紫に抱かれたくて

むらさ樹

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「わ、愛さんったらゴキゲーン。
さては、いい事あったなぁ?」


__仕事に入る前の控え室。

早々と身支度を終えたあたしは、姿見を見ながらニタニタ考え事をしていたのだ。

紫苑とのランチデートを明日にしてもらって、すっかり今からウキウキしていたりする。

そんなあたしを見て気付いた凛が、早速駆け寄ってきたわけだ。


「ふふっ
明日ね、仕事前にランチデートしてもらう約束ができたんだ」

「わぁ、それでゴキゲンだったんだぁ。
愛さんったら、すっかり目覚めちゃったね。
なんて、アタシもホントはウキウキしてんだけど」

すっかり目覚めた?
…うん、まぁね。

ずっと彼氏も作らないで、仕事ばっかしてた毎日だったもんね。


でもホストクラブで紫苑に出会ってからは、何て言うか…ドキドキする事に楽しさを覚えたって感じかなぁ。


「ウキウキ?
凛も何かあるの?」

「よくぞ訊いてくれました、愛さーん。
明日の休みにね、ずっと会えなかった本命君と遊ぶ約束してもらったのーっ」

本命君?
あぁ、凛の本命はクロウじゃなくて別にいるって言ってたな。

あんなに貢いでるのにクロウじゃないなんて、その本命君とやらにはドンダケ更に貢いでるのかしら。


「だってもぅ、1ヵ月近くご無沙汰だったんだもーん!
明日はいっぱいエッチしちゃうんだからぁっ」


はいはい。
ストレス発散なんだよね。

ま、確かにお客を相手にする事を考えると、自分がお客になってしてもらう方が断然良いわけだ。

それがたとえ大金を払う必要があったとしても、自分の気に入った男性が相手なら尚の事よ。

「それはよかったわね。
しっかり遊んでくればいいじゃない?」


…ふと、煌と過ごした夜を思い出した。

もちろん最初は予想外の事に驚いたけれど。
でも汚い中年男と違ってピュアな感じやまっすぐな気持ちが、あたしの心をあっためてくれてスゴく良かった。

でも、抱かれてる…て感じではなかったから、ちょっと残念だったけどね。



「エヘヘー。
で、愛さんはまたあの時のボウヤですかぁ?」

「ボウヤって、煌の事?
違うわよ。
明日は、あたしも本命の人とデートなの」


ボウヤだなんて。
凛と同じか、むしろ年上だろうに。

それに煌は、紫苑を永久指名出来なかったから何となく目の前にいた彼を代わりにしただけ。

もちろん煌は話しやすいしかわいい所あるから、嫌いじゃないんだけどね。


「あれ~?
愛さんの本命って、ボウヤじゃないんだぁ」

「そ。
前の休みの日にようやく会えてね、それで約束入れてもらえたの」


とは言え、これは一応出張扱いなのかな。

デート代、しっかり用意しなくちゃね。


「ヘェ?
んじゃあ、愛さんの本命って誰?」

「あ!凛だって教えてくれなかったのに、あたしだけなんてズルいじゃない?」

「あは。いいじゃんいいじゃん。
愛さんの好きなタイプって、やっぱりボウヤ系でしょ」

凛の本命も、あたしと同じで永久指名ホストの2人ではないみたいだけど。
もちろん永久指名ホスト以外のホストだって、一緒にお酒を飲んだり出張してもらったりはできるんだろうけど。

「彼はボウヤなんかじゃないわよ。
スゴくオトナだし優しいし、何よりあの笑顔が癒されるって言うか。
あたしだって、もったいないから凛には教えてあげないもんね」

「…ヘェ~」

「そうだ!
せっかくデートしてもらえるんだもの、何かプレゼントしようかなぁ」

そうだそうだ。
こんな仕事をしていれば、あたしもお客にプレゼントされた事はある。

ちゃんとした高級品のアクセサリーは、仕事で使えるしね。


そんなあたしも、明日は紫苑にプレゼントをしよう。
時計とかだったら、いつも身につけてくれるかもしれないものね。




__そんなわけで、翌日。

いつもならまだ布団をかぶって寝ている時間である午前中には目を覚まし、まずあたしは繁華街の高級時計店に来た。


あたしの持ってる時計も一応高級なものだけど、これもお客からもらったものだから自分で買った事はない。

て言うか、ケータイがあるから腕時計自体使わないのよね。



ガラスケースに入ったいくつかの時計を見ながら、どれが紫苑に似合うか吟味する。

ロレックス?
カルティエ?

うーん…



「贈り物ですか?」

そんな時、あたしがあまりにガラスケースを睨んでいたのに気付いた店員さんが、声をかけてくれた。


そうだ、専門の事は店員さんに選んでもらおう。


「えぇ、あのですね…」

相手は紫苑だもの。
とにかく高級感があって、とにかく一番良いものを。

値段なんていくらでもいいの。


全ては紫苑の為に、あたしの気持ちを込めて____。




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