人の身にして精霊王

山外大河

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七章 白と黒の追跡者

ex 究極の泥試合

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(馬鹿な……なんでアイツが生きてやがる……ッ)

 突然目の前に現れたテロリストの少年を見て、思わずグランは戦慄した。
 躱されたのかとも思ったが、その全身に纏う生々しい傷を見れば、先の一撃を喰らったのは間違いない。
 喰らった上で立って此処まで戻って来た。

 もう生きているのがおかしい状況で、それでも立って戻ってきた。

「……」

 そしてテロリストの少年は、グランが弾き飛ばされた三節棍の霊装を手にする。
 もっともそれで形成逆転する訳ではない。あの力を使うにはドール化した精霊にそうする様に、霊装と契約を結ばなければならない。
 当然だ。霊装とは即ち精霊なのだから。

 だからあのテロリストがそれを手にした所で、ただ三節棍という鈍器を手にしただけに過ぎない。
 ……戦況は覆らない。

 と、そこでテロリストの少年は、掠れた小さな声で言った。

「……悪いな、手荒に扱って」

 そう言った次の瞬間だった。

「……ッ!?」

 そのテロリストは今出せる全力という風な勢いで、霊装を後方に投げ飛ばした。
 ほぼ間違いなく……グランを霊装に到達させないために。

 そして……テロリストは構えを取った。

 片腕は折れ曲がり構えとしては不恰好。
 それでも闘志の籠った、そんな構え。
 そんな表情。

(……まあいい、仕方がねえ)

 そう考えながら、グランも構えを取る。

(……慢心はしねえ。シオンとあの精霊に一応の警戒をしつつ、確実にあのテロリストを沈める)

 そして拳を握って地を蹴った。
 目の前の満身創痍のテロリストを沈めるために。
 だが。

「なに……ッ」

 接近して放った拳は、揺れるように動いたテロリストにひらりとかわされる。

(……クソッ!)

 そして再び放った拳も。放った蹴りも。同じようにかわされる。
 そして蹴りに続いて放った拳は、全く警戒していなかった折れ曲がった拳から放たれた裏拳で軌道を剃らされた。

「……は?」 

 一瞬何が起きたのか分からなかったが、すぐに理解した。

 風。

 折れ曲がって動かなくなった右腕を風の推進力で無理やり動かし叩き込まれた。
 当然威力は弱い。大した衝撃ではない。
 だけど……それでも軌道を反らすには辛うじて足りている。
 ほんの僅かに剃らせれば、目の前のテロリストは突破してくる。

 そして次の瞬間、テロリストは掠れた声で言う。

「お前……ステゴロの喧嘩、した事ねえだろ」

 そして気が付けば、テロリストの左拳が握られていた。
 そして踏み込まれ……顔面に叩き込まれる。

「あぐぁッ!?」

 激痛と共に体制が崩され、地面を転がる。

(なんだこいつ……どこにこんな力が……ッ)

 訳がわからなくなる思考回路で必死にそう考えながら起き上がり、鼻血が溢れ出る顔を押さえながら正面を見据える。
 その時には既に、顎付近にテロリストの爪先が迫っていた。

「……ッ!?」

 そして次の瞬間、顎への激痛と共に脳が揺れる。
 一瞬意識が飛び掛ける。
 ……だが、軽い。
 先の一撃も、今の一撃も。その体のどこから出てきたか分からない程の力。
 だが今のSランクの精霊との契約による肉体強化を受けているグランを昏倒させられる程の威力はない。
 故に次に放たれた左手の動きをには辛うじて対象できる。

 バックステップ。それにより拳が届かない距離。もしくは届いた所でろくな威力がのらないような。そんなギリギリの距離。
 そこまでは辛うじて逃げられた。
 だからその拳にカウンターを叩き込む。素人なりにそう考えてた。

 ……実際、グランの位置は拳がギリギリ届く程度の距離だった。
 届いた所で運動エネルギーの残りカスが届くような、そんな距離。受け止められる。そんな距離。

 防げる。そう思った。
 放たれるのが拳であれば。

 次の瞬間、握られてきたテロリストの拳が開かれた。
 そして捕まれる。服の襟首。
 そして引き寄せられる。

「……ッ!?」

 そして動かない右拳の変わりにグランの顔面に迫る。

 鬼気迫る表情で放たれる荒々しい頭突きが。
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