紫に抱かれたくて

むらさ樹

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「ゆう…り?」

「そう。
悠久の悠に里、で悠里」

って、漢字まで教える必要なんてないんだけどね。

でも紫苑になら知ってもらいたいって思うから、だから言うつもりもなかった本名も晒しちゃったのよ。


「…へぇ、悠久の悠ね。
いい名前を付けてもらったんだね、悠里?」

まるで自分の事のように笑顔で返してくれる紫苑。
名前1つでその笑顔は反則じゃないっ
そんな事されたら、やっぱり本気になっちゃうよ…。


「悠里、僕を見て。
僕だけを感じていて。
2人だけの時間、2人だけに使おう」

「ぁ…ぁ……っ
紫苑……………っ」


紫苑の言動に、あたしは身も心も快感に貫かれた。

やっぱり、紫苑は今までの人生の中で一番ステキ。

好き
好き

誰よりも、あたしは紫苑が好きで好きでたまらない!!

一度でもいいから紫苑と夜を過ごしたいって思ってたけど、やっぱり一度だけじゃ無理だ。

この気持ち、止められないよ____…!








「…ゆ う………」

夢の中で、紫苑の声がぼんやり聞こえた気がした。

あたしを呼んでくれた…?



なのに甘い甘い時間は、あっという間に過ぎてしまう。
紫苑に触れられた身体、スゴく気持ちよかったよ。

情事の後、愛でるように優しく頭を撫でられながら紫苑の腕の中にいると、あたしはすぐに眠りに落ちた。


こんなに気持ちのいい時間を過ごせたのは、初めてだった。



忘れられないふたりのこの濃密な時間。
紫苑は、どんな気持ちであたしを抱いてくれたの?
あたしに対して、少しでも愛はあった?

…やっぱり、ただのお仕事?




その答えは、翌朝簡単にわかった。




目が覚めると、あたしはひとりでベッドにいた。

優しく腕に抱かれて一緒に眠った筈の紫苑は、既に部屋からいなかったのだ。


と同時に、あの時床にバラまいてしまったお金はなくなっていた。


つまり、

この一夜の出来事は、お金で買っただけの行為に過ぎなかった事を物語っていたんだ…。










「愛さん!いらっしゃい!」

__あれからまた休みの日。

相変わらずあたしの足は“club-shion”へと赴いていた。

煌から、紫苑が来るというメールが来たわけじゃないんだけどね。

いないとわかっていても、もしかしたら…なんて淡い期待をしていたりするのだ。


だって、また紫苑に会いたいと思っても、あたしは連絡先を知らない。

だから少しでも紫苑に近付くには、ここに来るしかないんだ。



「今日はメールもしてないのに、来てくれるなんて思わなかったよ。
ありがとう」

「ううん。
煌には助けてもらってばかりだから、お礼しなきゃと思ってね」


この間の事も、まだちゃんとお礼言ってなかったもんね。
今日は高いお酒でも、注文してあげようかな?



煌に案内された席に着くと、つい店内をぐるりと見渡した。


「…紫苑さんは、いないよ」

「え、あ、うん…わかってる」

だからメールもしなかったわけなのに、これじゃあまるで煌を疑ってるみたいだったかな。

でもどうしても…ね。



「さぁってと、今日は何にしようかな」

メニュー表をめくりながら、あたしは煌が喜びそうなお酒を探す。


売り上げの半分が、ホスト本人の手取りになるって聞いた事がある。

だったら、たとえば10万円のお酒を注文したら煌には5万円が入るって事なのかな?

でも美味しくないお酒だったらいけないしなぁ。
あたしと同じでビールが好きなら、いきなりシャンパンとか飲んだってピンと来ないわよねぇ。

「ねぇ煌。
煌は何がいい?
今日は煌の好きなもの、何でも頼んであげるよ」


煌の事だから、一番高いお酒とかタワーとかは選ばないかな?

でも、冗談でもそうしてほしいって言われたら、今日は注文してあげる気なんだぞ。

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