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08.そのエルフはいろんな意味で恐ろしかった
しおりを挟む剣地:部屋のベッドにて
何か柔らかいものが俺の顔面に乗っかっている……気がする。何かと思いつつ手を動かしたが、何かが腕の上に乗っかっていて、腕を動かすことができない。
どうしてこうなった? 確かに、俺は自分のベッドで寝ていた。ベッドの上には布団と枕以外何も置いていない。
じゃあ、俺の上にある物体は何だろう?
「ん? あ、おはよーケンジ」
上からルハラの声が聞こえた。
俺は寝ぼけているのか? つーか、なんでルハラの声が聞こえてくる? ルハラは成瀬と同じ部屋で寝ているはずだ。
だが、何で俺の上にいる? つーか、どうしてルハラは下着姿なのだ? 朝から頭が回らない。
「どしたの? セクシーな下着姿の美少女が上に乗っかっているのに、嬉しくなさそうだけど?」
「場合によっちゃあ嬉しいけど、聞きたいことがある。そどうしてルハラが俺のベッドにいるんだ?」
「そりゃーあれだよ。想像通りのことをね」
「とても素直な答えだな」
この時、勢いよく扉が開いた。それから成瀬が部屋に入って来て、この状況を目の当たりにしてしまった。
「朝から張り切っているわね、お二人さん?」
体を震わせながら、成瀬はこう聞いた。非常にまずい。どうにかしてごまかさないと。
「ナルセー、ケンジって女の子が好きじゃないの? 試しに寝起きを襲ったけど、全然反応してくれなかった」
「朝起きて下着姿の女の子が目の前にいたら、誰だって驚くわよ!」
成瀬はルハラにこう言った。
その後、俺と成瀬はルハラに服を着るようにと促し、着替えを始めた。
朝飯はアパートの食堂で食べることになっている。
ギルド専属の料理人が、作ってくれるのだ。俺たちは朝飯を食べるため、食堂へ向かうことにした。
「おっ、両手に花のケンジさんじゃあありませんか」
「昨晩はお楽しみでしたかー?」
「羨ましいぞ、この野郎。俺も若かったらなー」
「静かにしろ! 羨ましいと思われるけど、それなりに大変だぞ」
茶化してくるおっさんたちに俺は静かにしろと叫んだ。ルハラは食堂が珍しいのか、周囲を見回していた。
「人がたくさんいる」
「珍しい光景なの?」
「私がいた里じゃああまり人がいなかったから」
成瀬とルハラはこんな会話をしていた。その後、俺たちは朝飯を食べ、身だしなみを整えた後、ルハラの登録手続きをするため、ギルドへ向かった。
剣地:ギルドの登録センター
ギルドへ向かった直後、真っ先にルハラの登録手続きを行った。
手続きの中、俺は依頼でルハラと共にできる奴がないか、調べ始めた。しばらく依頼掲示板を眺めると、こんなのがあった。
消毒草の捜索
依頼主:マッサシ・シーロタ
現場:シムケン山
内容:仕事で解毒に使う消毒草のストックが切れそうです。
いつも行く山へ取りに行ったのですが、モンスターが住み着いてしまい、取りに行けなくなってしまいました。
私の代わりに行ってきてもらえませんか? 最低でも、袋一つ分取ってきてください。多く採取したらその分の追加報酬を出します。
薬草の調達か。それなら簡単そうだし、この辺りに出るモンスターも弱い奴ばかりだ。それにシムケン山は高くない山だし、ここから近い。
「剣地、手続きが終わったわよ」
どうやら手続きが終わったようだ。これで、ルハラも俺たちのパーティーの一員となったわけだ。
「そうか。じゃあ早速任務に行くか。丁度ルハラでもできそうな任務を見つけたぜ」
「どれどれ……薬草の調達ね。これなら簡単にこなせそうね」
「初めての依頼……がんばるぞい!」
その後、俺たちは消毒草の捜索依頼を受け、シムケン山へ向かった。
剣地:シムケン山の入口
シムケン山へは徒歩で向かった。ロイボの町からはそんなに離れてなく、歩いて三十分ぐらいの距離だ。
「うし、着いたか」
山の入口に着くと、成瀬は植物図鑑を取り出し、消毒草の写真を俺とルハラに見せた。
「これが今回の目的の消毒草よ。草自体の色は青と白が混じった色で、主に山の中腹付近に生えている」
「簡単な山登りだねー」
ルハラは山頂を見て、こう言った。俺は少し考えた後、成瀬とルハラにこう言った。
