『レベルMAXの引退生活』 〜追放先でダラダラしていたら、いつの間にか世界最強の聖域になっていました〜

小林 れい

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第三巻:天上のニート生活

第二話:【家具】「遮光魔法」の極致。女神の光さえも吸い込む「真・暗黒カーテン」の製作。

「……ダメだわ。やっぱり、あの『電球』のせいで目が冴えちゃった」

 ユラリアは、寝返りを打ちながら不機嫌そうに唇を尖らせた。  先夜、暁の女神ルミナスが放った神々しい光――。それは一般人にとっては救済の光だが、二度寝・三度寝を至高の喜びとするユラリアにとっては、網膜を焼く「暴力的な目覚まし時計」以外の何物でもなかった。

 現在、彼女が住まう浮遊島は高度一万メートル。太陽や星の光が地上の数倍の純度で降り注ぐ。遮光が甘ければ、彼女の「理想の暗闇」は維持できない。

「ネロ、シャドウ。……私、世界で一番『暗い』布が欲しいの。光だけじゃなく、音も、神の気配も、明日への不安も、全部吸い込んでしまうような布が」

「……明日への不安までですか。それはまた、深淵なオーダーですね」  シャドウが影の中から恭しく跪く。

「お任せください、お嬢様。……ネロ、お前は天界の境界まで飛んで『夜の帳(とばり)』そのものを剥ぎ取ってこい。私は、この世のあらゆる光を拒絶する『虚無の底』から極細の糸を紡ぎ出します」

 こうして、ユラリアの「安眠」という目的のためだけに、空前絶後の素材集めが始まった。  神龍王ネロは成層圏を音速で駆け抜け、昼と夜の境界線に爪を立てると、そこにある「夜の概念」を物理的に切り取って持ち帰った。シャドウは深淵の魔術を駆使し、光子さえも逃げ出せない「絶対零度の闇」を繊維状に加工した。

 二つの素材がユラリアの手元に揃う。  彼女はベッドの上で、めんどくさそうに指先を動かし、術式を編み上げていく。

「【概念錬成:無窮の夜(エターナル・ナイト)】。……さらに、ここに【神威拒絶】と【自動温度調整】を付与して……。あ、最後に『触り心地がしっとりしている』という特性も忘れずに……」

 完成したのは、見る者の視線を吸い込むほど深い黒色をした、シルクのような光沢を持つカーテンだった。

「……できたわ。名付けて『神を拒む褥(しとね)の幕』」

 シャドウの手によって寝室の窓に取り付けられたそのカーテンは、凄まじい威力を発揮した。  カーテンを閉めた瞬間、部屋の中は「宇宙の始まりの前」のような完璧な静寂と暗闇に包まれた。外でどれほど女神が光を放とうが、太陽が昇ろうが、このカーテンの内側だけはユラリアの支配する「永遠の深夜」が約束されたのだ。

「……ああ、最高。……何も見えない、何も聞こえない。……これが私の求めていた『宇宙』だわ」

 ユラリアが幸福感の中で再び深い眠りへと沈み込んでいった、その時。

 天界では再びパニックが起きていた。  女神ルミナスが、ユラリアを説得(という名の嫌がらせ)をしようと光を放った瞬間、その光が吸い込まれるように「浮遊島の一角」へと消えていったのだ。

「な、何なの!? 私の『神光』が、あの黒い布に食べられた!? まるで天界の一部に『穴』が空いたみたいになっているじゃない!!」

 ルミナスは恐怖に震えた。  彼女には分からない。それが単に、一人の少女が「眩しいから」という理由で作った、ただのインテリアに過ぎないということが。

 その頃、アルベルト公爵は庭園でカーテンの隙間から漏れ出る「絶対的な安寧」を感じ取り、敬虔に祈りを捧げていた。

「……素晴らしい。ユラリア様は、ついに『夜』という概念そのものを手懐けられた。神々から光を奪い、それを自分の安眠のための道具に変える……。これこそが、新時代の支配者の姿だ……!」

 ユラリアは、そんな勘違いをよそに、最高の暗闇の中でよだれを垂らしながら三度寝を満喫していた。

(((……いいわ。……これなら、あと五百年は起きなくて済みそう……)))

 神々の権威を物理的にシャットアウトしたユラリアの「ニート生活」は、いよいよ人知を超えた領域へと突入していくのであった。
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