乙女ゲームの悪役令嬢に転生しましたが、この恋は諦められません

木村 真理

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明朝。
まだ太陽ものぼらないうちに、お兄様は出立された。

わたくしは、せめて王城までご一緒したいと申し上げたけれども、お兄様に断られた。

「この家をでれば、私はハッセン公爵の跡取りとして毅然としていなければいけないからね。しばらくリアに会えないんだ。最後は君を抱きしめてから行きたいからね?」

お兄様は、お兄様らしくもなく冗談めかしておっしゃる。

「最後なんて、言わないでくださいませ……っ」

また涙がこみあげそうになって、わたくしは唇をかむ。
しばらくお待ちしていれば、お兄様は帰っていらっしゃる。
わたくしは、そう信じているのだから、泣かない。
そう思うのに、涙がこみ上げてくる。

「すまない。……リア、出立の用意をありがとう。さすがだね、確認したけれど、よくできていた。私たちが不在の間、家のことは頼んだよ」

「ええ。ええ。お任せください。この家はちゃんと守って、お父様とお兄様のお帰りをお待ちしております」

わたくしが言えば、お兄様は優しく微笑んでくださった。
そしてエミリオに向き直り、エミリオにも言葉をかける。

「エミリオ。リアを頼む」

「はい。ガイ様」

「……それから、万が一。もしも王都の障壁が破られたら。リア、災害時と同様、この家に周辺の住民を避難させるよう指示するんだ」

「……はい、お兄様。けれどもそんなこと、ありえませんわ。だってお父様とお兄様がザッハマインに向かわれているんですもの。ね?」

お兄様のお言葉が、いつもの出立のときよりも重い。
わたくしは安心していただけるように祈りつつ、力強く応えようとするけれど、声が震えないようにするので精一杯だ。
それでもお兄様は、わたくしの心を汲み取って、頭をなでてくださった。

「そうだな。……エミリオ。君は……、もし可能であれば、ファラン商会に食糧などの売買の制限をかけるよう話をもちかけてくれないか?」

「食料の売買を制限?なんのために、ですか?」

「もしもこの混乱が続き、買い占め騒動が起こった時の抑制をになってほしい。もちろんすぐにではない、もし万が一シュリー州の障壁が破られ、再度王の障壁を敵に突破された時でいい。判断は君やファラン商会に任せる。損害はハッセン公爵の私財で補償しよう」

「……俺はファラン商会の人間じゃないし、親しくしていたマリオも行方がしれません。話をもちかけることはできますが、承諾してもらえる可能性はかなり低いですよ」

「かまわないさ。そもそもシュリー州の障壁がさらに突破されること自体、ほとんどないだろう可能性だ。これは本当に万が一の話だ」

お兄様はエミリオに笑っておっしゃると、家令のカーラをはじめとする使用人にも指示を与えられる。
そして、おひとりで王城へ出立された。

最後に、わたくしはお兄様にぎゅっと抱きしめていただいた。
お兄様はわたくしの髪に口づけし、お約束をくださった。

「リア。大切な君のもとへ早く帰れるよう、努力するよ」

わたくし、信じています。
お兄様たちが帰っていらっしゃるのを。
だから、お父様、お兄様。
はやく帰ってきてください。
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