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七章 白と黒の追跡者
9 思わぬ報酬
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その向けられた視線に少しだけ目頭が熱くなる。
そしてよく見れば見たことのある顔が何人もそこに居る。そして彼女達は皆俺に対する視線の向け方が他の精霊とは違っている。
……だが逆を言えばそれ以外の全員が向けてくる視線は本当に苦しい物で、ようやく向けてもらえたある程度まともな視線から得た感動をぶち壊してくる。
……それでも、他の精霊は他の精霊で違和感があった。
向けられる視線は初めてエルと出たった時や、精霊加工工場の地下で向けられた視線とは僅かに違う。
恐怖もある。怒りもある。嫌悪感と敵意に塗れた視線である事には間違いないけれど、多くの精霊はそれと同時に困惑しているように思えた。
先の森の入口では精霊が俺に対してそんな困惑を抱く前に、その矛先はどちらかといえばレベッカへと向いていたわけで、精霊から向けられる視線としてはこのパターンはこれが初めてなのかもしれない。
「うん、みんな良い感じに混乱してるね」
「良い感じって……どの辺が良い感じなんですか」
「敵意しか向けないっていうハードルをもう皆超えてくれているって事よ。良かったわね。アンタがやった善行が此処に来てアンタの為に身を結んでくれている」
「善行? 俺の為に? 一体何を言って……」
「……なるほど、そういう事ですか」
エルは答えに辿りついたのか、手を口元に添えながらそう口にする。
「……エル、つまりどういう事なんだ?」
「多分、普通の精霊とはもう微妙に人間に対する印象が変わってるんですよ」
「印象が変わる……んなもんそう簡単に変わるわけが――」
「そうね。簡単に変わるもんじゃないと思うわ」
レベッカが俺の言葉を遮ってそう言った後、俺にこう問いかける。
「今は私がいるし。それになにより精霊加工工場から精霊を救いだすのは簡単じゃなかったでしょ?」
「……そういう事か」
そこまで言われてこの異質な視線の意味を理解する。
例えば精霊加工工場では、本来人間の隣りにいる筈の無いエルの存在が最低限度の信頼度を勝ち取るきっかけとなった。
精霊がまともな自我を持って人間の味方をしている……それはきっと精霊の感情を揺さぶるには十分な事で、そして今その役割をエルだけでなく、この場所で顔の聞くレベッカが担っている。これは大きい。
だけど精霊達に精神的な余裕が無かった精霊加工工場の時と違い、人間の手を取る必要がない状況だ。それだけではまだ弱い。
故にこの状況を作り出しているのは。そして先の戦闘が止まってくれた理由は他でもない。俺に他の精霊とは違う視線を向けてくれる、あの時助けた精霊達だ。
その真意が伝わっているかはともかく、人間に救われた精霊が大勢いる。そしてその事実を知ってから各々がある程度その裏を考察するだけの時間もある。
……役満の如くこれだけ揃ってくれれば、向けられる視線を僅かに変えるだけの力があったんだ。
「まあまだ色々と入口に立っているだけで、アンタの事を受け入れてもらうにはまだ一押しも二押しもしないといけないけどね……というわけで押してみますか」
レベッカはそう言ってこちらに集まる視線の主達に向かって言う。
「みんな集合! 色々言いたい事いっぱいあるだろうけど、できるだけの説明するからとにかく集合!」
レベッカの呼びかけを聞いた精霊たちは近くの精霊と顔を合わせつつも、俺たちの方に向かって集まってくる。
……中には明らかに警戒をしておかなければいけなさそうな雰囲気の精霊だっている。
「……エイジさん」
俺の手を握るエルが確認するように俺に言う。
「最悪の場合はエイジさんのタイミングで動いてください」
「……ああ」
俺達が最悪の事態の打ち合わせをしていると、少し不満そうにレベッカが言う。
「逃げる算段? まあ確かに絶対大丈夫だとは言えないけど少しは信頼してよ。まとめてみせるからさ」
そしてやがて俺達の周囲に集まった精霊達に対する、此処にいる人間に着いての説明回……もとい演説の様な何かが始まった。
そのやり取りを大雑把に纏めるならば、レベッカが以前から此処の精霊に話していたらしいこの世界に連れてきたまともな人間、及びハスカ達が話していた精霊加工工場から精霊を救いだした人間が俺だという事。
そして流れで俺とエルの口から、この森に足を踏み入れた理由の説明。
そんな事を俺達は……主にレベッカが精霊達へ説明をした。
当然反発するような声は上がった。だがそれは声だけで終わり、更に言えばあえて特筆するのが反発の声が上がった事になる程度には、精霊達に広がっていた感情は反発よりも困惑の方が多いように思えた。
……つまりは少なくとも俺が此処にいる理由に関して軽い疑心暗鬼に陥っている程度でいられる位にはこちらに信用を向けられていたんだ。それはきっとレベッカやハスカ達のおかげで。
だからそんな説明が終わった後、精霊達は大きな警戒を俺に向けながらも再び散っていった。
……つまりはレベッカの意向を無視して強制的に追いだすもしくは殺しに掛かってくる様な真似をしてきた精霊は、少なくとも今この場に集まった300人近い精霊の中にはいなかったのだ。
……とりあえず、今の所は。
そして多くの精霊が警戒する視線を向けながら立ち去っていく中で、ある集団だけがレベッカと共にこの場に残った。
「久しぶりね、エイジ。それにエルも」
「ああ、久しぶりだな、ハスカ」
「お久しぶりです」
俺達の前にはあの時、精霊加工工場から救いだした精霊達が集まっていた。
