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七章 白と黒の追跡者
56 survivor
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グランの攻撃は酷く重たい物だった。
結界も。風の防壁も。軽々と破壊され、躱す事も出来ずに直撃した。
実際短時間ながら気を失っていたのだと思う。
だけどそれでも、その程度だった。
その程度で完全敗北するのなら、確実にどこかで立ち止っている。
気力は消えない。
四肢も右腕が粉砕骨折している事以外は健在。
出血も多量だけど、俺を基準にすれば辛うじて許容範囲内だ。
だとすれば残った気力の全てを出しきり立ち上がればいい。
それでいい。
俺はシオンには様な技能は無く、レベッカの様な出力もない。
ただ丈夫。ただそれだけなのだから。
だったらそれを死に物狂いで遂行しろ。成し遂げろ。
「……ッ!」
そして俺は全力でグランの顔面に対して頭突きを撃ち放った。
「ガァ……ッ!?」
グランから呻き声が上がってくる。
だがそれでも意識を奪うには至らない。
グランは苦し紛れに右手が光った瞬間、こちらに向けて視認できる光線の様な物が放たれる。
「……」
それを俺はグランから左手を離してバックステップで回避する。
「……クソッ」
そしてそんな言葉を吐き捨てるグランを視界に捉えながら、不格好ながらも構えを撮りなおす。
光線という今まで見てこなかった攻撃手段。おそらくあれに当たれば相当なダメージを負うのだろうと察する事ができる。
だけど……それがどうした。
俺はバックステップを踏みながらこちらにその光線を放ってくるグランに向けて走り出した。
……正直に言って、何も怖くはなかった。
いくらこちらが重い怪我を負っていたとして、あんな拙い攻撃に当たる気はしなかった。
そうだ。拙い。
今の一撃が苦し紛れに放った一撃だとしても、それでも分かる位に動きが拙かった。
今まで俺が戦ってきた相手や、俺を鍛えてくれた人達よりも遥かに劣っていた。
それもその筈なのかもしれない。
グランは途中からずっと本気だった。
本気で俺とシオンを潰しに掛かっていた。
それでもなお、三節棍を主体とした接近戦という形を選択したのだ。
少なくとも俺が知る限り、その全力にその拙い攻撃が組み込まれる事は無かったんだ。
つまり奥の手ではなく、ただの付け焼刃。
いや、それ以下の何かでしかない。
「……」
だから今の状態でも、何発も打ち出されるそれを躱す事は容易だった。
容易に躱し、距離を詰める事ができた。
そして、グランが言う。
「くそ! なんで、なんでまだ立ってんだよお前は!」
霊装の攻撃でも倒れなかった。
満身創痍にしか見えないであろう体で攻撃を躱され続けた。
そして拳を握って迫ってくる。
向けられた視線と言葉は、そんな俺への畏怖の感情の様にも思えた。
そして俺は距離を一気に詰める。
「俺を止めたきゃ――」
そして最後に放たれた光線をギリギリで躱し、
「――四肢圧し折って片腹抉る位してみろよ」
そして左手を強く握り絞め拳を撃ち放つ。
左手に伝わる確かな感触。
全体重を乗せ、あまりにも綺麗に拳を叩き込めたと腕を伝ってくる感覚。
その感覚が伝わってきた瞬間には、グランは俺の拳を受け後方に転がっていた。
「……」
それでもグランの体が動き、なんとか起き上がろうようとする素振りを見せる。
だけどそれでも、そこが限界だったらしい。
なんとか上半身だけを起こしたグランは、そのまま気を失ったようにバタリと倒れた。
動かない……起き上がってこない。
「……勝った」
今回ばかりは、確信を持ってそう言えた。
もうグランは起き上がってこない。それだけ放った左拳は綺麗に決まった。
