紫に抱かれたくて

むらさ樹

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煌の協力①

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「…愛さん。
今の男が、客って…?」

徹のせいで乱れた服を覆うように、煌がジャケットをあたしの肩に掛けてくれた。

「ん……………」

せっかく煌が助けてくれたのに、あたしは徹を庇うような風に言ってしまった。
もちろんまだ未遂とは言え、あれだけの事をされたら十分犯罪になるだろう。

だけど常連のお客だからと思って、ついそんな扱いをしてしまったと言うか…。

何にしても、これであたしと徹が何かしらの関係性があるのは隠せなくなってしまったわけで。


「…あの人は、いつもあたしの勤める風俗店の常連さんなの。
だからなんだろうけど、ちょっと勘違いしちゃっただけなのよね」

「風俗…店…?」

案の定、煌が気に止めたのはそこだった。

言いにくい仕事だから黙ってたんだけど、これでとうとう煌にはバレちゃったわね。


「…ビックリ、したでしょ?あたしがそんな仕事してた、なんてね。
もしかしたら軽蔑しちゃったかな?」

「そ、そんな事は…」

なんて言ってくれてる煌だけど、やっぱり動揺は隠しきれていない。

まだ若くロクに恋人もいなかった煌なら、風俗で働くような女に嫌悪感を抱いたって不思議はないものね。

しかも…


「そんなお客に店の外で襲われるなんてね。
…本当、バカだよね…」

凛から聞いた約束の場所はここで間違いない筈だけど、考えてみたらあまりにも不自然な所だ。

すぐに来てくれるようになってる紫苑もいつまでたっても来ない上に、タイミングよく現れたのは徹。


「…………ぅっ…く…」

本命だと言う紫苑との約束をあっさりあたしに譲ってくれた事に違和感を感じなかったのは、あまりにもあたしが紫苑との事で頭がいっぱいだったから。

凛は…ライバルだとわかったあたしをハメる為に、わざとここに誘導したんだ…!!

目頭は熱くなり、ポロポロと涙がこぼれ落ちていった。
甘い話に簡単に釣られた自分に。
話相手だった筈の同僚の凛に、あっさりと騙された自分に。
想うばかりでなかなか縮まらない、紫苑との距離に。
…悔しくて悔しくて、涙が止まらなかった。

それでお客には襲われるなんて、あたしは…大バカだ…っ!!



「…愛さんっ!」

だけどそんなあたしを、煌は自分の胸に包み込むように抱きしめた。

ギュッと締めつけた煌の胸板から、ドクドクと心臓の音が聞こえてくる。


「愛さんはバカなんかじゃないよ!
とっても、とっても魅力的で素敵な女性だ」

「…何言ってんの。
お金さえもらえたら、身体売っちゃうような仕事してんのよ」

「それならおれだって同じだよ!」

「煌……………」

もちろん煌とあたしは同じではない。
だけどそんな風に言ってくれた煌に、あたしは少し嬉しく感じたの。
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