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プロローグ
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晴れやかな空の下、宮殿の庭園には貴族の子供達が集められ、華やかなお茶会が開かれていた。
10歳になったキシュワントは、3歳から厳しい教育を受けており、子供よりもむしろ大人と接する機会の方が圧倒的に多かった。
今日開かれたお茶会は、そんな皇太子のお友達候補として、年の近しい子供達が集められたのだ。
ただの無邪気な子供達であれば、キシュワントもそれなりに打ち解けられたのであろう。しかし、ここにいるのは貴族の子供達。
親に何か言われたのか、過度の期待を背負わされたのか、ニコニコと笑顔を張り付け、分かりやすく皇太子のご機嫌取ったり、すり寄って来るような者ばかりだった。
子供も大人も大して変わらないものだな。キシュワントが煩わしく思っていると、ふと菓子が用意されたテーブルから離れた位置でしゃがみこむ、2人の男女を見つけた。皇太子には目もくれず、熱心に花壇ばかりを観ている。
「失礼。」
キシュワントは皇太子らしく、丁寧に一言添えてその場を離れると、しゃがみこむ2人に歩み寄った。
近づく足音に、2人が振り向くのはほぼ同時だった。
うっすらと青みがかった絹のように輝く銀髪に、海のような瞳。人形のように整った顔立ちの2人の容姿に、キシュワントはすぐにピンときた。
「もしかして、ガンガルド公爵の…?」
2人は、さも面白くなさそうに立ち上がり、丁寧ながら棒読みの挨拶をする。
「エリオール・R・ガンガルドと申します。お目にかかれて光栄です皇太子殿下。」
「同じくジェニエッタと申します。お目にかかれて光栄です。」
たしか、エリオールが同い年の10歳で、妹は2歳下だったか。キシュワントはいつしか聞いた、ガンガルド公爵の我が子の自慢話を思い出した。
もういいですか?と声が聞こえてきそうな視線を向けられ、焦って話題を探すキシュワントは、エリオールが持っていた本を指差した。
「それはなんだ?」
「植物図鑑です。」
エリオールが素っ気なく答える。
「…なぜ、茶会に図鑑を?」
その冷たい態度も、茶会へのやる気の無さも、無礼だと言えば諫められたが、そもそもこのような態度を取られること事態キシュワントには新鮮で、他のどの令息、令嬢よりも、興味をそそられた。
当の本人、エリオールはというと、少しも悪びれることなく平然と言った。
「この茶会に、興味が無かったので。」
皇太子主催の茶会にその言い掛かり。妹の方など既に視線が花壇へと奪われている。さすがに無礼だとキシュワントが訴えようとした時、エリオールの言葉が続いた。
「茶会はともかく、手入れの行き届いた庭園や、建造物はとても素晴らしいです。図鑑でしか知らなかった花も、こうして実際に観ることができて、とても有意義な時間を過ごせています。お招き頂き、ありがとうございます。」
兄のお礼の言葉に反応するように、ジェニエッタも頭を下げる。
この2人は、いや、ガンガルド家はと言うべきか、決して人を侮蔑しているわけではない。ただ、ひたすら正直なのだ。心の内を、事実を、包み隠さず話しているだけだった。
すっかり毒気を抜かれたキシュワントは、無礼を諫めようなどという思いも無くなり、その代わりに、2人のことをもっと知りたい、仲良くなりたいという感情が沸き上がった。
その矢先だ。
キシュワントは、一方通行のもどかしさを、身をもって知ることになるのである。
「皇太子殿下、私達は私達なりに楽しんでおりますので、どうかお構い無く。殿下をお待ちの皆様の席へお戻りくださいませ。」
こくりと兄に同意する妹。
要するに、あっちへ行け、だ。