辛勝も良い所だけど。気を抜けば倒れそうで、シオンもレベッカも酷い事になっているけれど。
それでも……勝ったぞ俺達は、この化物共に。
「……ッ」
戦いは終わった。ひとまず終わった筈だ。
そう考えるとどこか張りつめていた気が抜けた気がして、それこそこのまま倒れそうになるけれど、それでも歯を喰いしばってなんとか意識を保ち、そしてゆっくりと歩く。
向かう先はシオンの所だ。
辛うじて動けるのが俺だけならば、俺が動いてまずやらなければならない事がある。
「……勝ったぞ、シオン」
「……エイジ君」
そして俺は満身創痍のシオンの元へと辿り着く。
「よく……あの攻撃を受けて、生きて動けるね」
「結局、まあそういう力なんだよ。身体能力の強化よりも、風の操作よりも。こうして俺を生かして動かしてくれるのが、エルの力の一番凄い所なんだろうからさ」
そして俺はシオンの前にしゃがみ込み、回復術を発動させる。
「……無理するなエイジ君。今それをしたらキミへの負担が大きい」
「……だけど多分死にはしねえ。だったらまずはお前を治療しねえと。打算的な話にはなるけどレベッカは回復術を使えねえし……それに、俺じゃグランを拘束しておく事も出来ない……殺してねえから、意識が戻ったらまた動きだす」
「なるほど……確かにまず僕が動けるようにならないと、二回戦が始まる可能性がある訳だ」
「……ああ」
流石にそれは勘弁してほしい。
だからその辺は徹底しないといけない。
まずグランを拘束して、レベッカの戦った相手はどうなっているかは分からないけれど、最初に俺がぶっ飛ばした相手も多分殺すには至っていない。至っていたら困る。
とにかく、そいつが逃げ帰ったりしていなければ拘束する。
その位には色々と徹底しなければならない。
きちんとこの前哨戦を勝利で終わらせて、次の戦いに繋げる為に。
そしてシオンは言う。
「じゃあとりあえずある程度でいい。僕を動けるようにしてくれ」
そしてそう言った上で、少し悪い笑みを浮かべる。
「良い事を思いついた」
結界も。風の防壁も。軽々と破壊され、躱す事も出来ずに直撃した。
実際短時間ながら気を失っていたのだと思う。
だけどそれでも、その程度だった。
その程度で完全敗北するのなら、確実にどこかで立ち止っている。
気力は消えない。
四肢も右腕が粉砕骨折している事以外は健在。
出血も多量だけど、俺を基準にすれば辛うじて許容範囲内だ。
だとすれば残った気力の全てを出しきり立ち上がればいい。
それでいい。
俺はシオンには様な技能は無く、レベッカの様な出力もない。
ただ丈夫。ただそれだけなのだから。
だったらそれを死に物狂いで遂行しろ。成し遂げろ。
「……ッ!」
そして俺は全力でグランの顔面に対して頭突きを撃ち放った。
「ガァ……ッ!?」
グランから呻き声が上がってくる。
だがそれでも意識を奪うには至らない。
グランは苦し紛れに右手が光った瞬間、こちらに向けて視認できる光線の様な物が放たれる。
「……」
それを俺はグランから左手を離してバックステップで回避する。
「……クソッ」
そしてそんな言葉を吐き捨てるグランを視界に捉えながら、不格好ながらも構えを撮りなおす。
光線という今まで見てこなかった攻撃手段。おそらくあれに当たれば相当なダメージを負うのだろうと察する事ができる。
だけど……それがどうした。
俺はバックステップを踏みながらこちらにその光線を放ってくるグランに向けて走り出した。
……正直に言って、何も怖くはなかった。
いくらこちらが重い怪我を負っていたとして、あんな拙い攻撃に当たる気はしなかった。
そうだ。拙い。
今の一撃が苦し紛れに放った一撃だとしても、それでも分かる位に動きが拙かった。
今まで俺が戦ってきた相手や、俺を鍛えてくれた人達よりも遥かに劣っていた。
それもその筈なのかもしれない。
