紫に抱かれたくて

むらさ樹

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「こんばんは。
今日は来てくれてありがとう。
ゆっくり楽しんでいってね」

「ぁ…っ」


目を合わせたまま柔らかい笑みを見せそう言った彼に、ドキンとした。


黒いシャツに紫色のジャケットスーツを着た彼は、律儀にネクタイも締めていた。

特別格好はつけていないのに、でもスゴくかっこいい…!!

それからしばらくの間も、あたしの視線は次の席へと回っていった後も、彼の姿だけを追って見てしまっていた…。





「…愛ちゃん。
愛ちゃん。
どうしたの?」

「…はっ」

ピンピンと服の袖を引っ張る水輝に、ようやく気が付いた。


見とれてた。
あたしはあの紫苑って人に、すっかり見とれてたんだ。


「ね、ねぇ?今のあの人もここのホストなの?
あの人はナンバー何なの?」

気になってしまったあたしは、水輝に顔を寄せて訊いてみた。

ナンバーワンがクロウなら、紫苑はナンバーツー?
でもネクタイもちゃんと締めてあったし、まるでランク下のホストみたい。

でもあんな美形で笑顔もステキな人がランク下なんて、そんなの考えられないけど…。



「あの人は紫苑しおんさんって言って、ここの“club-shion”のオーナーなんだよ」

「オーナー!!
…て事は、ホストではないの?」

「元は誰もが敬うナンバーワンホストだったよ。
オーナーになってからも、ああやって時々店に来て挨拶に回ってくれるんだ」


元ナンバーワンホスト…。
今はオーナー。

だからもの凄いカリスマを持ちながら、スーツはきちんと着こなしてるんだわ。

元ナンバーワンホストの、紫苑…。


あたしはまた、引き続きテーブルをまわっている紫苑の方を見てみた。

どのお客にも、柔らかい笑みを見せながらあいさつをしている。

中には、紫苑が来たからとお酒を注文して飲ませた女もいた。
紫苑の事を知っているからなんだ。



「…………………」

いつまでも、見てしまっている。
胸のドキドキが、なかなかずっと鎮まらない。

イケメンならこの店にわんさかいるけども、あんなに魅力的な男がこの世にいたという事にも驚いたのだ。

…もっと、話してみたい。
呼んでみようかしら…。

そう思った時、


「紫苑!」

お店の入り口から紫苑を呼ぶ声がして、あたしは振り向いた。


どうやら今入ってきたお客のようだけど、紫苑の姿を見つけたからだろう。
ウエルカムホストを無視して、そのお客の女は紫苑のいる方へと手を振って駆け寄った。


「紫苑!
会いたかったぁ!」

「やぁ、久しぶり。
来てくれたんだね、ありがとう」

「まさか紫苑に会えるとは思わなかったわ!
んもぉ、今日は紫苑の為にルイのタワーしちゃう!」

「本当に!?
それは嬉しいなぁ」


駆け寄ってきた女に、紫苑は満面の笑みで応えていた。


女は化粧は濃く、派手な服。
年はあたしよりずっと上だ。

会話の内容から、きっと昔から紫苑を指名してきた常連客なんだわ。




その後。
この女が注文した通り、グラスを錐に積み重ねてお酒のボトルを何本分も注いだ、いわゆるタワーが始まった。

これには紫苑だけじゃない他のホストたちも総動員で行われ、まるでお祭り騒ぎのように盛り上がっていった。



話では聞いた事のあるホストクラブ。

その実態に、あたしは声も出せずにただ見ていた。







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