キシュワントは張り付いた笑顔を煩わしいと感じていたのに、慣れない冷めた視線を向けられ酷くショックを受けた。自分が2人に持つ興味を、2人は自分に露程も持ってはいないのだ。
10歳になったキシュワントは、3歳から厳しい教育を受けており、子供よりもむしろ大人と接する機会の方が圧倒的に多かった。
今日開かれたお茶会は、そんな皇太子のお友達候補として、年の近しい子供達が集められたのだ。
ただの無邪気な子供達であれば、キシュワントもそれなりに打ち解けられたのであろう。しかし、ここにいるのは貴族の子供達。
親に何か言われたのか、過度の期待を背負わされたのか、ニコニコと笑顔を張り付け、分かりやすく皇太子のご機嫌取ったり、すり寄って来るような者ばかりだった。
子供も大人も大して変わらないものだな。キシュワントが煩わしく思っていると、ふと菓子が用意されたテーブルから離れた位置でしゃがみこむ、2人の男女を見つけた。皇太子には目もくれず、熱心に花壇ばかりを観ている。
「失礼。」
キシュワントは皇太子らしく、丁寧に一言添えてその場を離れると、しゃがみこむ2人に歩み寄った。
近づく足音に、2人が振り向くのはほぼ同時だった。
うっすらと青みがかった絹のように輝く銀髪に、海のような瞳。人形のように整った顔立ちの2人の容姿に、キシュワントはすぐにピンときた。
「もしかして、ガンガルド公爵の…?」
2人は、さも面白くなさそうに立ち上がり、丁寧ながら棒読みの挨拶をする。
「エリオール・R・ガンガルドと申します。お目にかかれて光栄です皇太子殿下。」
「同じくジェニエッタと申します。お目にかかれて光栄です。」
たしか、エリオールが同い年の10歳で、妹は2歳下だったか。キシュワントはいつしか聞いた、ガンガルド公爵の我が子の自慢話を思い出した。
もういいですか?と声が聞こえてきそうな視線を向けられ、焦って話題を探すキシュワントは、エリオールが持っていた本を指差した。
「それはなんだ?」
「植物図鑑です。」
エリオールが素っ気なく答える。
「…なぜ、茶会に図鑑を?」
その冷たい態度も、茶会へのやる気の無さも、無礼だと言えば諫められたが、そもそもこのような態度を取られること事態キシュワントには新鮮で、他のどの令息、令嬢よりも、興味をそそられた。
当の本人、エリオールはというと、少しも悪びれることなく平然と言った。
「この茶会に、興味が無かったので。」
皇太子主催の茶会にその言い掛かり。妹の方など既に視線が花壇へと奪われている。さすがに無礼だとキシュワントが訴えようとした時、エリオールの言葉が続いた。
「茶会はともかく、手入れの行き届いた庭園や、建造物はとても素晴らしいです。図鑑でしか知らなかった花も、こうして実際に観ることができて、とても有意義な時間を過ごせています。お招き頂き、ありがとうございます。」
兄のお礼の言葉に反応するように、ジェニエッタも頭を下げる。
この2人は、いや、ガンガルド家はと言うべきか、決して人を侮蔑しているわけではない。ただ、ひたすら正直なのだ。心の内を、事実を、包み隠さず話しているだけだった。
すっかり毒気を抜かれたキシュワントは、無礼を諫めようなどという思いも無くなり、その代わりに、2人のことをもっと知りたい、仲良くなりたいという感情が沸き上がった。
その矢先だ。
キシュワントは、一方通行のもどかしさを、身をもって知ることになるのである。
「皇太子殿下、私達は私達なりに楽しんでおりますので、どうかお構い無く。殿下をお待ちの皆様の席へお戻りくださいませ。」
こくりと兄に同意する妹。
要するに、あっちへ行け、だ。
キシュワントは張り付いた笑顔を煩わしいと感じていたのに、慣れない冷めた視線を向けられ酷くショックを受けた。自分が2人に持つ興味を、2人は自分に露程も持ってはいないのだ。
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