グランは途中からずっと本気だった。
本気で俺とシオンを潰しに掛かっていた。
それでもなお、三節棍を主体とした接近戦という形を選択したのだ。
少なくとも俺が知る限り、その全力にその拙い攻撃が組み込まれる事は無かったんだ。
つまり奥の手ではなく、ただの付け焼刃。
いや、それ以下の何かでしかない。
「……」
だから今の状態でも、何発も打ち出されるそれを躱す事は容易だった。
容易に躱し、距離を詰める事ができた。
そして、グランが言う。
「くそ! なんで、なんでまだ立ってんだよお前は!」
霊装の攻撃でも倒れなかった。
満身創痍にしか見えないであろう体で攻撃を躱され続けた。
そして拳を握って迫ってくる。
向けられた視線と言葉は、そんな俺への畏怖の感情の様にも思えた。
そして俺は距離を一気に詰める。
「俺を止めたきゃ――」
そして最後に放たれた光線をギリギリで躱し、
「――四肢圧し折って片腹抉る位してみろよ」
そして左手を強く握り絞め拳を撃ち放つ。
左手に伝わる確かな感触。
全体重を乗せ、あまりにも綺麗に拳を叩き込めたと腕を伝ってくる感覚。
その感覚が伝わってきた瞬間には、グランは俺の拳を受け後方に転がっていた。
「……」
それでもグランの体が動き、なんとか起き上がろうようとする素振りを見せる。
だけどそれでも、そこが限界だったらしい。
なんとか上半身だけを起こしたグランは、そのまま気を失ったようにバタリと倒れた。
動かない……起き上がってこない。
「……勝った」
今回ばかりは、確信を持ってそう言えた。
もうグランは起き上がってこない。それだけ放った左拳は綺麗に決まった。
辛勝も良い所だけど。気を抜けば倒れそうで、シオンもレベッカも酷い事になっているけれど。
それでも……勝ったぞ俺達は、この化物共に。
「……ッ」
戦いは終わった。ひとまず終わった筈だ。
そう考えるとどこか張りつめていた気が抜けた気がして、それこそこのまま倒れそうになるけれど、それでも歯を喰いしばってなんとか意識を保ち、そしてゆっくりと歩く。
向かう先はシオンの所だ。
辛うじて動けるのが俺だけならば、俺が動いてまずやらなければならない事がある。
「……勝ったぞ、シオン」
「……エイジ君」
そして俺は満身創痍のシオンの元へと辿り着く。
「よく……あの攻撃を受けて、生きて動けるね」
「結局、まあそういう力なんだよ。身体能力の強化よりも、風の操作よりも。こうして俺を生かして動かしてくれるのが、エルの力の一番凄い所なんだろうからさ」
そして俺はシオンの前にしゃがみ込み、回復術を発動させる。
「……無理するなエイジ君。今それをしたらキミへの負担が大きい」
「……だけど多分死にはしねえ。だったらまずはお前を治療しねえと。打算的な話にはなるけどレベッカは回復術を使えねえし……それに、俺じゃグランを拘束しておく事も出来ない……殺してねえから、意識が戻ったらまた動きだす」
「なるほど……確かにまず僕が動けるようにならないと、二回戦が始まる可能性がある訳だ」
「……ああ」
流石にそれは勘弁してほしい。
だからその辺は徹底しないといけない。
まずグランを拘束して、レベッカの戦った相手はどうなっているかは分からないけれど、最初に俺がぶっ飛ばした相手も多分殺すには至っていない。至っていたら困る。
とにかく、そいつが逃げ帰ったりしていなければ拘束する。
その位には色々と徹底しなければならない。
きちんとこの前哨戦を勝利で終わらせて、次の戦いに繋げる為に。
そしてシオンは言う。
「じゃあとりあえずある程度でいい。僕を動けるようにしてくれ」
そしてそう言った上で、少し悪い笑みを浮かべる。
「良い事を思いついた」
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