紫に抱かれたくて

むらさ樹

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そうしているうちに食事も食べ終わると、頼んでいたデザートがテーブルに届いた。

紫苑が勧めてくれた、抹茶アイスのあずき添え。


「いただきまーす」

「うん、どうぞ」

スプーンでアイスとあずきを半分ずつすくうと、パクリと口に入れた。


「甘過ぎなくて抹茶の風味も良い。
何より、冷たくて美味しーっ」

「よかった。
その顔見たら、僕も嬉しいよ」

「紫苑ったら…。
そうだ、……はいっ」

あたしはもう一度スプーンにアイスとあずきを半分ずつすくうと、それを紫苑の口に向けた。


「僕も戴いていいの?」

「うん、食べてみて」

あたしの言葉に紫苑が口を開けると、そのままスプーンを口に運んであげた。


…まるで、ベタな恋人同士みたい。
でもこんな体験、逆に新鮮でドキドキしちゃう…っ。

「…本当だ。
とってもおいしいね」

「でしょ!
ね、もっと食べて。
ううん、半分こして一緒に食べよっ」

同じ時間に同じ空間で同じものを食べて過ごす紫苑とのデート。
単純なのに、こんなにもドキドキしちゃうのは…やっぱり紫苑とだからなのかなぁ。

こんなデート、今まであったかな…。







__…楽しい時間に限って、残酷なほど早く過ぎ去ってしまうのはどうしてなのかしら。

テーブルを囲ってお話しながら紫苑とのランチも、いよいよ終盤となってしまった。


お皿のものはみんな空っぽ。
その後も少し話はしたけれど、ちょうど話も切りがよく途切れてしまったのだ。

「…さて、お腹いっぱいになったし、出ようか」

「………ん…」

なんて返事はしたものの、本当は出たくない。
だってここを出てしまったら…今日のランチデートは終わってしまうから…。


「あ、お会計…っ」

支払いをする紫苑に、あたしは一応財布を出して声をかけた。


「こらこら。
今日は僕が誘ったデートだって言ったよ」

「……………ありがとう」


支払いを済ませると、あたしと紫苑はお店を出た。

そしてそのまま、足は最初に待ち合わせていた場所に向かって歩く…。


「あんなご飯で良かったかい?」

「うん、とっても美味しかったわ。
また、行きたいな…」


今日のデートは、あくまでも紫苑から誘ってくれたお詫びのデート。
もし、今度あたしが誘えば、紫苑は一緒に行ってくれるの…?


「そうだね。
じゃあ、次はバイキングとかどう?」

「!
…うん!」

口だけだとしても、やっぱりそう言ってくれると嬉しい!
たとえそれが、お仕事としての付き合いだとしてもね…。




来た時のようにまた肩を抱かれながら歩いていたあたしたちは、とうとう最初の待ち合わせ場所にと戻ってきた。

するとずっと抱き寄せられていたあたしの肩を、紫苑はスッと離した。


「今日は楽しんでくれたみたいで良かった。
僕も、時間を忘れて夢中になっていたよ」

「…うん。
でももう…おしまいだね」

この後は、あたしも仕事があるからずっと一緒にいられるわけじゃない。
そしてそれは、紫苑だって同じ。

だけど…本当はもっと一緒にいたい。
もっとお話をして、もっと紫苑の事を知りたい。


「じゃあ、今度は店の方で待ってるからね」

「ぁ……
ま 待って、紫苑!」

離れてしまいそうな紫苑に、思わずその腕を掴んで呼び止めた。

「今夜…お店が終わった後とか、また会えないかな。
今度はあたしからのお願いで…」


ロクな得意客じゃないのに、あたしの為に無償で時間を作ってくれた。
自惚れ…かもしれないけど、でもこうやってお願いしたら、紫苑なら聞いてくれるんじゃないかって思ったの。

だけど…


「あぁ…ごめんね。
今日はずっと予定が入ってるんだ」

「ぁ…そっか…」


改めて断られると、ズキンと胸の奥が痛んだ。

バカね。
最初からわかってた話なのに。

それに、だからって「いつならいいよ」とか「また今度予定を合わせるよ」といった前向きな返事もなかった事さえ、言葉にはしなかったけど明らかにショックは受けてしまっていた。



「…じゃあ、せめてお願いがあるの。
聞いてくれる…?」

あたしは掴んだ腕を軽く持ち上げた。

その腕には、今日あたしがプレゼントしたロレックスの時計が光っている。


「せめて…せめて今日1日だけでも、この時計をずっと着けていてほしいの」

本当はずっと紫苑の側にいたいんだけど、それが叶わないならせめて、このプレゼントをあたしの代わりに…。


「お願い…ダメ、かな?」

「…ん。
いいよ、わかった。
今日はこのまま着けておくね」

「!!
…ありがとう!」


最後にあたしに見せてくれた、紫苑の柔らかい笑顔。

そんなに優しくされたら、わかっていてもやっぱり期待しちゃう。



そんなどんどん好きになっていく紫苑に、あたしは気持ちを抑えるのが必死になっていた____。






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