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本編こぼれ話 2(3巻書籍化御礼の小話)
【3巻御礼】高雄の話(以前公開していた「3-29話」です。こちらのみ未収録のため、こちらに残します)
ある日の夕方。
高雄は、火焔と湖苑とともに食堂に入った。
「お、今日は俺たちが先だな」
食堂に初音たちの姿がないのを見て、火焔が声を上げる。
「そのようだな」
高雄はゆったりと自分の席につきながら、今は誰も座っていない隣の席を見た。
食堂につめていた近衛のひとり、重光がくすりと笑った。
火焔はそれに気づいて、そちらへ顔を向ける。
「高雄様、すっげぇとろっとろの目をしてるだろ」
「そうですね。蜂蜜漬けの飴を思い出しました」
「ははっ。それな。今なんて、初音様はまだいらしてねぇのに、初音様のお席を見るだけで、この表情なんだぜ」
火焔と重光にからかうように言われて、高雄は平然と応えた。
「俺の目には、初音のかわいらしい姿が焼き付いているからな」
「真顔で、これだもんな。ほんっと、つい最近までは女なんて興味ねぇ感じだったのに、変わるもんだよな」
火焔が言うと、重光は「ふふ」と静かに笑った。
湖苑は不思議そうに火焔を見て、首をかしげた。
「好きな女性がいるなら、当たり前では? 付き合っている女性がいる時も、いつも変わらない火焔のほうが不思議だけど」
「は? 言っとくけどな、俺は普通! 湖苑、お前も。高雄様も。ちょっと相手に溺れすぎててヤバいからな」
「火焔。僕はともかく、高雄様をヤバい扱いは、さすがに不敬だろう。それに、僕も高雄様も普通だから。ただ好きな相手のことが、すごく好きなだけだから」
火焔と湖苑が言いあっていると、高雄も首をかしげた。
「そうだな。火焔がなにを言おうと不敬だとは思わぬが、初音ほどかわいらしい存在が傍にいれば、誰しも心がとろかされる。俺は普通だと思うな」
同意を求めるように、高雄は重光を見る。
重光はそっと目をそらし、壁際の定位置に戻った。
そしていつもの取り澄ました笑顔で、告げる。
「初音様たちがいらしたようです」
「あぁ……。そうだな」
高雄は、初音の足音を聞き取って、立ち上がった。
同時に、食堂の扉が開く。
「高雄様、火焔様、湖苑様。お待たせいたしました」
高雄たちが先に席についているのを見て、初音が微笑んで言う。
(かわいい)
高雄は、その初音の笑顔にくぎ付けになった。
初音は、初めて会った時から、高雄の目を、心を惹きつけてやまない。
一瞬ごとにその気持ちは増すようで、高雄自身、自分の心に戸惑いを覚えることもしばしばだ。
けれど、初音がこの世のなによりもかわいらしいのは厳然とした事実なので、それもやむを得ないことだとも思う。
そして、今日の初音は。
いつにもまして、かわいい。
初音がかわいいのは、いつものことなのだが。
特記すべきなのは、身に着けている衣装だった。
今日、初音が身に着けているのは、初音の故郷である大統国の着物だった。
薄い紅梅の無地の着物は艶が美しく、そこに淡い金色の帯を蝶々のように結んでいる。
そして、帯の真ん中には、銀と小さな桜色の真珠でつくった梅の花の帯留め。
高雄が、初音に似合いそうだと……、控えめな初音が喜んで身に着けてくれそうだと考えてつくった帯留めだった。
着物も帯も一級の品らしい見事な艶とやわらかな色彩であるのに、飾りも極限まで抑えているのは、帯留めを目立たせるためだろう。
「初音。それは……」
高雄は初音の前に立ち、帯留めを見る。
すると初音は恥ずかし気にうつむき、けれど手は大切そうに帯留めを撫でる。
そして、そぉっと高雄を見上げた。
「これが、素敵だなと思ったので。今日のお茶会は、この装いにしてもらったのです。あの……、この帯留めは、高雄様がつくってくださったと伺いました」
真っ黒な、大きな初音の目が、高雄を見つめる。
うるんだような、美しい目だ。
高雄の心臓が、大きく跳ねる。
「そうだ。初音に似合うものをと思ってつくった。気に入ってくれたなら、嬉しい」
「ええ……! とても。とても素敵で、すごく気に入りました」
初音は頬を染めて、恥ずかし気に、高雄に笑いかける。
「そうか。それならばよかった」
高雄は、そっと初音の頬に触れ、微笑んだ。
その頬のやわらかさに、指先から全身に熱がつくようだ。
初音は、今もいつもうつしよの友とお揃いの鈴の根付と、守り刀を持ち歩いている。
刀については、斎宮の祈りの力が込められているため、初音の身を守るためにと高雄も望んだことだ。
だが鈴の根付は、それ自体はなんの力もない。
けれども初音にとっては、うつしよの友との思い出のよすがとして、お守りになっているのだ。
初音が喜ぶのなら、友の存在は有益だ。
そもそも高雄自身が、初音に友をと思って動いたのだ。
そのこと自体に不満はない。
ないのだが。
自分も、お守りのように思ってもらえるなにかを初音に贈りたいと思った。
それで自分でも、初音のために小物をつくってみた。
この帯留めは、そのひとつだ。
しかし、思った以上に、初音を想っての物作りは楽しかった。
またぜひ、いろいろとつくりたいものだ、と高雄は思う。
願わくば、いつかは初音のお守りになるようなものを、自分でもつくりたい。
