紫に抱かれたくて

むらさ樹

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総動員で騒ぎ立てられる中、オーダーで運ばれてきた瓶のお酒はグラスに注がれ凛の手元に置かれる。

そして残った瓶は立ち上がったクロウが受け取り、瓶ごと口に付けた。


「そーら いっき!いっき!」

「いっき!いっき!」

まわりのホストたちにコールをかけられながら、クロウはグビグビと瓶のお酒を飲む。


やがて飲み干したクロウは、両手を上げてみんなに応えた。

「うわぁー!!」

「いよっ!
ナンバーワンクロウ!!」

離れた場所じゃない、目の前で行われたパフォーマンスに、あたしは声も出せずにただ見ていた。


…今ので35万のお酒を抜いたのだとしたら、これいくらしたのかしら…。


「サンキュー、凛ちゃん!
オレの天使!」

「こんなのチョロいチョローい!」

お互いにウインクをしながら目を合わせたクロウに凛。


…これで、クロウのナンバーワンの座は守れた…て所なんだろうな。



ようやく騒ぎも落ち着いてきた頃。

隣でクロウと凛が良い雰囲気で飲み始めたので、あたしは何となく反対隣に座る煌の方に向いた。


「スッゴいよね。
おれもあんな風になれるの、後どんくらいなんだろ」

「そうだねー…って。
あたしを見たって、そんなの頼んであげないわよ」

「へへっ
やっぱダメか」

「当たり前でしょ」

もちろん冗談のつもりで言った煌だけど。
でも本当にあんなお酒を注文してもらえるのは、まだまだ当分先でしょうよ。


なんて思っていると、煌は急に真面目な顔してあたしの顔を見てきた。


「…よかった。
怒ってないみたいだ」

「え?
いくらあたしでも、そんな事じゃ怒ったりしないわよ」

「そうじゃなくて、この前の事だよ」

「この前の事?」

「ほらさ、おれ愛さんに初めて指名受けてさ、何か嬉しくてアレコレ訊いたじゃん?」

「あー…」

何してる人?なんて訊かれて、どう答えたらいいかわからなくてドギマギしちゃったのよね。

しかも、女に向かって年まで訊いてくるんだから。


「愛さんが帰ってからさ、おれ紫苑さんにめちゃめちゃ怒られちゃったんだよ。
そんな事ホストが訊いたらダメだろってさ」

「…紫苑が…?」

「かわいいね とかさ、何してる人?とか、ダメなんだって。
おれ的には自然に言っちゃった言葉なんだけど、この世界じゃNGワードだったみたい」

まぁ、堂々と言えるような仕事だったらいいんだけどさ。
身体張ったお金で遊びに来てまーす なんて言ったら、空気サイアクになっちゃうものね。


「せっかく愛さんが指名してくれたのに紫苑さんには外されて…スゴい、ショックだった」

「煌…」

「おれ、頑張るからさ。
これからも愛さんの隣にいていい?」

まだ年もてんで若いだろう新人君の煌。
スタイルもイマイチで話し方もまだまだなんだけど、いつかナンバーワンになるのを夢見て頑張ってんのよね。


「…大丈夫よ。
あたし、そんな事で煌に怒るほど心狭くないから」

「ありがとう!愛さん!
おれ愛さん大好きだ!」


そう言って、満面の笑みであたしの手を握った煌。


大好きね…。
あたしがどんな奴か知っても、同じ事が言えるのかしら。


「だからって、ドンペリなんか頼んだりしないからね」

「あ、やっぱダメ?」

…ま、憎めないトコは、煌の良い所だと思うけど。

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