紫に抱かれたくて

むらさ樹

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さすがにナンバーワンのクロウにビールじゃ様にならないだろうと思い、とりあえず適当な価格のお酒を注文して乾杯した。

そんな時、よそのテーブルでは例のシャンパンコールが賑わい出した。



「姫様ありがとうございます!
当“club-shion”伝説のホスト、紫苑にプラチナ入りましたー!!」

マイクパフォーマンスの後に総動員で行われたかけ声や一気コール。
手を叩き、ステップを踏んでは踊り出すホストたち。

その中央にはキレイなシャンパンボトルを口に付け、中のシャンパンを豪快に飲み干す紫苑の姿が見えた。

「今宵最高の瞬間を!
ありがとう、ごちそうさま!」

ボトルを持った手を高く掲げ、紫苑の一言にまわりのホストたちも盛り上がる。

高額なお酒の注文で見せるホストクラブならではのお祭り騒ぎ。

毎日お店に来ない紫苑の姿を見たお客は、ああやって喜んで紫苑に大金を叩くんだ。

ドンペリみたいな高額のお酒が入ると他のホストたちもお客を置いて一斉にパフォーマンスに加わるから、関係ないお客たちはその間1人になる事は普通にあるみたい。


だけどそのパフォーマンスには加わらず、クロウはあたしの側についたまま一緒にその様子を見ていた。

「クロウは行かなくていいの?
後から紫苑に怒られたりしない?」

いくらあたしでも、ホストクラブの内部の事情までは知らない。
ナンバーワンだから行かないのか?コールのかかったホストの地位が高いと行くのか?

そんなパフォーマンスを繰り広げる中には、煌の姿もあった。


「ん?いいのいいの。
今は愛ちゃんの方が大事だから。
置いて行ったりしないよ」

「…それはありがと」

言ってくれてる事は嬉しいけど、クロウが席を立ってくれないと紫苑が来てくれる可能性はもっと低い。
一口でもいい、せっかく会えたんだから紫苑と一緒に飲みたいじゃない。
いつか前の時は、ほんの10分程度で次のテーブルへとまわっていたクロウ。



だけど30分を過ぎ、もうじき1時間になろうとするのに席を立つ様子はなかった。

他のホストが来て何か耳打ちしていたりするのをあたしは何回も見てる。
だからきっと、次の指名は来てるハズなんだけど?

「大丈夫?
女の子たち、クロウを待ってるわよ?」

「え?オレが行ったら愛ちゃん寂しいじゃん?」

「そんな事…」

何?体よくあたしを追い帰したいとか?。
まさかね。
でも人気ナンバーワンのクロウをいつまでも独占して、本当に大丈夫かしら。

クロウと長時間飲むお酒は初めてだけど、さすがナンバーワンだけあって話術も長け、退屈はしなかった。
煌と違ってちょっぴり強引な話し方も、悪くはない。



そんなクロウと話している中。
急にクロウはあたしの耳元に寄って、囁いた。

「…ね、今からオレと抜け出さない?」

「は…?
抜け出すって…?」

まるで合コンのようなノリでサラッとあたしを誘うクロウ。


まだ閉店時間には1時間以上も残っている。
仕事はまだあるだろうに、抜け出したりなんていいんだろうか。

いや、その前に抜け出すって言うのはやっぱり…?


「愛ちゃんとは初めてだよね。
オレのテク、結構すげぇよ?」

やっぱり、あたしにクロウを買えって事なんだわ。
何であたしなんかに急にそんな事を言ってくるのかと思ったけど。

ここはふたりまで永久指名できる所だから、きっとそうやってあたしを煌から自分にキープさせようとしてんだ。

…って、ナンバーワンのクロウが新人の煌をライバル視するとは思えないんだけどな。


「ねっ。
初めての愛ちゃんには、料金サービスするからさ。
モチロン、テクの方は手を抜かないよ?」

ヤケにあたしを誘い込むクロウ。
お店の営業の後ならともかく、今から抜け出そうなんて随分張り切っている。


でも、何にしても今ここでクロウと出たら、紫苑を前に帰る事になっちゃうじゃない!


「ん…、でも今日は…」

「いいじゃんよっ
オレがイヤな事忘れるくらい、良い夢見せてあげるからさ!
…あ、今なら誰も見てないよ。ほら目ぇ閉じて…」

言った側からクロウはあたしの頬に近付き、軽く唇を落とした。
お店の中なのに、こんな所でキスをしてくるなんて。

これがクロウのやり方?


「…ね、愛ちゃん?」

「ん…」

嫌な事を忘れるくらい良い夢…かぁ。
それが本当なら、どんなに……


「…………………!」

クロウのキスを受けながら視線をまっすぐに向けた時、目の前をある女が通ったのが見えた。
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