「俺がスカイウィングで先に行って草を取ってこようか?」
「その方が簡単だけど、ここに住み着いたモンスターが気になるわ」
「この辺の奴なら、そんなに強くないだろ。じゃあ先行ってくる」
俺はスカイウィングを使い、空を飛び始めた。
成瀬:シムケン山の山道
剣地が先に行ったから、私とルハラは歩いて山頂に向かうことになった。
山道はそんなに激しくなく、道中出てくる敵もヤバジカとかはぐれゴブリンとかそんなもんだった。難なく私の魔力で蹴散らすことが出来た。
「おおーっ。すごい」
ルハラが目を輝かせながら、私を見た。まぁ、マジックマスターとゼロマジックのおかげで、このとんでもない強さがあるのだけど。
しばらく歩いていると、少し大きめのヤバジカが襲ってきた。私は剣を構えていたが、ルハラが魔力を放っていた。
「今度は私がやる」
ルハラの右手から、風の矢が放たれた。風の矢はヤバジカの胸を貫き、消えた。攻撃を受けたヤバジカは悲鳴を上げることなく、その場に倒れた。
「弱点を貫いたから、一撃でやったはずだよ」
「すごい」
「一応風の魔力をマスターしたからねー」
ルハラは倒したヤバジカの素材をはぎ取りながら、こう言った。
それからしばらく歩いていたが、モンスターは襲ってこなかった。そんな中、ルハラが私にこう聞いた。
「ねー、ナルセってケンジのこと好きなの?」
「ふぇっ!」
思わず、私はルハラの方に振り向いた。
「朝、私がケンジにちょっかい仕掛けた時、顔を真っ赤にして嫉妬していたよね」
「そりゃ……そうだけど……」
「やっぱり、好きな人が他の子と寝ていたら嫉妬するよねー」
グッ……この子はいろいろと察している。これはごまかしてもしょうがない。
「そうよ、剣地のことはずっと好きだった。日本で死んだ時、もう二度と会えないと思ったけど、またこの世界で一緒になれたのはうれしかった」
「素直に好きって言えばいいのに」
ルハラは簡単にこう言うけど、簡単に言えないの。好きってあっさりいえたら、どんなに楽なことか。
それよりも……あいつに向かって好きって言うことが、かなり恥ずかしい!
「あー、なかなか言えないのね」
「そうよ……」
「ま、気楽に行こうや。その前に私がケンジに告白すると思うけど」
この子、今さらっととんでもないこと言ったわね。
「まさか、ルハラも剣地のことが……」
「好きだよー。今晩一緒に寝るって聞いてみる」
「ダメェェェェェ! そんなこと聞いちゃダメ!」
私はルハラにこう叫んだ。ルハラは笑みを作り、私にこう言った。
「じゃあ私より先に言えばいいじゃない」
「だけど……それって……でも心の準備が」
「好きでしょ? 想いは素直に吐いて、気を楽にしようよ」
「もし、私と剣地の関係が変わったら……」
「ただの男女から、特別な関係になることを、ナルセは望んでいたのでしょ?」
「うん」
「だったら、私より先に告白しなよ。私はその後でいいから」
「は?」
この子、最後の最後で変なこと言ったよね。結局剣地に告白しようと考えているじゃない!
「結局ルハラも告白するじゃない」
「あれ、この世界の結婚に関しての法律知らないの?」
「日本と同じでしょ、結婚は一人しかできない」
「ニホンという国ではそうなのね。だけどここじゃあたくさんの人と結婚できるよー」
それってつまり……多重結婚が可能ってこと? どうなっているの、この国の価値観は?
私が混乱している中、獣のような声が響いた。山頂からだ。
「何かあったのかしら?」
「急ごう、なーんかやばそうな気がする」
私とルハラは、慌てて走り出した。剣地が無事だといいけど。
剣地:シムケン山の山頂
成瀬の予感が当たってしまった。スカイウィングで山頂に着いた矢先、プテラノドンみたいな鳥が俺の目の前に飛んで降りてきた。
どうやら、依頼文に書いてあった住み着いたモンスターはこいつらしいな。
周囲を見回すと、消毒草がたくさん生えている。だけど、この状況で草を取っていたら襲われてしまう。
やるしかないなと思った俺は銃を装備し、銃口をプテラノドンもどきに向けた。
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