そう心に大志を抱いて。
高雄は、嬉しそうに微笑む初音を目にやきつけた。
高雄は、火焔と湖苑とともに食堂に入った。
「お、今日は俺たちが先だな」
食堂に初音たちの姿がないのを見て、火焔が声を上げる。
「そのようだな」
高雄はゆったりと自分の席につきながら、今は誰も座っていない隣の席を見た。
食堂につめていた近衛のひとり、重光がくすりと笑った。
火焔はそれに気づいて、そちらへ顔を向ける。
「高雄様、すっげぇとろっとろの目をしてるだろ」
「そうですね。蜂蜜漬けの飴を思い出しました」
「ははっ。それな。今なんて、初音様はまだいらしてねぇのに、初音様のお席を見るだけで、この表情なんだぜ」
火焔と重光にからかうように言われて、高雄は平然と応えた。
「俺の目には、初音のかわいらしい姿が焼き付いているからな」
「真顔で、これだもんな。ほんっと、つい最近までは女なんて興味ねぇ感じだったのに、変わるもんだよな」
火焔が言うと、重光は「ふふ」と静かに笑った。
湖苑は不思議そうに火焔を見て、首をかしげた。
「好きな女性がいるなら、当たり前では? 付き合っている女性がいる時も、いつも変わらない火焔のほうが不思議だけど」
「は? 言っとくけどな、俺は普通! 湖苑、お前も。高雄様も。ちょっと相手に溺れすぎててヤバいからな」
「火焔。僕はともかく、高雄様をヤバい扱いは、さすがに不敬だろう。それに、僕も高雄様も普通だから。ただ好きな相手のことが、すごく好きなだけだから」
火焔と湖苑が言いあっていると、高雄も首をかしげた。
「そうだな。火焔がなにを言おうと不敬だとは思わぬが、初音ほどかわいらしい存在が傍にいれば、誰しも心がとろかされる。俺は普通だと思うな」
同意を求めるように、高雄は重光を見る。
重光はそっと目をそらし、壁際の定位置に戻った。
そしていつもの取り澄ました笑顔で、告げる。
「初音様たちがいらしたようです」
「あぁ……。そうだな」
高雄は、初音の足音を聞き取って、立ち上がった。
同時に、食堂の扉が開く。
「高雄様、火焔様、湖苑様。お待たせいたしました」
高雄たちが先に席についているのを見て、初音が微笑んで言う。
(かわいい)
高雄は、その初音の笑顔にくぎ付けになった。
初音は、初めて会った時から、高雄の目を、心を惹きつけてやまない。
一瞬ごとにその気持ちは増すようで、高雄自身、自分の心に戸惑いを覚えることもしばしばだ。
けれど、初音がこの世のなによりもかわいらしいのは厳然とした事実なので、それもやむを得ないことだとも思う。
そして、今日の初音は。
いつにもまして、かわいい。
初音がかわいいのは、いつものことなのだが。
特記すべきなのは、身に着けている衣装だった。
今日、初音が身に着けているのは、初音の故郷である大統国の着物だった。
薄い紅梅の無地の着物は艶が美しく、そこに淡い金色の帯を蝶々のように結んでいる。
そして、帯の真ん中には、銀と小さな桜色の真珠でつくった梅の花の帯留め。
高雄が、初音に似合いそうだと……、控えめな初音が喜んで身に着けてくれそうだと考えてつくった帯留めだった。
着物も帯も一級の品らしい見事な艶とやわらかな色彩であるのに、飾りも極限まで抑えているのは、帯留めを目立たせるためだろう。
「初音。それは……」
高雄は初音の前に立ち、帯留めを見る。
すると初音は恥ずかし気にうつむき、けれど手は大切そうに帯留めを撫でる。
そして、そぉっと高雄を見上げた。
「これが、素敵だなと思ったので。今日のお茶会は、この装いにしてもらったのです。あの……、この帯留めは、高雄様がつくってくださったと伺いました」
真っ黒な、大きな初音の目が、高雄を見つめる。
うるんだような、美しい目だ。
高雄の心臓が、大きく跳ねる。
「そうだ。初音に似合うものをと思ってつくった。気に入ってくれたなら、嬉しい」
「ええ……! とても。とても素敵で、すごく気に入りました」
初音は頬を染めて、恥ずかし気に、高雄に笑いかける。
「そうか。それならばよかった」
高雄は、そっと初音の頬に触れ、微笑んだ。
その頬のやわらかさに、指先から全身に熱がつくようだ。
初音は、今もいつもうつしよの友とお揃いの鈴の根付と、守り刀を持ち歩いている。
刀については、斎宮の祈りの力が込められているため、初音の身を守るためにと高雄も望んだことだ。
だが鈴の根付は、それ自体はなんの力もない。
けれども初音にとっては、うつしよの友との思い出のよすがとして、お守りになっているのだ。
初音が喜ぶのなら、友の存在は有益だ。
そもそも高雄自身が、初音に友をと思って動いたのだ。
そのこと自体に不満はない。
ないのだが。
自分も、お守りのように思ってもらえるなにかを初音に贈りたいと思った。
それで自分でも、初音のために小物をつくってみた。
この帯留めは、そのひとつだ。
しかし、思った以上に、初音を想っての物作りは楽しかった。
またぜひ、いろいろとつくりたいものだ、と高雄は思う。
願わくば、いつかは初音のお守りになるようなものを、自分でもつくりたい。
そう心に大志を抱いて。
高雄は、嬉しそうに微笑む初音を目にやきつけた。
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