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煌の白いスーツが、強く抱き寄せられてたくさんの皺を作った。
紫苑やクロウに憧れて、いつか自分もトップになる事を夢見ている煌。
ロクに知らないこの世界に、たくさんの初めてを教えてあげたのはあたし。
ホストクラブは自分の為じゃない、目の前の男の為にお酒を注文しては一緒に楽しくお話をしながら飲むの。
そして時には、ふたりだけの時間を作って甘い甘い恋人ゴッコをする。
そう、全てはお金で買っただけの粋な遊び。
頭の中だけ夢を見て、一時的に現実を忘れる為の…遊び……
だったんだけど。
「あたしは…煌が思ってるようないい女なんかじゃないよ。
毎日汚い仕事して、そのお金で煌たちとお酒を飲んでるの。
遊びと割り切って、煌たちを買って楽しんでるだけなのよ」
…自分で言って、自分で気付いた。
紫苑だって、あたしたちの事は仕事と割り切って身体を売ってるだけ。
それだけなのよ。
「ほら、苦しいよ。腕離して、煌?
こんなワルい女にいちいち心動かされてちゃ、ナンバーワンホストなんてなれないぞ」
あたしを抱きしめる煌の背中を、ポンポンと叩いた。
こんな時は、あたしの方が冷静になればいい。
だけどそんな煌の返してきた言葉に、あたしはその手も止まってしまった。
「…じゃあ、紫苑さんを追っかけてるのも、遊び?」
「…………………っ」
ドキリとして、一瞬息さえも止まった。
あたしが、あたしが紫苑にこだわってるのは………
「おれが初めて“club-shion”で働く時に、紫苑さんから教えてもらったんだ。
ホストクラブは、女の子たちに一時の夢を見せてあげる所だって。
現実を忘れる為に、気持ちいい時間を提供してあげるのがおれたちホストなんだって」
ドキン ドキンと、胸の奥が鼓動を響かせた。
現実を忘れる為に、一時的に見せられた甘い夢。
遊びと割り切った恋人ゴッコってのはわかってる。
なのに………
「あたし…バカだよね。
夢と現実の区別もつかなくなっちゃってさ…」
あんなにも優しい笑顔をまっすぐに向けられて、甘い言葉を囁かれて。
一時的に夢を見せてあげる所…か。
あたしの仕事も似てる所はある。とにかくお客に気持ちいい思いをさせる為に、あたしたちは一時的に身体を売るの。
嫌でも、ツラくても。
だけど、ホストが売ってるのは身体じゃない。
…心だ。
あたしの仕事みたいに、お店を出れば夢から覚めて現実に戻れるけど。でもホストから心を買ってしまったあたしたちは、お店を出ても夢から覚められなくなる事がある。
なのに、誰も責める事はできないわ。
「…ズルいよね。
ホストなんて、あたしの仕事よりずっと…汚い…っ」
紫苑の口から聞かなくても、自分でわかってた。
だけど、まるで本当に紫苑に言われたかのようにツラくて…苦しくて……
あたしは煌の白いスーツを涙で濡らしながら、肩を震わせた。
それからしばらく泣きはらした後、あたしの身体はゆっくり離された。
「…ごめん…。
せっかくの煌のスーツ、汚しちゃったね…」
「そんなの全然大丈夫だよ。
それより、愛さんの方こそ大丈夫?」
涙で目は少し腫れぼったくなってしまったし、きっとメイクも崩れてる。
よかった。
灯りの少ない道だから、煌には見られる事はないだろう。
「あたしこそ、全然大丈夫よ。
…煌があたしを掴まえてくれてたから、安心して泣けちゃったわ」
「………………っ」
あたしは煌の身体から離れ、アパートに向かう方へと足を向けた。
「…じゃあね。
煌も早く戻らないと、クロウたち先輩ホストに怒られちゃうぞ」
「愛さん…っ」
「また…休みの日は遊びに行くから。
その時は、しっかりあたしを接待してね。
いい気分になったら、高いお酒を注文してあげるかもしれないわよ?」
暗くて、あたしたちはお互いの顔がよく見えない。
これでいいの。
煌とあたしは、ホストとそのお客って関係なだけなんだからさ…。
紫苑やクロウに憧れて、いつか自分もトップになる事を夢見ている煌。
ロクに知らないこの世界に、たくさんの初めてを教えてあげたのはあたし。
ホストクラブは自分の為じゃない、目の前の男の為にお酒を注文しては一緒に楽しくお話をしながら飲むの。
そして時には、ふたりだけの時間を作って甘い甘い恋人ゴッコをする。
そう、全てはお金で買っただけの粋な遊び。
頭の中だけ夢を見て、一時的に現実を忘れる為の…遊び……
だったんだけど。
「あたしは…煌が思ってるようないい女なんかじゃないよ。
毎日汚い仕事して、そのお金で煌たちとお酒を飲んでるの。
遊びと割り切って、煌たちを買って楽しんでるだけなのよ」
…自分で言って、自分で気付いた。
紫苑だって、あたしたちの事は仕事と割り切って身体を売ってるだけ。
それだけなのよ。
「ほら、苦しいよ。腕離して、煌?
