婚約破棄された令嬢は、復讐を祈って、その駅に身を捧げる

木村 真理

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 フリーダは、その晩、貯めていたお金をかき集めた。
混乱と衝撃が退いてくるにつれて、怒りと憎しみが募った。

 そして、思い出したのだ。
寄宿学校で、ある夜、友人たちがひっそりと語っていた「怪談」を。

 帝都からそう遠くない「アンノーン」という田舎の小さな駅。
そこは特に特徴のない田舎の駅だというのに、婚約破棄された令嬢が何度も自殺しているという。

 不思議なのは、それだけではない。
そこの駅で令嬢が自殺する原因となった婚約破棄した男や、相手の女たちは、その後すぐに破滅しているという。

 だから、と、その時友人は言っていた。

「どうしても、どうしても、許せないようなことが未来に起こった時、私ならあの駅に飛び込むわ。非力な女の身で、できる復讐なんて限られている。だったら、その呪いにかけてみようと思うの」

 あの時、フリーダは友達に「不吉なことを」と笑った。
「いくら辛いことがあっても、自殺なんて神の教えに背くわ」と、知ったような顔で諭した。
どんなに辛いことがあっても、命さえあれば挽回できるものだと、あの日のフリーダは本気で信じていたのだ。



 けれど、今。
 
 地代のことで、大男たちに責められたときも、毅然として対応できた。
大金を貸していた商会がつぶれたときも、父と共に走り回り、損失を補填できた。
父と母を失いそうになってさえ、家を守るための結婚の手配を冷静に行えた。

 自分は強いのだと、フリーダは思っていた。
けれど、今回のような、自分の恥に対しては、フリーダはまったく無防備だった。

 フリーダは、嫁ぐ前に身を汚し、それを相手の男と妹に知られている。
彼らの倫理観はフリーダとは決定的に違い、面白がって誰かにそれを吹聴しかねない。
もはや、まともなところへ嫁ぐどころか、修道院へ入ってすら、社会の好奇の目から逃れることはできないだろう。
 そのような汚辱のなかで生きていける強さは、フリーダは持っていなかった。



 フリーダは荷物をまとめた。
住み慣れた我が家は、もう、悪魔の巣窟に成り果てていた。
唯一の気がかりは、父のことだった。

 フリーダは家を出る前、最後にひとめと、父の顔を見に行った。
寝台に横たわる父は、すでに目を開けることなく、ただ死を迎えるための数刻を食んでいるようだった。
けれどフリーダがその手を握りしめたとき、その目がかすかに動いたような気がした。

「さようなら、お父様。今まで育ててくださってありがとうございます。フリーダは、お父様とお母様の娘として育てられ、とても幸せでした。なのに、……ごめんなさい。フリーダは、親不孝をいたします」
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