紫に抱かれたくて

むらさ樹

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それから適当にお酒を注文すると、クロウと一緒に話をしながら飲んだ。

話って言っても、あたしは話す事ないからクロウの事ばっかり聞いてただけだけど。


その間ランクの下のヘルプホストたちは、こまめにボトルのお酒をついだり、チリ1つ入った灰皿をすぐに取り替えたりしていた。

スゴい気配り。
ご苦労さま。

でもそれだけね。


そうやって適当に時間が過ぎていってると、誰か他のホストがクロウのもとへとやってきて何か耳元に囁いていた。

あぁ、そうか。

案の定クロウはそれを聞いて、急に眉を下げながらあたしに言った。


「ゴメン、呼ばれちゃった。
すぐ戻るから」

クロウが立ち上がったと同時に、今来たホストが代わりにあたしの隣に座った。


「よかったら、今度は俺と飲まない?」

クロウが去って次に現れたのは、金色に染めた長髪の男。
やはりネクタイは締めてなくて、シャツの襟を立てて胸元を大きく開いている。



「見ない顔だね。
ここは初めて?
名前、何て言うの?」

「愛よ」

「愛ちゃんね。俺は水輝みずき
じゃあ愛ちゃんと俺の出会いに乾杯」


そう言って、ほぼ無理やりあたしの持つグラスとカチンと合わせた。


…そうやって他のお客に呼ばれたのを良い事に、きっとクロウは今のうちにあたしの注文したお酒を吐き戻し、何食わぬ顔で次のお客の所に行っているんだろう。


それからあたしには、代わりに来たホストによってまたお酒を注文させる。

これがこのホストクラブの採算のカラクリなのね。



「愛ちゃん大丈夫?
こんな所に来て、彼氏に怒られない?」

「え?彼氏なんていないから、全然大丈夫よ」

「ウソ!彼氏いないの?
信じられない、もったいないなぁ~」


オーバーに驚いた風に言う、水輝ってホスト。
あたしがこんな仕事してるって知ったら、誰だって彼女になんかしたがらないだろうけどね。

…なんて、もちろん言わないけど。



幸い水輝は、あたしの仕事については訊いて来なかった。


…ふぅ。
遊べるかと思って来たホストクラブ。
確かに、イケメン揃いのホストに囲まれてお酒を飲んだり話をするのも悪くはないけれど。

でもやっぱり、これと言って刺激を感じたわけでもないし、通いたいと思うような所じゃなかった。



「さて、そろそろ…」

お酒のボトルも空いたキリの良い所で、その腰を上げようとした。


__その時だ。

急に店の奥から、ホストたちの声が大きく聞こえてきたのだ。

「お疲れ様です!」

「お疲れ様です、紫苑さん!」


ナンバーワンのようなランクの高いホストは、開店から遅れて来るものだというのは知っている。

さっきナンバーワンであるクロウが来たのに、お疲れ様だなんて言われるホストがまだ他にいるのだろうかと、つい興味本位で声のした方を見てみた。


するとその人物は店内をグルリと歩いて回ってくるようで、まずは早速一番近くにいるあたしの席の前まで来ていた。


あたしの隣に座る水輝や側にいるヘルプホストたちは急に立ち上がり、その人物に会釈をしながらあいさつをした。


「お疲れ様です、紫苑さん!」

「うん、お疲れ様」


そうあいさつを返した紫苑と呼ばれた人を見上げてみた。

やっぱりこんな世界では上下関係は厳しいもの。
さて、クロウ以外の上ランクのホスト、どんな男なのかし……


「______っ!!」


その紫苑と呼ばれた人物を見た途端に、思わず胸が高鳴った。

髪は金に近い、明るい茶髪。
長髪と言う程ではないけど少しオシャレに伸ばしていて、まるで少女マンガに出てくるような王子様みたい。


顔だって王子様の如く整っていて、イケメン…というより美形と言った方がしっくり来る感じだ。


ポーッとそんな彼の方に見とれていると、あたしはとうとう彼と視線が合ってしまった。

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