紫に抱かれたくて

むらさ樹

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パシン!!

あたしら以外にも何人もいる目の前で、平手打ちをくらわしてやった乾いた音が控え室に響いた。

謝って来るなんて思ってもなかったけど。
だからって、あたしの顔見て笑うなんて!

「な…にすんのよっ!」

叩かれて赤くなった頬を手で覆いながら、凛が叫んだ。

「何するですって…?
凛、あたしには何をしたかわかって言ってんの?」

危うく犯される所だった。
仕事でお金もらって規約ギリギリの行為をするのとはワケが違う。

どんなに怖かったか、どんなに心が傷ついたか、凛はこれっぽっちも知らないのよ!


「…うふふっ、愛さんたら。
昨夜はお楽しみできた?
徹ちゃんがね、スゴい気合い入れてたのよ。
だからアタシ、徹ちゃんの為に協力してあげたの」


やっぱり、徹と凛はグルだったんだ。
あたしを誘い込む為に、わざと紫苑の名前を口にして騙したのね。

「そんな事…許されると思ってるの!?
あたし、もう少しで犯される所だったのよ!」

「犯されるだなんてぇ。
いつもアタシたちがしてる事じゃない。何が違うの?」

「…凛っ」

まだ二十歳になったばかりで、事の大きさがわからないって言うつもり?

冗談じゃない。
こんな女の為に、あたしの人生まで踏みにじられたくないわ!


「愛さんってば、自分ばっかりが被害者みたいな言い方しちゃって。
………ムカつくんだけど」

ポロリ
凛の口から、本音だろう言葉がこぼれた。

あたしばっかりが被害者みたいな?
何よそれ。
いつ凛は被害者になったって言うのよ!


「…いつも紫苑はあんな腕時計なんてしないのに、その日の夜だけはしてたの。
おかしいって思ったわ」

「…………?」

急に何かを思い出すように、凛は話し始めた。

でも凛の“腕時計”というワードで、何となくピンと来た。
多分、以前あたしが紫苑にプレゼントしたロレックスの腕時計の事だろう。


「滅多に約束を入れられない紫苑とようやく2人きりになれたのよ。
なのに、紫苑は愛さんの贈った時計をしていた」

「え…?」

あの日、紫苑に夜の約束を断られた代わりにお願いしたのだ。
せめて、今日はその腕時計を着けていてって。

ダメもとだったんだけど、でも紫苑は本当にあたしのお願いをきいてくれていたんだ。


「珍しいから、何でそんな時計なんてしてるのって訊いたけど、紫苑は笑っただけで答えなかった。
だけど次の日に愛さんから時計の話を聞いて、ショックだったわ」

「………………」


紫苑が夜の出張を断ったのは、凛との先約があったからなんだ。

そして、プレゼントの腕時計をしたまま、凛と会った…?
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