虐げられた無能の姉は、あやかし統領に溺愛されています

木村 真理

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本編 3

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 今日のお茶会は、花葵がお客様だ。
目的は、花葵と向き合って話すことだと、初音は思っている。

 花葵と会ういちばんの目標は、高雄と初音の婚約を受け入れてもらうことだ。
花葵が表立って統領である高雄の決定に反意を表明したり、騒ぎを起こしたりしないよう説得する。
そのための足掛かりとして、親しくなりたい。

 もちろん、すぐには無理だろう。
けれど、花葵が問題を起こせば、祖父である元老の崔亮の進退にも影響する。
崔亮が蟄居などすれば、高雄が悲しむ。
だから、初音はあきらめたくない。

(それに、花葵様と親しくなりたいのも本当だもの)

 だから、今日は統領の婚約者としてふさわしく着飾ると同時に、花葵を圧倒してはいけない。
花葵が愛用している首飾りよりも、あからさまに豪華な装飾品はさけたかった。

(だけど、やっぱり高雄様達がご用意してくださったものは、豪華なものが多い……)

 例えば、花葵の首飾りに似た様式の首飾りだ。
少し意匠は異なるものの、明らかに似ている。

 にも関わらず、その首飾りの真珠は、輝きといい、円の形の美しさといい、どう見ても花葵の首飾りよりも質がよい。

 花葵の首飾りのコンクパールが飾られていた中央には、大きな金剛石が代わりに鎮座している。
こちらの金剛石も素晴らしい明度で、虹を放つかのように輝いている。

 どう見ても、こちらの首飾りのほうが、格段に豪華だった。

(これは、絶対にだめ。花葵様を不快にさせるに決まっているもの)

 初音は小さく身震いして、手に取った首飾りを卓に戻した。
雪姫が、残念そうにため息をつく。

(だけど、これも、これも、これも。全部、豪華すぎる……)

 すべてが美しく、初音の好みではあった。
けれど、身に着けるとなると気がひけるし、今日のお茶会には適さないと思う。

 初音が装飾品に目を止める度、雪姫と樹莉がそわそわする。
ふたりが作ってくれたものなのだろうかと思うと、選ばないことの気後れもする。

(どうしよう……。どれかは、選びたいのだけど……)

 ふたりの期待と、豪華な装飾品の間で、初音は迷う。
と、その時、小さな装飾品が目に入った。

(あ、これは、もしかすると……)

 初音は、うずら卵ほどの大きさの装飾品を手に取った。
平べったい楕円形の銀細工の装飾品だ。
銀細工でつくられた梅の花が流線形に並び、その花の中央に小さな桜色の真珠が飾られている。

 一見、ブローチのように見える。
けれど初音は、くるりと裏返して、うなずいた。

(やっぱり、これは帯留めだわ)

 装飾品の裏側には、針などはない。
紐を通すふたつの穴が空いているだけだった。

 帯留めは、帯を結んだ後、固定するために帯の上から巻く帯締めを飾る装飾品だ。
帯締めにとおして、帯の中央に帯留めを飾る。
着物を身につけた時に目立つのは、もちろん着物と帯だけれど、胸元の半襟、帯揚げ、帯締め、帯留めや履物を合わせることも重要なのだと、うつしよの友は熱弁していた。

 うつしよでは、着物の時に身に着けられる宝石は、指輪と帯留めだけだった。
だから上流階級の女性たちは、こぞって趣向を凝らした豪華な帯留めを作らせたものだった。

 初音は、手の中の帯留めをじっと見つめる。
派手ではなく、かわいらしく上品で、見ていると心が弾む。

 細やかなところまでいきいきとした線を描く銀細工。
 小さいけれど形も大きさも色も揃った桜色の真珠。
うつしよの呉服店ならば、お得意様のところでだけ見せられる、そんな品だ。
 けれど気後れするような圧はなく、ただただ愛らしい。

 見れば見るほど初音の好みだった。
花葵との茶会にふさわしいというだけでなく、すごく心惹かれる。

「この帯留めがいいです。こちらにします」

 ふわふわとした心地で、初音が言う。
すると、雪姫と樹莉は顔を見合わせて、微笑んだ。

「やはり、それか」

「そちらをお選びになると思いましたわ」

 うんうんとうなずくふたりに、初音は首をかしげた。

「あの……?」

「あら、ごめんなさい。……実は、そちらの帯留めは、高雄様が考えられた意匠ですの」

「我と樹莉も、初音様がお使いになりやすいように、細部に口は出したがの」

「高雄様が、これを……?」

 初音は、手の中の帯留めを改めて見た。
美しいつくりの、可愛らしい品だ。

「高雄様は、初音様の嬉しそうな表情を見るのが、いちばんの幸せなのだそうですわ」

「じゃが、あまり多くの贈り物をすれば、初音様を困らせてしまうと自重しておるのじゃ。なので、たまに、ごくまれに、初音様の重荷にならぬ程度でいいから、受け取ってやってくれ」

 雪姫は、幼い容姿に似合わない、祖母のような慈愛のこもった眼差しで、初音を見上げた。
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