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「ははっ
これが榊の本当の顔なんだな。
お互い執行部にならなかったら、きっとオレ、ずっとそんな榊を知らないままでいたと思うよ」


わたしだって、ここに来なかったら灰色の毎日を過ごしていただけだった。

こんなにも自分をさらけ出せる場所なんて他になかったから…。
わたしの事を理解してくれる人なんて他にいなかったから…!


「最初はツンツンしてる奴だなぁって思ってたよ。
でも、本当の榊はすごくかわいいよ」


ギュッと目を閉じたまま顔が熱くなってきた。
かわいいなんて…言われる事ないんだものっ


「もぉ!早くしてよ!
ずっと待ってるの、わかってるでしょっ!!」


頬だけじゃない、顔全体が熱くなってるのが自分でわかる。
このまま放置されてたら、恥ずかしくて死ぬんだから!


「ははっ、わかってるって。
て言うか、オレももう限界…」

そう言った後、わたしの唇に桐生君の感触が伝わってきた。背中に回された腕がギュッと更に強く抱き寄せられた。

合わせた唇が、それに伴ってもっともっと密着する。


「……ぅ ん………」

「…榊、声出しちゃダメだろ」

「だって……んんっ」

桐生君のキスがもっと激しくなり、わたしの思考すらも溶かしていく。


頭脳明晰で容姿端麗。
性格はおしとやかでいつも冷静沈着。
そんな偽物のわたしをかき乱し、桐生君は本当のわたしを見つけてくれた。


「好きだよ…榊…
オレの前じゃ、本当の榊でいろよ」


気の抜けない毎日に癒やしと安らぎを与えてくれる桐生君。
知らない間に、わたしも恋してたんだね。


「…ん。
わたしも…好き…」

そんなわたしたちを結んでくれたのは、誰の目も気にしなくていい、何の校則も受け付けないこの生徒会室。

この…ヒミツの生徒会室なんだ。







グラウンドから微かに響いてくる運動部の声。
まだ教室で文化祭の出し物の準備をしてるだろう生徒たちの物音。

だんだんと陽が沈み、閉められたカーテンから入る光はどんどん減っていき、生徒会室の中は視界が悪くなっていく。

内緒で居留守をしているから照明はつけられない。

ずっと桐生君の腕に包まれたまま、時間ばかりが過ぎていく放課後。


「…帰らなきゃ、ママに怒られちゃうな…。
副会長辞めたって、もう言っちゃったし」

「何で辞めなきゃならないんだよ」

「副会長ってのはお飾りみたいな存在だしね。
それで成績落としたんじゃ、割に合わないのよ」

「じゃあ、成績落ちなかったら辞めなくていいのか?」

「ん、多分…まぁ成績が一番だもんね…」

とりあえず以前のように学年1位さえキープ出来たら問題ないだろう。

副会長たって、執行部ってだけでも内申点アップもあるもんね。

「じゃあさ、今度から一緒に勉強しようよ。
テスト週間とかならここでさ」

「え?ここで?」

「そ。
テスト週間は集まりはやめにして、オレたちふたりだけで一緒に」

ふたりだけ
そんな言葉にまだ反応してドキンとする。

ふたりだけなら今だってそうなのにね。


「別にここじゃなくても、その頃には恋愛は解禁されてるんだからいいじゃない?」

校則違反だから内緒で利用していた生徒会室。
その恋愛禁止も、いよいよ今日で終わるんだ…。


「それはそうなんだけどさ。
なんかここって、オレと榊の秘密な場所って感じがして好きなんだ。
ダメかな?」


わたしと桐生君の秘密な場所…。

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