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本物の愛 偽物の愛①
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今日はせっかく会えた紫苑を、ちゃっかり凛に出し抜かれてしまったけど。でも、あたしの名前を覚えていてくれた事がわかっただけでも、嬉しかった。
たかがお客の1人でも、そこまでしてくれるものなのかなぁ。期待しちゃいけなくっても、どうしても期待してしまう。
でもそんな中途半端な気持ちでいるのは、あたしだって正直ツラい。それなら、まだキッパリとフられた方がマシよ。
だから…紫苑に直接、想いを伝えてみようと思う。
今まであたしにしてくれた事は、特別なのか。
それとも、あくまでもお金で買っただけのビジネス行為なのか。
…答えなんて、わかってる筈なのにね。
でも、どうしても紫苑の口から、聞きたいの。
そうする事で、自分を納得させる事ができるから…!
支払いを済ませると、あたしは“club-shion”を出た。
クロウの目的はあたしの監視なだけだったから、紫苑と凛が出て行った後はお勤め終了になったわけだ。
…あれだけ今日はあたしにベタ寄りだった癖に、結局そこに気持ちなんてものはなく、お金で動いただけの行為だったのよね。
「…よかったんですか?
クロウさんと行かなくて」
お店を出た後“送り”という名目で煌があたしの側をついて来た。
中には最寄り駅まで送ってくれるホストもいるようだけど、あたしのアパートはこの繁華街から歩いて帰れる距離だから遠くもない。
…って、もちろん家まで送らせるつもりもないけども。
「え?
別にあたしはクロウとは…」
あれは凛が勝手にクロウに出張費を払って仕組んだ事であって、本当にクロウと過ごすつもりはもちろんあたしはないわけだ。
夜の繁華街はネオンが眩しくて、いつまでも賑わいを感じる。そんな街から外れて行き、街灯の明かりも乏しくなった道を少し歩けばあたしの住むアパートにたどり着く。
「クロウさんもさすがナンバーワンだけあって、時間外の予約入れるだけでも大変な人気みたいですよ」
急に敬語を使ってくるなんて。
あたしとの間に溝ができたと思ってんのが、露骨にわかる。
「そりゃあクロウさんはきっと、おれなんかよりずっと良い男です。
愛さんが心動かされても、納得できる…」
「ちょっと!煌?」
そんな静かな道にさしかかった辺りで、あたしは足を止めた。
これ以上は、アパートがバレちゃうからってのもあるんだけど。でも今は、煌への誤解を解かなければと思ったからだ。
「おれ…今までずっと、自分を買い被ってました。
愛さんにこんなに良くしてもらってたの、自分の実力だって勘違いしてて…」
煌の顔が、街灯の少ないこの道でよく見えない。
口元は笑ってるようだけど、でも目は…?
「やっぱりみんなから言われる通り、おれはまだまだ新人です。
たまたま愛さんがおれを紫苑さんの代わりに選んでくれただけ。
クロウさんが人気で忙しかったから、おれで穴埋めしてただけだ」
「煌っ、それは…っ」
「愛さんがおれの相手してくれたってだけで、おれ…1人で本気になっちゃって…」
そう言う煌を見て、あたしはハッとした。
煌の言ってる事って、あたしが紫苑を想うのと同じだ。
こんなにも自分に良くしてくれるのは、愛があるからって期待してしまうのよ。
でもそこにお金が関わると、それは本当の愛じゃないって事を証明しているの。
煌もそれに、気付いている…?
「紫苑さんに、自分に気持ちを向けてもらえるようにって言われてハッとしたけど、今日の事ではっきりした。
やっぱりおれじゃ、無理でした」
「あのねっ、煌!今日は違うのよ。
あたしはクロウと一緒にいたかったんじゃなくて……っ」
言い終わる前に、あたしの身体は煌に抱きしめられていた。
あたしよりも背も高く身体も大きい煌は、あたしの全身をすっぽりと覆った。
「…でも本当に…おれ、愛さんが好きだ…っ」
少し震えたような煌の声が、あたしをドキッとさせる。
抱きしめられる腕が強まり、あたしの身体はもっと煌と密着した。
「愛さんと過ごす時間が何もかも初めてで、楽しくて…。
こんな素敵な人に指名してもらえただけでも…十分なのに…っ」
ギュッと力強く抱きしめられた腕や背中が、痛い。
だけどこれが、煌の胸の痛みでもあるのがよくわかるの。
あたしも紫苑を想う気持ちは、煌のそれと同じだから…。
たかがお客の1人でも、そこまでしてくれるものなのかなぁ。期待しちゃいけなくっても、どうしても期待してしまう。
でもそんな中途半端な気持ちでいるのは、あたしだって正直ツラい。それなら、まだキッパリとフられた方がマシよ。
だから…紫苑に直接、想いを伝えてみようと思う。
今まであたしにしてくれた事は、特別なのか。
それとも、あくまでもお金で買っただけのビジネス行為なのか。
…答えなんて、わかってる筈なのにね。
でも、どうしても紫苑の口から、聞きたいの。
そうする事で、自分を納得させる事ができるから…!