……あの集団の中で異質な視線を向けていた、俺が此処にいられる立役者達が。
ハスカ達がそこにいた。
そしてよく見れば見たことのある顔が何人もそこに居る。そして彼女達は皆俺に対する視線の向け方が他の精霊とは違っている。
……だが逆を言えばそれ以外の全員が向けてくる視線は本当に苦しい物で、ようやく向けてもらえたある程度まともな視線から得た感動をぶち壊してくる。
……それでも、他の精霊は他の精霊で違和感があった。
向けられる視線は初めてエルと出たった時や、精霊加工工場の地下で向けられた視線とは僅かに違う。
恐怖もある。怒りもある。嫌悪感と敵意に塗れた視線である事には間違いないけれど、多くの精霊はそれと同時に困惑しているように思えた。
先の森の入口では精霊が俺に対してそんな困惑を抱く前に、その矛先はどちらかといえばレベッカへと向いていたわけで、精霊から向けられる視線としてはこのパターンはこれが初めてなのかもしれない。
「うん、みんな良い感じに混乱してるね」
「良い感じって……どの辺が良い感じなんですか」
「敵意しか向けないっていうハードルをもう皆超えてくれているって事よ。良かったわね。アンタがやった善行が此処に来てアンタの為に身を結んでくれている」
「善行? 俺の為に? 一体何を言って……」
「……なるほど、そういう事ですか」
エルは答えに辿りついたのか、手を口元に添えながらそう口にする。
「……エル、つまりどういう事なんだ?」
「多分、普通の精霊とはもう微妙に人間に対する印象が変わってるんですよ」
「印象が変わる……んなもんそう簡単に変わるわけが――」
「そうね。簡単に変わるもんじゃないと思うわ」
レベッカが俺の言葉を遮ってそう言った後、俺にこう問いかける。
「今は私がいるし。それになにより精霊加工工場から精霊を救いだすのは簡単じゃなかったでしょ?」
「……そういう事か」
そこまで言われてこの異質な視線の意味を理解する。
例えば精霊加工工場では、本来人間の隣りにいる筈の無いエルの存在が最低限度の信頼度を勝ち取るきっかけとなった。
精霊がまともな自我を持って人間の味方をしている……それはきっと精霊の感情を揺さぶるには十分な事で、そして今その役割をエルだけでなく、この場所で顔の聞くレベッカが担っている。これは大きい。
だけど精霊達に精神的な余裕が無かった精霊加工工場の時と違い、人間の手を取る必要がない状況だ。それだけではまだ弱い。
故にこの状況を作り出しているのは。そして先の戦闘が止まってくれた理由は他でもない。俺に他の精霊とは違う視線を向けてくれる、あの時助けた精霊達だ。
その真意が伝わっているかはともかく、人間に救われた精霊が大勢いる。そしてその事実を知ってから各々がある程度その裏を考察するだけの時間もある。
……役満の如くこれだけ揃ってくれれば、向けられる視線を僅かに変えるだけの力があったんだ。
「まあまだ色々と入口に立っているだけで、アンタの事を受け入れてもらうにはまだ一押しも二押しもしないといけないけどね……というわけで押してみますか」
レベッカはそう言ってこちらに集まる視線の主達に向かって言う。
「みんな集合! 色々言いたい事いっぱいあるだろうけど、できるだけの説明するからとにかく集合!」
レベッカの呼びかけを聞いた精霊たちは近くの精霊と顔を合わせつつも、俺たちの方に向かって集まってくる。
……中には明らかに警戒をしておかなければいけなさそうな雰囲気の精霊だっている。
「……エイジさん」
俺の手を握るエルが確認するように俺に言う。
「最悪の場合はエイジさんのタイミングで動いてください」
「……ああ」
俺達が最悪の事態の打ち合わせをしていると、少し不満そうにレベッカが言う。
「逃げる算段? まあ確かに絶対大丈夫だとは言えないけど少しは信頼してよ。まとめてみせるからさ」
そしてやがて俺達の周囲に集まった精霊達に対する、此処にいる人間に着いての説明回……もとい演説の様な何かが始まった。
そのやり取りを大雑把に纏めるならば、レベッカが以前から此処の精霊に話していたらしいこの世界に連れてきたまともな人間、及びハスカ達が話していた精霊加工工場から精霊を救いだした人間が俺だという事。
そして流れで俺とエルの口から、この森に足を踏み入れた理由の説明。
そんな事を俺達は……主にレベッカが精霊達へ説明をした。
当然反発するような声は上がった。だがそれは声だけで終わり、更に言えばあえて特筆するのが反発の声が上がった事になる程度には、精霊達に広がっていた感情は反発よりも困惑の方が多いように思えた。
……つまりは少なくとも俺が此処にいる理由に関して軽い疑心暗鬼に陥っている程度でいられる位にはこちらに信用を向けられていたんだ。それはきっとレベッカやハスカ達のおかげで。
だからそんな説明が終わった後、精霊達は大きな警戒を俺に向けながらも再び散っていった。
……つまりはレベッカの意向を無視して強制的に追いだすもしくは殺しに掛かってくる様な真似をしてきた精霊は、少なくとも今この場に集まった300人近い精霊の中にはいなかったのだ。
……とりあえず、今の所は。
そして多くの精霊が警戒する視線を向けながら立ち去っていく中で、ある集団だけがレベッカと共にこの場に残った。
「久しぶりね、エイジ。それにエルも」
「ああ、久しぶりだな、ハスカ」
「お久しぶりです」
俺達の前にはあの時、精霊加工工場から救いだした精霊達が集まっていた。
……あの集団の中で異質な視線を向けていた、俺が此処にいられる立役者達が。
ハスカ達がそこにいた。
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