こんなワルい女にいちいち心動かされてちゃ、ナンバーワンホストなんてなれないぞ」
あたしを抱きしめる煌の背中を、ポンポンと叩いた。
こんな時は、あたしの方が冷静になればいい。
だけどそんな煌の返してきた言葉に、あたしはその手も止まってしまった。
「…じゃあ、紫苑さんを追っかけてるのも、遊び?」
「…………………っ」
ドキリとして、一瞬息さえも止まった。
あたしが、あたしが紫苑にこだわってるのは………
「おれが初めて“club-shion”で働く時に、紫苑さんから教えてもらったんだ。
ホストクラブは、女の子たちに一時の夢を見せてあげる所だって。
現実を忘れる為に、気持ちいい時間を提供してあげるのがおれたちホストなんだって」
ドキン ドキンと、胸の奥が鼓動を響かせた。
現実を忘れる為に、一時的に見せられた甘い夢。
遊びと割り切った恋人ゴッコってのはわかってる。
なのに………
「あたし…バカだよね。
夢と現実の区別もつかなくなっちゃってさ…」
あんなにも優しい笑顔をまっすぐに向けられて、甘い言葉を囁かれて。
一時的に夢を見せてあげる所…か。
あたしの仕事も似てる所はある。とにかくお客に気持ちいい思いをさせる為に、あたしたちは一時的に身体を売るの。
嫌でも、ツラくても。
だけど、ホストが売ってるのは身体じゃない。
…心だ。
あたしの仕事みたいに、お店を出れば夢から覚めて現実に戻れるけど。でもホストから心を買ってしまったあたしたちは、お店を出ても夢から覚められなくなる事がある。
なのに、誰も責める事はできないわ。
「…ズルいよね。
ホストなんて、あたしの仕事よりずっと…汚い…っ」
紫苑の口から聞かなくても、自分でわかってた。
だけど、まるで本当に紫苑に言われたかのようにツラくて…苦しくて……
あたしは煌の白いスーツを涙で濡らしながら、肩を震わせた。
それからしばらく泣きはらした後、あたしの身体はゆっくり離された。
「…ごめん…。
せっかくの煌のスーツ、汚しちゃったね…」
「そんなの全然大丈夫だよ。
それより、愛さんの方こそ大丈夫?」
涙で目は少し腫れぼったくなってしまったし、きっとメイクも崩れてる。
よかった。
灯りの少ない道だから、煌には見られる事はないだろう。
「あたしこそ、全然大丈夫よ。
…煌があたしを掴まえてくれてたから、安心して泣けちゃったわ」
「………………っ」
あたしは煌の身体から離れ、アパートに向かう方へと足を向けた。
「…じゃあね。
煌も早く戻らないと、クロウたち先輩ホストに怒られちゃうぞ」
「愛さん…っ」
「また…休みの日は遊びに行くから。
その時は、しっかりあたしを接待してね。
いい気分になったら、高いお酒を注文してあげるかもしれないわよ?」
暗くて、あたしたちはお互いの顔がよく見えない。
これでいいの。
煌とあたしは、ホストとそのお客って関係なだけなんだからさ…。
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