紫に抱かれたくて

むらさ樹

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「…実はね、あたしは紫苑と会えると思ってここに来ただけなのよ」

ゆっくりと煌の腕から解放されながら、あたしは本当の事を話した。

「騙されるなんて疑いもしないでね。もうずっと、紫苑の事ばかりが頭にあって…。
かと思ったら、うっかり犯されかけちゃったのよ?
もう…笑っちゃう…っ」

紫苑が恋しくて恋しくて、そればかり考えてて。
相手は多忙な人気ホストでもあるオーナーなのに。
そもそもあたしなんかの想いが通じるわけもないって、頭じゃわかってる筈なのに。

でも…それでも今夜、会いたかった…。


この強い想い、どうしたらいいのか自分でもわからない。

でもあたしはきっと、それでも紫苑に近付く為に力を尽くすんだわ…!!
ずっとずっと、あたしは煌を紫苑と重ねて見ていた。

紫苑を指名出来ないから、代わりに煌とお酒を飲んで。

紫苑を出張に呼べないから、代わりに煌に抱いてもらって。


あまりにも、あたしは煌を煌じゃなく紫苑として見ていたわけだ。
もしかしたらこれは、罰が当たったって事なのかもしれないな…。


「…この間、愛さんの連絡先教えてもらったね」

「えっ、あ…うん…」


何を言い出すのかと思ったら。

仲良くなると、凛とクロウみたいにお互いの連絡先を交換する事はあるみたいだと思って、あたしは煌に言われるまま連絡先を教えたのだ。


「紫苑さんが店に来る日や予定が空いてそうな日がわかったら、おれ教えてあげるよ」

「え?」

「こんなにもおれなんかの為にいろいろしてくれてんのに、本当に会いたい人に会えないのってツラいもんな。
おれ、愛さんに協力してあげるから」

「…………煌…っ」


わかってる癖に、それでもあたしをお客として大事にしてくれるなんて。
いい奴すぎるよ、煌…。




__その後、あたしはアパートの近くまで煌に送ってもらった。


煌はやっぱり仕事あがりだったようで、家に帰る途中あたしの悲鳴が聞こえて駆けつけたようだった。

もしもあの時、煌が近くを通らなかったら、今頃は………。


それにしても、あんなに都合よく徹が来たって事は、凛は徹とも連絡を取り合ってたのかしら。

あんな女に騙されて、うっかり犯されかけたなんて。
どんだけ恐ろしい奴なのよ。

紫苑の人気はあたしだけに限らないのに。
たまたまあたしも本命が紫苑だっただけで、そこまでされる必要あるわけ?


明日会ったら…あたしにどんな面見せてくるつもりかしらね…。





__そうして翌日

凛もあたしに何か言う事があるだろうと、少し早めに出勤した。

控え室で先にドレスに着替えると、髪をセットしてもらいながらメイクをする。



__…16時を過ぎた。

支度の関係でだいたい開店する1時間前にはみんな来るものなのに、凛はまだ来なかった。

凛のシフト表を見たけど、今日は休みの日ではない。

まさかあたしにあんな仕打ちをしたからって、もう合わせる顔がないなんて思ってるとか?


…なんて思ったあたしはまだまだ甘いみたいで、若干遅れ気味でも凛は何食わぬ顔でしれっと出勤してきた。


荷物をロッカーに入れて着替えを始めた時、凛は一瞬だけチラリとあたしの方を見た。

その後すぐ視線を戻したけど、小さくクスリと笑ったのがあたしの目に確かに映った。


「………………っ」


考えるより先に、あたしの足はもう凛に向かっていた。
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