異世界で(口の悪い)騎士様に拾われたのですが

木村 真理

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恋なんてしていませんが

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「ありがとな」

 なーんてね、レイは照れくさそうに言う。
くっ、美形のはにかみ笑顔とか眼福です。ごちそうさまです。

 辺りは、すっかり闇のとばりがおりている。
いつの間にか、お邸が立ち並ぶエリアまで歩いてきていた。
高い塀とうっそうとした木々が家から洩れる明かりを遮っている。
街灯のささやかな明かりだけがあたりを照らす光源だ。
なのに、レイの銀色の髪は不思議に光を集め、輝いて見えた。

 まるで、月の騎士さまみたいだ。

 じゃなくて。
直視に絶えないレベルの美形を間近で見ているせいか、思考がメルヘンに逃げようとしている。
 けど、問題はそこじゃない。

 レイはいま、俺が前にブロッケンシュタインの当主だった時、って言った?
当主って、いちばん偉い人のことだよね?

 あれ、レイって26歳だったんじゃぁ……。
ああいうのって、もうちょい年上の方がつく地位じゃないのかなーなんて。

 しかも「前」ってどういうこと?
今は違うの?
なんで当主やめたの?
やめさせられちゃったの?
お家騒動的な?

 まだ若く、壮健ぽく見えるレイが引退なんて、訳ありとしか思えない。
陰謀とかで、今の当主に引き下ろされた、とか。

 でも、深刻な理由で引退させられちゃったにしては、レイの表情は晴れやかだ。
なんの曇りもない。

 どうしよう。
疑問はいっぱい頭に浮かぶけど、なにを聞いても地雷になりそうで怖くて訊けない。
どどどどどどどうしよう?
 って、どうもしないよね?

 うん、そうだ。
 レイは思っている以上に偉くてすごい人だけどさ、私には関係ない。
私は早々に、元の世界に戻るつもりだからね。

 そりゃちょっと、ときめいちゃったりしたけどさ。
あれは恋の真似事をして、心の平静を保とうとしただけだ。
この緊迫した事態を乗り切ろうとした自衛本能みたいなもの。

 吊り橋効果っていうの?
危険な状態にあったら、そのどきどきを恋だと錯覚するっていう、あれみたいなものだよ。

 もしくはストックホルム症候群?
レイは私をこっちの世界に連れてきた犯人じゃない。けど、異世界という私にとって現実と隔絶された広大な閉鎖空間で、今のところ頼りになるのはレイだけ。
自分の生殺与奪権を握られている相手に、高度に共感して親愛を感じるようになるのって、ちょっと似ているかなーって思う。

 ただ、それだけ。
この気持ちが、恋なわけない。

 だから、レイが手の届かない人でも関係ないじゃん。
むしろ、レイが私を保護してくれているこの現況だ。
レイに権力があればあるほど、私には都合いいんじゃん。

 って理性では片づけられるのにね。
なんでろ。胸が痛い。
年下過ぎて、狙うのにはハードル高いとか思っていたはずなのに。
年の差以上に身分差を感じて、辛いなんて。

 身分というより、人間の格の差かな。
30歳目前なのに正社員にもなったことない私と、この街をふくむ(たぶん広大な)領を治めて、街の人のために働いていたレイ。
違いすぎて、狙うとか考えただけでも申し訳ないというか…。

 はー。もう。
20代最後の一日が、ハードすぎてつらいわ。
コンプレックスを、がりがり刺激されている。

 俯いて黙りこくった私を、レイが不安げに見ている。
けど、ちょっとスルーさせてほしい。
あと少ししたら、心の整理をつけるから。

 ……って思ったのにさぁ!!

「あ、ついたわ。ここが俺んちなんだぜー」

 レイの言葉に顔をあげて、青くなったよね。
ええ、もう。そこにあったのは、想像を軽く超えた豪邸でした。
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