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ウエルカムホストに案内されながら、あたしは目の前の通路を横切って行った女と目が合った。
すっかりキャラが出来上がってて、毎日同じ髪型のツインテール。
細くても出るとこは出てる身体を強調した、露出の高いキャミソールにホットパンツ。
___凛!
紫苑をめぐって火花散らした日から、尚更話さなくなった凛。
凛とここで会うのは、初めて一緒に座った日を入れて2回目。
いちいち他人のシフトまで確認していなかったけど、凛も今日は仕事休みだったんだ。
「………ふふっ」
凛は目の合ったあたしに上から見下ろすように笑いかけると、そのまま通り過ぎて行った。
…凛のした事は今でも忘れていない。
それは凛だって、きっと同じだろう。
「…あ、クロウ。ほら凛が来たよ。
行かなきゃいけないんじゃない?」
クロウから離れるように身を引きながら、あたしは凛の方を指差した。
今日は紫苑がお店にいる日。凛も紫苑を狙っているなら、抜け駆けされないようにクロウを付けさせないと!
…なんて汚らしい思考になってきてる事に、自分でも驚いてしまう。
好きな男を、特によく知る女には取られたくないと思う女の思考はどこか猟奇的。
自分のものには出来なくても、あの女にだけは渡したくない…!
だけどクロウはあたしの言葉にはお構いなしに、肩をギュッと抱き寄せてますますあたしから離れようとしなかった。
「…今夜は、ずっとオレと一緒にいようよ」
「クロウ…」
いい加減返事に困り目を泳がせていると、向こうのテーブルにひざまずいてヘルプに務める煌がこっちを見ている事にあたしは気付いた。
あたしがクロウの強引な誘いに身を引いていると、それを見ていた煌が腰を上げようとした。
…いけない。
こっちに来ちゃう。
煌の事だから、あたしを守ろうとクロウにさえ楯突きそうな気がする。
さっきの時でさえ嫌な空気になりつつあったのに、今日は煌とクロウを一緒にさせないようにしなきゃ…っ!
「わ わかったから。
とにかく今は飲も?
ほら、あんまりくっつくと誰かに見られちゃう…ね?」
あたしはクロウの手を取って、ブランデーの入ったグラスを持たせた。
するとクロウは、反対の手であたしの手を更に上から包み込んだ。
「…じゃ、約束な?」
「ん…」
チラリと煌の方を見てみると、上げかけた腰は下がっている。
…よかった。
トラブルにはならなくて済みそう…。
ホッとしたのも束の間、すぐその後にはあたしは目を疑うものを目の当たりにしたのだ。
「やったぁ!
紫苑と一緒にいられるの、アタシ楽しみにしてたんだぁ」
「本当に?
嬉しいな、ありがとう」
紫苑の着る紫色のジャケットが皺になるほど腕にしがみついた凛が、まるであたしに見せつけるかのように目の前を通り過ぎて行ったのだ。
…凛!
今ここに来たばかりなのに、何で紫苑と外の方へ向かっているの!?
あたしは思わず立ち上がって、ふたりの後を追いかけようとした。
途端、グッと腕を掴まれて、あたしの足は止まった。
「……クロウ!?
は 離して!」
もう一度凛たちの方に視線を向けると、ふたりはもう既にドアを開けて出て行ったようだ。
「行かせないよ。
今夜はオレと一緒にいてくれる約束だったよね?」
「…クロウ、まさかだけど…」
まさか、あたしが紫苑と近付けないように凛とグルになってたんじゃあないよね…?
すっかりキャラが出来上がってて、毎日同じ髪型のツインテール。
細くても出るとこは出てる身体を強調した、露出の高いキャミソールにホットパンツ。
___凛!
紫苑をめぐって火花散らした日から、尚更話さなくなった凛。
凛とここで会うのは、初めて一緒に座った日を入れて2回目。
いちいち他人のシフトまで確認していなかったけど、凛も今日は仕事休みだったんだ。
「………ふふっ」
凛は目の合ったあたしに上から見下ろすように笑いかけると、そのまま通り過ぎて行った。
…凛のした事は今でも忘れていない。
それは凛だって、きっと同じだろう。
「…あ、クロウ。ほら凛が来たよ。
行かなきゃいけないんじゃない?」
クロウから離れるように身を引きながら、あたしは凛の方を指差した。
今日は紫苑がお店にいる日。凛も紫苑を狙っているなら、抜け駆けされないようにクロウを付けさせないと!
…なんて汚らしい思考になってきてる事に、自分でも驚いてしまう。
好きな男を、特によく知る女には取られたくないと思う女の思考はどこか猟奇的。
自分のものには出来なくても、あの女にだけは渡したくない…!
だけどクロウはあたしの言葉にはお構いなしに、肩をギュッと抱き寄せてますますあたしから離れようとしなかった。
「…今夜は、ずっとオレと一緒にいようよ」
「クロウ…」
いい加減返事に困り目を泳がせていると、向こうのテーブルにひざまずいてヘルプに務める煌がこっちを見ている事にあたしは気付いた。
あたしがクロウの強引な誘いに身を引いていると、それを見ていた煌が腰を上げようとした。
…いけない。
こっちに来ちゃう。
煌の事だから、あたしを守ろうとクロウにさえ楯突きそうな気がする。
さっきの時でさえ嫌な空気になりつつあったのに、今日は煌とクロウを一緒にさせないようにしなきゃ…っ!
「わ わかったから。
とにかく今は飲も?
ほら、あんまりくっつくと誰かに見られちゃう…ね?」
あたしはクロウの手を取って、ブランデーの入ったグラスを持たせた。
するとクロウは、反対の手であたしの手を更に上から包み込んだ。
「…じゃ、約束な?」
「ん…」
チラリと煌の方を見てみると、上げかけた腰は下がっている。
…よかった。
トラブルにはならなくて済みそう…。
ホッとしたのも束の間、すぐその後にはあたしは目を疑うものを目の当たりにしたのだ。
「やったぁ!
紫苑と一緒にいられるの、アタシ楽しみにしてたんだぁ」
「本当に?
嬉しいな、ありがとう」
紫苑の着る紫色のジャケットが皺になるほど腕にしがみついた凛が、まるであたしに見せつけるかのように目の前を通り過ぎて行ったのだ。
…凛!
今ここに来たばかりなのに、何で紫苑と外の方へ向かっているの!?
あたしは思わず立ち上がって、ふたりの後を追いかけようとした。
途端、グッと腕を掴まれて、あたしの足は止まった。
「……クロウ!?
は 離して!」
もう一度凛たちの方に視線を向けると、ふたりはもう既にドアを開けて出て行ったようだ。
「行かせないよ。
今夜はオレと一緒にいてくれる約束だったよね?」
「…クロウ、まさかだけど…」
まさか、あたしが紫苑と近付けないように凛とグルになってたんじゃあないよね…?
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