死神公爵と契約結婚…と見せかけてバリバリの大本命婚を成し遂げます!

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【番外編②】2 

 翌日、朝食はいつも通りフローラと食べることができた。

 私はすぐに謝罪をした。彼女はやはり怒っていないと言い張ったが、それでも受け取って欲しいと頼み、分かりましたと頷いてもらうことに成功した。

 それから植物園の話をした。タイタンアルムの花の大きさや、酷い匂いについて。スケッチを見せればフローラの目も開いた。
 会話は大いに盛り上がったが、あの日に聞きそびれた大切な話について尋ねると、フローラの態度は一変した。目は泳ぎ、言葉を濁す。

「あぁ、あの件は…気にしないでください。」

 そう言われると余計に気になる。

「私には、言えないことですか?」

「うーん、そういうわけではありませんが…まぁ、期が来たらといいますか。」

 前に話そうとしていたことを、期が来たらとはどういう事か。話すタイミングが重要な話なのだろうか。
 問いただしたいが、そのタイミングを逃してしまったのは他でもない私自身だ。責められる立場ではない。

「どうしても教えては頂けませんか。」

「すみません。今はまだ話せません。」

 困ったように笑うフローラ。

 まだ、ということは、いずれは話して貰えるということだろう。それに期待をして、今は素直に誤魔化されることにした。
 失った信頼を取り戻すのは難しい。

「分かりました。」

 フローラは、すみませんともう1度苦笑した。

 朝食を終えると真っ直ぐ書斎へ向かった。
 2週間も空けてしまったのだ。おそらくそのツケが溜まっていることだろう。

 書斎へ入るなりデスクへ向かい、重なった書類に目を通していく。ほとんどはサインをするだけだったので、そうしながら家令を呼んだ。

「私が不在の間、何か変わったことはなかったか?」

「変わったことでございますか。特にございませんでしたが、1度、ブロンドー家のアリスお嬢様が遊びにいらっしゃいました。」

 フローラの親友、レディ・アリス。
 フローラの元気の源でもある彼女が邸を訪ねてくることは初めてではなかったが、彼女に私の失態が伝わっていたらと思うと、少々肝が冷える。
 レディ・アリスがそんな夫を簡単に許せと言うわけがないし、彼女の助言はフローラに多大な影響を与えるのだ。 

 私の愚痴大会が開かれたと思うと、頭が重くなった。

「フローラの体調は悪化したりしなかったか。」

「はい、悪化どころか毎日ご機嫌よろしく、ますますご健康に気を使っておられるようです。」

 健康ならばと胸を撫で下ろすが、夫のいない間に回復し機嫌が良かったというのも、なんだか物悲しい。

 軽くため息を吐き、デスクの1番上の引き出しに入っていた箱を取り出した。
 パイプを取り出し、たばこを詰めて火を点ける。

 パイプに口を付けて深く息を吸い、吐きながら後ろの窓を開けた。
 すると、窓の下に見える花園に、フローラと1人の護衛騎士の姿が見えた。楽しそうに笑い合っている。

 暖かいフローラの笑顔とは逆に、心に冷たい風が吹き荒れた。

「あれは?」

 家令が側に来て窓の下を覗くと、あぁ、と頷いた。

「奥様の護衛班に所属しているワットという若騎士ですね。お1人でいらした奥様の良き話し相手になっているようでして、最近よくお話ししているのを見かけます。」

 1人にした私が悪いのかもしれないが、話相手なら女性のメイドでもいいだろうと思ってしまうのは狭量だろうか。

 心の内が表情に出てしまったのか、家令が慌てたように両手を振った。

「旦那様、よく話していると言っても、けっして不適切な関係ではございません!奥様は旦那様一筋でございますゆえ、一方的にお叱りになることのないように、わたくしからもお願い致します。」

 そんなこと、家令の口から聞かなくても分かっている。フローラはそんな不誠実なことをするような人ではない。
 けれど、男側は違うだろう。美しい花を見つければ、その蜜を吸いたくなるものだ。

