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「桐生…君…」

生徒会室で突き飛ばしカギも置いて出たきり。これでもうおしまいだと思っていたのに…。まさか家にまで来るとは思わなかった。


「何か…用?」

ダメ。せっかく忘れようと頑張っているのよ。
これ以上わたしの前に現れてくれたら、離れたくなくなっちゃう…!

だから…なるべく目も合わさないようにして用件を訊いた。

「何か用じゃねぇよ!
さっきは一体どうしたんだ。オレ、何か榊の気に障る事でもしたか?」

やっぱり、その話だ。
急にあんな態度を取られたら、そりゃそうなるのは当然だとは思う。

だけど…


「…突き飛ばしたのは悪かったわ。ごめんなさい。
用件はそれだけ?じゃあ…」

あまり長く話すわけにはいかない。
わたしは早々とドアを閉めようとした。

だけど、すぐに桐生君はそれを制した。


「待てよ!
何なんだよ、何で急にオレを避けようとするんだよ!」

閉めようとするドアを無理やり開けるように引っ張られる。

反動でわたしの身体が玄関の外に出た。
そしてその勢いでわたしの腕を桐生君は掴んだ。


「いきなりキスしたのは悪かったよ!
だけど、理由もなしに急に今日で終わりとか言って避けるなんて、そんなんじゃ納得出来ないだろ!
せめてちゃんと理由を言えよな!」

初めて見せる、桐生君の本気で怒った顔。
いつも余裕の笑みしか見なかった桐生君のそんな表情に、わたしはビクッとなる。

わかってる。
桐生君が怒る理由はわたしが一番よくわかってる。
だけど、本当の事は言えないから…

本当の理由は、わたしの中だけにしまっておくわね。


「…簡単な事よ」

わたしの腕を掴む桐生君の手を、わたしはそっと反対の手で引き離した。

「アンタの事、顔も見たくないくらい嫌いになったからよ!」

…言った自分の方が、言われたみたいにグサッと傷付いた感じだった。

好きな人から、顔も見たくないくらい嫌いなんて言われたらどんな気持ちか。
そしてそれを言った方の気持ちは?

あれだけわたしに怒ったような顔をしていた桐生君もそんなわたしの言葉に、表情が消えた。


「さか…」

「だから…もう二度と、わたしの前にも現れないで」


もう一度ドアノブを掴み、わたしはゆっくりとドアを閉める。

そしてパタンと閉まったドア。


最後に見えた桐生君の顔。
多分…わたしも今、同じ顔してるんだと思う。




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