支払いを済ませると、あたしは“club-shion”を出た。
クロウの目的はあたしの監視なだけだったから、紫苑と凛が出て行った後はお勤め終了になったわけだ。
…あれだけ今日はあたしにベタ寄りだった癖に、結局そこに気持ちなんてものはなく、お金で動いただけの行為だったのよね。
「…よかったんですか?
クロウさんと行かなくて」
お店を出た後“送り”という名目で煌があたしの側をついて来た。
中には最寄り駅まで送ってくれるホストもいるようだけど、あたしのアパートはこの繁華街から歩いて帰れる距離だから遠くもない。
…って、もちろん家まで送らせるつもりもないけども。
「え?
別にあたしはクロウとは…」
あれは凛が勝手にクロウに出張費を払って仕組んだ事であって、本当にクロウと過ごすつもりはもちろんあたしはないわけだ。
夜の繁華街はネオンが眩しくて、いつまでも賑わいを感じる。そんな街から外れて行き、街灯の明かりも乏しくなった道を少し歩けばあたしの住むアパートにたどり着く。
「クロウさんもさすがナンバーワンだけあって、時間外の予約入れるだけでも大変な人気みたいですよ」
急に敬語を使ってくるなんて。
あたしとの間に溝ができたと思ってんのが、露骨にわかる。
「そりゃあクロウさんはきっと、おれなんかよりずっと良い男です。
愛さんが心動かされても、納得できる…」
「ちょっと!煌?」
そんな静かな道にさしかかった辺りで、あたしは足を止めた。
これ以上は、アパートがバレちゃうからってのもあるんだけど。でも今は、煌への誤解を解かなければと思ったからだ。
「おれ…今までずっと、自分を買い被ってました。
愛さんにこんなに良くしてもらってたの、自分の実力だって勘違いしてて…」
煌の顔が、街灯の少ないこの道でよく見えない。
口元は笑ってるようだけど、でも目は…?
「やっぱりみんなから言われる通り、おれはまだまだ新人です。
たまたま愛さんがおれを紫苑さんの代わりに選んでくれただけ。
クロウさんが人気で忙しかったから、おれで穴埋めしてただけだ」
「煌っ、それは…っ」
「愛さんがおれの相手してくれたってだけで、おれ…1人で本気になっちゃって…」
そう言う煌を見て、あたしはハッとした。
煌の言ってる事って、あたしが紫苑を想うのと同じだ。
こんなにも自分に良くしてくれるのは、愛があるからって期待してしまうのよ。
でもそこにお金が関わると、それは本当の愛じゃないって事を証明しているの。
煌もそれに、気付いている…?
「紫苑さんに、自分に気持ちを向けてもらえるようにって言われてハッとしたけど、今日の事ではっきりした。
やっぱりおれじゃ、無理でした」
「あのねっ、煌!今日は違うのよ。
あたしはクロウと一緒にいたかったんじゃなくて……っ」
言い終わる前に、あたしの身体は煌に抱きしめられていた。
あたしよりも背も高く身体も大きい煌は、あたしの全身をすっぽりと覆った。
「…でも本当に…おれ、愛さんが好きだ…っ」
少し震えたような煌の声が、あたしをドキッとさせる。
抱きしめられる腕が強まり、あたしの身体はもっと煌と密着した。
「愛さんと過ごす時間が何もかも初めてで、楽しくて…。
こんな素敵な人に指名してもらえただけでも…十分なのに…っ」
ギュッと力強く抱きしめられた腕や背中が、痛い。
だけどこれが、煌の胸の痛みでもあるのがよくわかるの。
あたしも紫苑を想う気持ちは、煌のそれと同じだから…。
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