「騎士団長を呼べ。」

 声を低くしてそう指示をした。

 呼びに行った家令から、既に内容を聞いたのだろう。失礼しますと入室した騎士団長は緊張した面持ちをしていた。

「ワットという騎士を?」

「はい。入団3年目の騎士です。若いながら実力も向上心も申し分なく、本人の希望もあり、奥方様の護衛班に就かせております。」

「護衛と呼ぶには、どうもフローラと距離が近しいようだが。」

 そこまで威圧しているつもりはなかったが、騎士団長は青ざめ、頬に汗を伝らせた。

「申し訳ございません!私の監督が行き届いていなかったようです。」

「ようです?」

「行き届いておりませんでした!」

「それで。」

「彼の者は奥方様の護衛の任を解き、しばらく雑務に当たらせます。」

 フローラから離れてくれるのならそれでいい。

「分かった。下がっていい。」

 騎士団長は深々と頭を下げて退室した。
 家令の憐れむような視線が彼に向けられていたが、私は知らないふりをして、溜まった書類を片づけた。

 しかし憂いはこれだけでは終わらなかった。

 根を詰めて書斎に籠った為、ディナーにはフローラと一緒に過ごすことができ、予め申し付けていた通り、テーブルにはいつもより少し豪華な料理が並べられた。

 あまり贅沢を言わないフローラへのささやかなもてなしのつもりだったが、これを彼女は「味付けの濃い物が気分ではなく。」と申し訳無さそうに眉尻を下げながらほとんど残した。

 主寝室に、彼女の好きな甘いお酒とお菓子を用意させると、「お酒は控えようと思っていて。」と再び申し訳無さそうに下げられ、それでも諦めきれなかった私は、ではテラスで星でも見ながら話しませんかと誘うが、「夜風は体を冷やすので。」と、これもまた断られてしまった。

 もはや誤魔化しようがない。私はフローラに避けられているのだ。

 分かりましたと聞き分けの良いふりをしてみたが、その後の言葉が続かない。

 この状態で手を打たないわけにはいかないが、何をすれば良いのか分からなかった。

 何か私に求める事があるのか。それともひたすら待っていれば許されるのか。既に愛想を尽かされてしまったとは思いたくない。

 ぐるぐると不安に打ちのめされるていると、フローラが私の手を引いた。

「せっかく色々気遣ってくれているのに、すみません。」

 やはり申し訳無さそうにするフローラ。

「貴女が謝る必要はありません。私が…。」

 もっと上手く喜ばせてあげられたら、そんな顔をさせずに済んだ筈だ。

「プルトン様がいらっしゃらない間に、生活習慣を見直したのです。」

 ふと顔を上げると、にこりと微笑む彼女に引かれるまま、ベッドに腰掛けた。
 つまり、意図的に避けられているわけではないということだろうか。

 そしてフローラの言ったことについて考える。

 そんなに乱れていただろうか。

 確かに夜は私が遅くなることもあり、しかもそれから体を求めたりするものだから、彼女の寝る時間も不規則にしてしまっている。
 それでいて朝は同じ時刻に起きるのだから、なるほど私は平気でも、彼女には負担だったのかもしれない。

「すみません。」

 素直に頭を下げると、フローラは私の両頬を手で包み、ぐいと頭を持ち上げた。

「どうしてプルトン様が謝るのですか?」

「私が、その…。」

 彼女の手を離れ、顔を背けて咳をする。

「寝る時間を、不規則にさせてしまっているので。」

 そう白状すると、フローラは花のように顔を赤くした。思わず心臓がきゅんと鳴る。

「そ、れは…謝らなくても、いいことです。」

 彼女の優しさに、しかし、と反論しようとすると、それ以上は言わすまいと言わんばかりに「私も!」と被せられた。

「私も…嬉しい、こと…なので。」

 可愛い。途切れ途切れに紡ぐ言葉も、湯気が出そうな程赤くなった顔も、恥ずかしそうに俯く姿も、何もかもが愛らしい。
 こんなに心を煽り立てる彼女に、欲情しない方がおかしい。

「フローラ、好きです。」

 言うが早いかフローラの腰を引いて抱き寄せ、驚いて見上げた彼女の唇を奪った。彼女も抵抗をしないので、探るように舌を絡め、徐々に押し倒していく。

 しかしまた、フローラの手が体の間に滑り込み、私の胸を押して制止した。

「だめです。」

 とても嫌がっているようには見えないが、フローラは頬を紅潮させたまま頑として首を横に振った。
 私は体ばかりか思考まで停止し、言葉が出ない。

 するとフローラは逃れるようにするりと私の下から抜け出し、ベッドに潜り込み、背を向けられ、早口で捲し立てられた。

「早寝早起きの習慣をつけますのでもう寝ます!こういう事はしばらくしません!食事の味付けはなるべく質素にしてもらいますし、お酒も控えます。おやつも食べすぎないようにしますので、プルトン様もそのように心得てください。」

「分かりました。」

 条件反射のように、そう答えていた。

 私のいない間に健康オタクになったのだろうか。もしかすると年齢のことで、私の体を心配しているのかもしれない。
 悪い事とは思わないが、お酒を飲んだり、夜食をつまんだり、夜更けに2人でのんびりと過ごす時間がが無くなるのは少し寂しく感じた。

 それと同時に、脳が僅かばかりの混乱を来している。
 嬉しいと言ったそばから、だめ、というのは一体どういうことなのか。

 フローラのことが分からない。




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