いているという事は表情で感じられた。
だが男はそんな俺達にあっさりと答える。
「本当だ。なんなら後で証拠を見せよう。その位ならいくらでもキミ達に開示できる」
「証拠……」
「そう、証拠だ。世界の意思により生み出された存在……我々は単純にエネミーと呼んでいる存在をキミ達に見せる事位は容易い」
だから、と男は言う。
「流石にこの話を聞いて受け入れがたい気持ちになるのは理解できる。多分立場が逆なら私もそう簡単に信用したりはしない。だが今はそういう事だという認識を持って話を聞いてくれれば助かる」
そしてその言葉に付け加えるように男は言う。
「もっともこんな話は仮に嘘だとすればどうしようもなくくだらない嘘だ。そんなくだらない嘘を付く為に、黙っていればまず間違いなく対策局に補足される事のない我らがキミ達の前に現れるわけがないという事も考慮してほしい」
「……一理あるか」
誠一は一連の話を受け入れる様にそう言う。
……確かにその通りだ。
コイツが今まで語った事。仮にそれが嘘だったとすれば、確かにそんなリスクを犯してまで付く嘘では無い。考えれば考える程に、コイツらが元から持っていた存在が掴めないというアドバンテージは全ての言葉に一応の信憑性を上乗せしていく。
「じゃあとりあえずそういう事にしておく……で、それが精霊の暴走とどう繋がる。アンタが語ってきた話が本当なのだとすれば、その世界の意思という奴に抗う為に不可抗力で精霊を暴走させているんだろ」
誠一の言葉に一拍空けてから男は言う。
「相手にするのは世界そのものだ。当然強大な相手だよ。まともにぶつかって勝てる相手じゃないんだ。だから……抑え込まないといけない。だから僕らの祖先は世界の意思に抗う魔術を考案し、世界全体を覆い隠す程の大規模な魔術を展開した。その結果少なくとも対策局の様な組織の目ですら届かない範囲で管理できる位にはエネミーを抑え込む事に成功している」
「ならどうして精霊を暴走させる必要があった! 解決したんだろうが!」
俺がそう言うと、男は一拍空けてから静かに答える。
「精霊もまた、世界から生まれた存在だよ」
「……ッ!?」
「同じように精霊もこの世界に生まれてくる事はなくなった。そして世界を覆うように展開された術式は、新たにこの世界に辿り着いた精霊にも影響を与える。術式を解析した所によればエネミーや精霊に影響を齎すウイルスの様な物が今現在空気中に漂っている訳だ」
そこで誠一の兄貴の言葉と繋がった。
魔術的な因子が組み込まれた自然界で発生しないウイルスの様な物。それがまさしくその魔術から生み出される物なんだ。
「それをそのエネミーっていうのだけに効果があるようにできないの?」
「方法はある」
男がそう答えた時、一瞬それをなんとかする為になんらかの形で俺達の力がいるのかと思った。
それ故に俺達に近づいてきたのだと。話の初めに男が言ったエルを助ける為に力を貸してほしいというのはそういう事だと、そう思った。
だけど男の次の言葉はそれらを軒並み否定していく。
「だがそんな事はできないよ」
「ああ、約束だ。かつてこの世界に存在した精霊と人類が結んだ、世界に抗うための約束だよ」
「ちょっと待って!」
宮村が男の言葉を一度止めさせる。
「この世界に精霊がいたってどういう事!? それに約束って――」
「大昔の話だ」
男は宮村の言葉に答える様にそう前置きしてから言葉を続ける。
「かつて精霊はこの世界で人間と共存していた。互いが互いを尊重しあい、そこに争いも生まれない。そんな時代が確かにあった……まさしく理想の世界。いわば楽園だよ」
「……ッ!?」
その瞬間、脳裏に一つの言葉が過った。
絶界の楽園。
俺達がずっと目指していた理想郷。精霊が人間に怯えなくても済む、精霊がまともに生きる事ができる世界。
そんな世界は結果的に存在しなかった。しなかったから、この世界に連れてきた皆は死んでしまった。
だけど考えてみれば人為的に精霊を暴走させる魔術がなければこの世界はまさしく精霊の理想郷になり得て、そして男が語った世界はまさしく精霊にとっての理想郷そのもので。
そしてその理想郷を口にした男は言葉を続ける。
「だが平和な世界にも影はある。人間通しの争いがちっぽけな物に見える程の外敵がその時代には存在していた」
「外敵?」
