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泣き落としの真っ最中ですが
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ええ、まぁ、そうでしょうね。
不審そうな男に、私は内心うなずいた。
私としては、赤い月なんてもののほうが不思議だけど、ぽんと渡された異世界のガイドブックを見せられて、不審に思わないほうがおかしいよね。
ましてや、それを渡した初対面の女が、異世界から来た、なんて言ったら、不審でしかないと思う。
ドン引きされて、この場に置いて去られても不思議はないレベルだ。
私は、逃がさないぞとばかりに、彼のマントを握る手に力を込めた。
けれど、男は顎に指をあててすこし考え込んだと思うと、「だが」と切り出した。
「これってよ、異国じゃねえのか?確かに俺が見たことのねぇもんばっかりだし、この書物も風変りなもんだけどよー。異世界ってのは、なぁ」
ガイドブックで紹介されているものにひどく動揺していたくせに、男は案外冷静に言う。
なので、私も冷静に、私がこの世界を異世界だと判断した理由を告げた。
「私からすると、こちらの世界のほうが不思議なんです。まず、私のいた世界では、赤い月なんてありません。月は夜、暗い時に星とともに白くあわく光るものです。こんなふうに、昼間のように世界を明るく照らすものではないんです。真っ赤な月なんて見たことがありません」
よどみなく話しながらも、私は男の反応をうかがう。
男の態度に嫌悪や恐怖が混じるようなら、彼に頼ろうという作戦はだめになる。
やっぱりほんとのことを打ち明けるのはやめて、身寄りのない娘のふりをしたほうがよかったかな。
だけど、私にはなにも知らないまま、異世界で上手に生きていく自信なんてない。
頼れそうな相手を全力で頼って、相手の庇護を得る。
逃げられそうなら土下座でも泣き落としでも、なんだってしてやる。
幸いこの人、情にあつそうだから、捨て身の作戦がききそうだしね。
……私って、けっこうひどいヤツ?
だけど、こっちだって緊急事態なんだし!
見逃してください!
私はどこかで見ているかもしれない神様的なものに、こっそり謝罪しつつ、男に話し続けた。
「それに、魔獣みたいなものもいません。あなたが持っていらしたような、光る剣もないんです……」
話すうち、私の語尾は震え、目には涙がうかんできた。
しめしめ、これで彼の同情をひける…。
とはいえ、涙も震えも本物だった。
「ここがどこか、なぜ私がこんなところにいるかわからないんです…!ちょっと前までは、私は私の世界にいました。いまお渡しした本の場所に、遊びにいこうと思っていたんです。なのに、なぜか気づいたらここにいて、獣に襲われかけていて…」
目にうかぶ涙を、指で拭いながら、言葉をつむぐ。
やばい、このままじゃさっきみたいに、マスカラで顔がぐちゃぐちゃになる。
そう思っているのに、涙はとまらない。
なんでだ。さっきあんなに泣いたのにな。
「獣に襲われるなんて、私の世界じゃありえない。そんなことが私の身におこるなんて、考えたこともなかったのに……」
言いながら、とうとう私の足元は力がぬけ、その場に座り込んでしまった。
私は膝に顔を押し付け、ぐちゃぐちゃになっているだろう顔を隠す。
なんていうかさ、自分で思ってるよりショックだったんだろうなー。
いい年してこんなふうに人前で泣くとかないわーと思っているのに、体の震えも、涙もとまらない。
「家に、帰りたい!元の世界に帰りたいんです……!」
とうとうさっきから渦巻いていたいちばんの願望が、口から飛び出る。
こんなこと、この人にいってもしょうがないだろうけど。
なにより、そんなことはできないって否定されたり、嘲笑たりしたら耐えられないと思って、言わなかったのに。
帰りたい。
その言葉は、口にだしたとたん、儚く消えそうだった。
不審そうな男に、私は内心うなずいた。
私としては、赤い月なんてもののほうが不思議だけど、ぽんと渡された異世界のガイドブックを見せられて、不審に思わないほうがおかしいよね。
ましてや、それを渡した初対面の女が、異世界から来た、なんて言ったら、不審でしかないと思う。
ドン引きされて、この場に置いて去られても不思議はないレベルだ。
私は、逃がさないぞとばかりに、彼のマントを握る手に力を込めた。
けれど、男は顎に指をあててすこし考え込んだと思うと、「だが」と切り出した。
「これってよ、異国じゃねえのか?確かに俺が見たことのねぇもんばっかりだし、この書物も風変りなもんだけどよー。異世界ってのは、なぁ」
ガイドブックで紹介されているものにひどく動揺していたくせに、男は案外冷静に言う。
なので、私も冷静に、私がこの世界を異世界だと判断した理由を告げた。
「私からすると、こちらの世界のほうが不思議なんです。まず、私のいた世界では、赤い月なんてありません。月は夜、暗い時に星とともに白くあわく光るものです。こんなふうに、昼間のように世界を明るく照らすものではないんです。真っ赤な月なんて見たことがありません」
よどみなく話しながらも、私は男の反応をうかがう。
男の態度に嫌悪や恐怖が混じるようなら、彼に頼ろうという作戦はだめになる。
やっぱりほんとのことを打ち明けるのはやめて、身寄りのない娘のふりをしたほうがよかったかな。
だけど、私にはなにも知らないまま、異世界で上手に生きていく自信なんてない。
頼れそうな相手を全力で頼って、相手の庇護を得る。
逃げられそうなら土下座でも泣き落としでも、なんだってしてやる。
幸いこの人、情にあつそうだから、捨て身の作戦がききそうだしね。
……私って、けっこうひどいヤツ?
だけど、こっちだって緊急事態なんだし!
見逃してください!
私はどこかで見ているかもしれない神様的なものに、こっそり謝罪しつつ、男に話し続けた。
「それに、魔獣みたいなものもいません。あなたが持っていらしたような、光る剣もないんです……」
話すうち、私の語尾は震え、目には涙がうかんできた。
しめしめ、これで彼の同情をひける…。
とはいえ、涙も震えも本物だった。
「ここがどこか、なぜ私がこんなところにいるかわからないんです…!ちょっと前までは、私は私の世界にいました。いまお渡しした本の場所に、遊びにいこうと思っていたんです。なのに、なぜか気づいたらここにいて、獣に襲われかけていて…」
目にうかぶ涙を、指で拭いながら、言葉をつむぐ。
やばい、このままじゃさっきみたいに、マスカラで顔がぐちゃぐちゃになる。
そう思っているのに、涙はとまらない。
なんでだ。さっきあんなに泣いたのにな。
「獣に襲われるなんて、私の世界じゃありえない。そんなことが私の身におこるなんて、考えたこともなかったのに……」
言いながら、とうとう私の足元は力がぬけ、その場に座り込んでしまった。
私は膝に顔を押し付け、ぐちゃぐちゃになっているだろう顔を隠す。
なんていうかさ、自分で思ってるよりショックだったんだろうなー。
いい年してこんなふうに人前で泣くとかないわーと思っているのに、体の震えも、涙もとまらない。
「家に、帰りたい!元の世界に帰りたいんです……!」
とうとうさっきから渦巻いていたいちばんの願望が、口から飛び出る。
こんなこと、この人にいってもしょうがないだろうけど。
なにより、そんなことはできないって否定されたり、嘲笑たりしたら耐えられないと思って、言わなかったのに。
帰りたい。
その言葉は、口にだしたとたん、儚く消えそうだった。
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