サグドラ・ファミリア! 〜シングルマザーが女嫌いと噂される王弟殿下と結婚するまでの話〜

加藤羊大

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第十四話① 魔法管理庁と図書館と出会い

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真理衣が教会に来て暫くたったある日の事である。彼女はコンラートに呼び出された。神官長の部屋には書類や本がぎっしりと積まれ、どこか埃っぽい空気が立ち込めている。
眉間に皺を寄せ、険しい表情の彼に真理衣は思わずたじろぐ。

「えっと私、何かマズイ事を…?」
「貴女、畑に何をしましたか?」

その言葉に真理衣はギクリと身体を震わせる。彼女には思い当たる事があったのだ。眼光鋭く真理衣を見るコンラートに、真理衣は目をギュッと瞑って90度に頭を下げた。

「肥料になると思って、悠ちゃんのウンコを撒きましたぁ!!!すみませんでしたあぁぁ!!」
「……は?」

コンラートの口から間抜けな声がこぼれ出た。彼はてっきり真理衣が指輪の力を使用したのではと勘繰っていたのだ。真理衣の叫びに悠が驚き泣き始める。あわあわと真理衣が悠をあやす目の前でコンラートは眉間の皺を揉みほぐす。

事の発端は、真理衣が管理する畑にあった。
他の神官見習いの畑は通常の成長速度であるのに対し、真理衣の畑だけ異常な速度で成長し、種を植えてから僅か7日程で野菜がたわわに実っていたのだ。真理衣はそれを異世界の魔法の野菜だからと思い、特に疑問も無く収穫して倉庫へ運んだ。他の神官見習いの話から今日それが発覚したのだが、コンラートは頭を抱えた。

「その子の能力を、国に報告する必要がありますね…魔力が多いだけではなかった様ですので」
「…何故報告が必要なんですか?」
「国に有益な能力を持つ者は他国から狙われやすい為、保護を目的として報告義務があります。他国に誘拐され酷使された後に遺体で還ってきたという前例があるので」

コンラートの言葉に真理衣は青褪めた。悠を抱く彼女の腕に無意識に力が入る。

「魔法管理庁で魔力登録をする事になります。そうする事で、もし国外に連れ去られた場合追跡する事が可能になります」
「…」
「貴女もその子も、この国の神官見習いとなっておりますので国民として扱われます。訳ありだと言う事はヨシュアから軽く聞いていますよ。貴女にとってもその子にとっても安心できる措置だと思いますがね…」
「…分かりました。登録の件宜しくお願いします」

真理衣の言葉に、コンラートは頷いた。

「では明日の朝から外出許可を出しますので、手続きに行って下さい。馬車で一日掛かるので、王都の教会に泊まる事になるでしょう。必要書類はこちらで用意します。王立図書館の隣にあるので分かりやすいと思います」
「はい。…あ、私一人だと分からないのですが…」
「そうでしたねでは、アメリアに同行して貰って下さい。彼女の外出許可も出しておきます。往復に二日、手続きに一日として三日もあれば充分のはずです」
「分かりました」

真理衣は神官長室から退室すると、悠をあやしながら仕事へ戻った。

「あ、指輪に姿見も入るか試してみよっと」


***


騎士団演習場。古代ローマのコロッセオを思わせる円形の建物で、騎士達が模擬戦を行っていた。二組に別れて其々に指揮官を置いている。アルベルトは腕を組みながら戦況を注視していた。時折り指揮官や騎士の動きに助言をする。

「アルベルト、いくらなんでも働き過ぎだ。この10年まともに休んだ所を見た事ないぞ?上の者が休まないと部下も休めないだろう?」

宮殿を抜け出し、演習場に訪れたメルヴィンが、働き詰めのアルベルトへ苦言を呈する。アルベルトの仕事は騎士団の指導だけでなく、メルヴィンの補佐も行っており仕事量が常人よりも非常に多かった。そんなアルベルトは少しだけ目を細めて兄を見た。

「…陛下が休み過ぎなのでは?昨日も供を付けずに街へ行ったと護衛騎士から苦情が来ていました」
「チッ…告げ口しやがったなアイツ。その日の仕事は終わっていたんだ」
「私は別に休まずとも問題ありません、部下は定期的に休ませていますので」

頑なな弟の様子に、メルヴィンが唸りながら頭を掻きむしる。

「いいから休め!命令だ!取り敢えず5日くらい休め!確かにお前の代わりは居ないが、身体を壊したら元も子もないぞ」
「…命令ならば受け入れざるを得ませんが、それは流石に長過ぎでは?」
「10年のが長いだろうが。とにかく明日からでいい。や、す、め!」
「承知致しました…」

アルベルトは無表情の下で、正直困っていた。兄から休みを言い渡されたは良いが、休日に何をすれば良いのか分からなかったのである。18歳の時に父王と母が死去してからと言うものの、メルヴィンと二人で必死に国を守ってきた。仕事ばかりの日々で、彼は趣味も特に持たずに生きてきた。強いて言えば読書くらいのものである。

「…5日も読書をしろと言うのか?」
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