「それこそが世界の意思だよ。もっとも世界が相手となればそれは外敵ではなく内敵とでも言うべきなのかもしれんが……とにかく世界の意思は人間に牙を向き始めた」
「牙を向くって、それだとまるでその世界の意思ってのが殺しにかかってくるみたいに聞こえるんだが……なんだ、世界の意思って奴は実体でもあるのか?」
「正解だ、土御門誠一君。察しが良くて助かる」
男はそう言うが、問いかけた誠一は半信半疑という風に言う。
「……自分で言っておいてなんだが、そんな人間を殺しにかかってくる様な何かがいるとかイメージ沸かねえんだが、本当の話なんだろうな?」
……確かにあまりイメージの沸く話ではない。
世界に意思がある。そんな無茶苦茶な事も受け入れたし、男が語った話も俺にとってはもうあるかも知れない事の範疇だ。だから俺はひとまず男の話をあるかもしれないと受け入れる。
だがその意思に実態があって人を殺しているなんて事が信じがたい事である事には間違いない訳で、それ故に流石に浮かんでくる光景がフィクション染みてしまう。
それに関して宮村も半信半疑で聞いているという事は表情で感じられた。
だが男はそんな俺達にあっさりと答える。
「本当だ。なんなら後で証拠を見せよう。その位ならいくらでもキミ達に開示できる」
「証拠……」
「そう、証拠だ。世界の意思により生み出された存在……我々は単純にエネミーと呼んでいる存在をキミ達に見せる事位は容易い」
だから、と男は言う。
「流石にこの話を聞いて受け入れがたい気持ちになるのは理解できる。多分立場が逆なら私もそう簡単に信用したりはしない。だが今はそういう事だという認識を持って話を聞いてくれれば助かる」
そしてその言葉に付け加えるように男は言う。
「もっともこんな話は仮に嘘だとすればどうしようもなくくだらない嘘だ。そんなくだらない嘘を付く為に、黙っていればまず間違いなく対策局に補足される事のない我らがキミ達の前に現れるわけがないという事も考慮してほしい」
「……一理あるか」
誠一は一連の話を受け入れる様にそう言う。
……確かにその通りだ。
コイツが今まで語った事。仮にそれが嘘だったとすれば、確かにそんなリスクを犯してまで付く嘘では無い。考えれば考える程に、コイツらが元から持っていた存在が掴めないというアドバンテージは全ての言葉に一応の信憑性を上乗せしていく。
「じゃあとりあえずそういう事にしておく……で、それが精霊の暴走とどう繋がる。アンタが語ってきた話が本当なのだとすれば、その世界の意思という奴に抗う為に不可抗力で精霊を暴走させているんだろ」
誠一の言葉に一拍空けてから男は言う。
「相手にするのは世界そのものだ。当然強大な相手だよ。まともにぶつかって勝てる相手じゃないんだ。だから……抑え込まないといけない。だから僕らの祖先は世界の意思に抗う魔術を考案し、世界全体を覆い隠す程の大規模な魔術を展開した。その結果少なくとも対策局の様な組織の目ですら届かない範囲で管理できる位にはエネミーを抑え込む事に成功している」
「ならどうして精霊を暴走させる必要があった! 解決したんだろうが!」
俺がそう言うと、男は一拍空けてから静かに答える。
「精霊もまた、世界から生まれた存在だよ」
「……ッ!?」
「同じように精霊もこの世界に生まれてくる事はなくなった。そして世界を覆うように展開された術式は、新たにこの世界に辿り着いた精霊にも影響を与える。術式を解析した所によればエネミーや精霊に影響を齎すウイルスの様な物が今現在空気中に漂っている訳だ」
そこで誠一の兄貴の言葉と繋がった。
魔術的な因子が組み込まれた自然界で発生しないウイルスの様な物。それがまさしくその魔術から生み出される物なんだ。
「それをそのエネミーっていうのだけに効果があるようにできないの?」
「方法はある」
男がそう答えた時、一瞬それをなんとかする為になんらかの形で俺達の力がいるのかと思った。
それ故に俺達に近づいてきたのだと。話の初めに男が言ったエルを助ける為に力を貸してほしいというのはそういう事だと、そう思った。
だけど男の次の言葉はそれらを軒並み否定していく。
「だがそんな事はできないよ」
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