人の身にして精霊王

山外大河

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六章 君ガ為のカタストロフィ

58 芝居 下

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「……ッ!?」

 荒川さんの足元に現れたのは巨大な魔法陣だ。
 そしてそれが魔法陣だと認識した瞬間、荒川さんを中心に箱状の結界が展開され、その中の荒川さんはまるで重力に押しつぶされるように体制が低くなる。

「立ち止んな行け栄治! 長くは持たねえぞ!」

 誠一が荒い息でそう叫んだことにより、俺は意識を出入り口へと持っていく。
 今は荒川さんに有効打を与えるチャンスだ。だけど違う。荒川さんと戦うのは目的までの過程にすぎない。
 やるべきことはこの場を突破する事。

「ああ、後は任せた!」

 短くそう答えて。またいずれ会う時までの最後の言葉としてそう答えて。俺は荒川さんを避けるように出入り口まで走りだす。
 だがまだ壁はいる。荒川さんが連れてきた魔術師が……多分エルを刀にしていない時の俺に匹敵するかそれ以上の実力を持つであろう魔術師が、まだ目の前に三人いる。

 だけどたかが三人だ。そして内一人はまだ風の防壁に閉じ込められたまま脱出で来ていない。
 つまりは実質二人。
 同時に攻撃をを喰らった所で。その全てを無視した所で……そんな事では止まらない。
 止められるようならこの世界に帰ってきていない。
 だからこのまま突っ込め!
 風の塊を作りだして踏み抜き、正面入り口に向けて加速。
 だがそれを阻むように次の瞬間目の前に黄色の結界の壁が展開され、入り口を塞ぐように移動してきたアサルトライフルを手にした魔術師がその結界に呪符を張りつけた。
 直後結界に大きな亀裂が勢いよく走り、代わりにこちらの勢いを殺して押し返す程の衝撃波が呪符が張りつけた結界から放たれる。

 おそらくあの結界は攻撃を任意の方向に威力を底上げして任意の方向に弾き返す様な、そういう術式。訓練でそういう術がある事だけは頭に入れている。
 その術だった場合、使用したのが天野や宮村。荒川さんクラスの術者であれば攻撃を弾き返される可能性はあるが、そうでなければ確実に破壊できる自信がある。故に本来の使用法で使えばただの結界にすぎない。
 故に元からその狙いだったのか、それに気づいた咄嗟のフォローだったのかは分からないが、その選択は多分正解だ。結界をギリギリ破壊しない程度に調整された威力だったであろう呪符による術式は、その結界が放てる最大出力の攻撃を放たせる事に成功している。
 故に俺の勢いは激痛と共に殺される。

 ダメージは問題ない。死ぬほど痛い程度だ。
 両腕も両足も無事。それさえ無事なら大丈夫だ。出入り口への到達が僅かに遅れる事以外に支障はない。
 だがその僅かな時間で戦局は動く。
 直後、失速しながらも刀を振るい目の前の罅だらけの結界を破壊した瞬間、後方からも結界が砕ける音がした。
 後ろで何が起きたのかを理解するのは容易だ。誠一の張った結界が砕かれた。俺を止める為に荒川圭吾が再び動き出した。
 勢いを殺され、更に結界を砕く際に生まれる僅かな時間。それが合わされば荒川さんに止められる可能性は十分にある。つまりは十分すぎる時間を稼がれてしまったわけだ。
 そして同時に一人を閉じ込めていた風の防壁が破られたのが分かった。今突破できなければ荒川さんが自由になっている上に、厄介な敵が一人増える。
 だけど、もう荒川さんとその魔術師は意識から外した。
 大丈夫だ。
 なにせ俺の後ろには土御門誠一がいる。
 だから……目の前の敵を突破する……考えるのはそれだけでいい!

「「っらああああああああああッ!」」

 叫び声が重なった。
 そして後方から天野さんの攻撃は無く、風の防壁を脱出した魔術師の方からは銃弾が結界に阻まれるような金属音が聞こえる。
 その金属音と同時に一閃。結界を壊されるまでの僅かな時間で臨戦態勢を整えた魔術師達の攻撃を掻い潜り薙ぎ払った。
 そして間髪空けずに全速力で部屋の外へと跳び出し、直後に体を捻って後ろを向き、刀を全力で振るい出入り口を風の防壁で塞ぐ。
 その防壁越しに見えるのは、折れた片腕をぶら下げて構えを取る誠一。

「……ありがとう、誠一」

 改めて本人にそれを告げるのはもっと先の事になるけれど、それでもそういう言葉を口にして、足元に風の塊を作りだした。
 それを踏み抜き加速。そんなスタートで切りだし、部屋の外へと抜けて今まで来た道を全速力で戻り始めた。
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