人の身にして精霊王

山外大河

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七章 白と黒の追跡者

15 同盟

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 やはりとは言いたくなかったが、それでもやはりと言いたくなる位には予想通り眠りは浅い。

「……今何時だ」

 目を覚まして周囲を見渡すと、エルを含め多くの精霊が眠ったままだった。となってくると随分と早く起きてしまったのだろう。
 もっともそれが何時なのかというのは、時計が手元にないから分からない訳だが。

「……起きるか」

 とりあえず二度寝する気は起きなかったので、このまま起きる事に決めた。
 ……とはいえ早く起きた所でする事はない。今までならばとりあえず失った一か月分の情報を得る為にテレビや新聞。ネットニュースなんかで情報収集しつつコーヒーを飲むといった流れを作っていた訳だが、当然ながらスマホは無いしテレビも無いし、この世界の新聞を仮に手にしたとしても今はもうあまり読みたいとは思わない。
 ……そしてコーヒーもまた、あの馬車から拝借しようと思えばできたのだけれど、コーヒーを入れる位なら他の何か必要な物を入れるわけで。そもそも火を起こす術が無い以上淹れようがなくて。
 だから俺の朝に必要なものは何も手元にない訳だ。

 そして起き上がりながら、改めて自分の手の平に視線を向ける。

「……火をおこす術……か」

 火を起こす術が無い。そうだ、もうそんな力は俺にはない。
 あの時、俺とエルを救ってくれたナタリアの力は、役目を終えたとばかりにもう俺の手からは離れてしまっている。
 ……あの後、ナタリアはどうなったのだろうか?
 まだ地球の。もしかするとこの世界の何処かにいるのだろうか?
 それは分からないけれど。願わくばそれがどんな形であれナタリアにとって望ましい方に進んでいてくれればいいなと切に思う。
 もう俺にはそう願う事位しかできないけど、せめてその願い位は届いてくれたっていいだろ。
 そしてこれは俺の勝手な願いだけれど……もしもう一度会えたなら、今度はちゃんと謝って。そして礼をいいたい。
 ……そしてもしも叶うなら、ヒルダやリーシャ。アイラにも。謝んないとな。
 顔を合わせるのが怖くてしかたがないけど、それでも。





 とりあえず外に出る事にした。

「あ、おはよう」

「おはよう……って早いな。お前らもう起きてんの?」

 小屋の外に出ると、外にはハスカとエリスが居た。
 周囲に二人以外の精霊がいない事を見ると、やはりまだ眠っているのが普通の時間なのだろう。
 その事についてハスカが答えてくれた。

「起きてる、というか起きてた」

「起きてた?」

「まさか今全員寝ちゃうわけにいかないでしょ。アンタまさか今自分がどういう立場なのか分かって無いわけじゃないよね」

「……ああ、そういう事か」

 つまり全員眠ってしまうと、俺の身に何が起きるか分からないという事だ。
 つまりは俺の為に二人は起きてるんだ。

「悪いな、助かるよ」

「まあ別にこの位いいって。アンタが居たから私達は此処にいるわけだし」

 その言葉にエリスも頷く。
 そしてそんな二人に俺はふとこんな事を訪ねてみた。

「えーっと、まさかお前らずっと起きてんのか?」

「ははは、まさか。そんなの無理だって。ちゃんと交代制でやってるよ。何度か交代して、結果今が私達ってわけ」

「お前ら二人だけ?」

「……ほんとは何あっても対応出来る様に二班に分けてやってたんだけどさ、なんかこう……さっきの交代で皆あんまり眠そうにしてたから、もう私らだけでやるわって」

 ……うん、まあ何度も後退して起こされたら眠り浅くてキツいよな。うん、睡眠不足はマジでキツイ。
 ……でもなんだろう、そんな小刻みに起きなくても二分割にすれば交代一回で済む気が……なんて案は当然出てるだろうし、色々考えた結果それは無くなったのだろう。
 そしてその結果が二人しか起きていない今の状況だ。
 まあ俺守ってもらってる側だし文句は何も言えないし、言うつもりも全くないのだけれど……元々色々と対応する為にそこそこの人数を用意しいていた見張りを二人でやるってそれは大丈夫なのだろうか。
 ……いや、大丈夫そうだ」

「まあ正直人数はいらなそうだよな」

「皆寝ちゃってるからね。誰も何も起こしてこないし、人数いるだけ無駄だよ。それにまあ、最悪ヤバそうな雰囲気のとこみつけたら皆叩き起こせばいいし」

 まあそれはともかく、とハスカは一拍空けてから警備状況の話を打ち切って俺に行く。

「ところで朝だしコーヒーとか飲む?」

「あ、飲む……ってあんの? マジで?」

「マジだよ。驚いた?」

 目が覚めた直後に飲めねえってなってたから、少しテンション上がってくる。
 そうだ。別に人里離れた場所だからと言って、人間の中で出回っている物が精霊に出回っていないなんて事はないんだ。
 以前エルから聞いた話だが……精霊たちも入手の仕方が歪ではあるものの、そういう物を手にする機会がある。
 ……だって精霊は人間に襲われるから。
 そして……人間を目の仇にして馬車なんかを襲っている精霊だっているから。
 その結果が、昨日俺達が遭遇した馬車なのだろう。
 そんな風に、そういうような形でこの精霊たちが集まる精霊の国にも人間が作りだした物資がある程度はあってもおかしくないのだ。
 ……ああそうだ。きっとおかしくない。その背景に何があろうと。
 ……駄目だ。これは考えないようにしよう。考えたって、暗い話しか出てこない。
 だから俺は笑みを浮かべてハスカに言葉を返した。

「いや、驚いたよ。まさかコーヒーが飲めるとは」

「その反応見る限り結構コーヒー好きなんだ」

「まあな。んで、飲み比べた結果この世界のコーヒーはほんとうまいからな。まあ地球のもうまいんだけど」

 いや、ほんと。インスタントでも無茶苦茶うまいからなこの世界のコーヒー。マジでどうなってんの。

「とにかく好きならよかった。で、砂糖はどの位入れる?」

 ……砂糖の有無の前に量聞きます? 入れるの前提ですか……もしかして精霊ってみんなそうなのか?
 だがしかし精霊がどうであろうと。エルがどうであろうと。これだけは譲らない譲れない。コーヒーはブラックに限る。

「ブラックでお願いします」

 そう答えた瞬間ハっとしたように二人がこちらに視線を向けて、恐る恐るという風にハスカが聞いてくる。

「……もしかして、ブラック派?」

「え、えーっと……ブラック派だけど」

 ……なに? 精霊達からすればそこまで驚くほど希少なのブラック派。そこまで驚かれなきゃならねえの? 肩身せめぇ……。
 ……と思ってたが、なんか少し思ってた反応とは違う様で。

「……同士」

 近づいてきたエリスがそう言って俺の胸に拳をトンと置く。
 続いてハスカもなんかちょっと泣きそうになりなが嬉しそうに言う。

「ま、まさかこんな形でブラックのおいしさが分かる人と出会えるなんて……」

「という事はお前ら、ブラック派?」

 二人はなんか仲良くグーサインをしてきた。なんかすげえ嬉しそう。

「……つーことは、ほかの連中は皆加糖派か」

「そうなるね。私達二人以外、ブラックなんか飲めるかーって」

「……うまいのになぁ」

「だよねぇ」

 俺とハスカの言葉にエリスも頷く。
 そして俺とエリスを交互に見たハスカは、掌に拳をポンと置いて俺達に提案する。

「よし、ここにブラックコーヒー同盟を作ろう」

 なんだかよく分からないけど、ブラック派がいて少し嬉しかったしまあいいかなって思った。

 ……というかなんでそんなの作らなくちゃならない位、ブラック派いねえんだよ……わけわかんねえ。
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