紫に抱かれたくて

むらさ樹

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「紫苑…じゃあどうしてハッキリ断らないの?
あの人と結婚したいって思ってるわけじゃあないんでしょう?」

あんな風に言われたら、彼女もいつまでも待つと思う。結婚する気のない紫苑を、ずっとずっと年を重ねながら待ち続けるのよ。


「…女性の要望を、何でもハッキリ断ってはいけない。
今はダメでも、相手が先に諦めるまでは嫌な思いはさせない。
それが、うちの方針なんだよ」

「方針って…っ
でもそんなの、却って残酷よ!
あたしならまだハッキリ断ってくれた方がいいもの!」

断ってくれないから、期待する。
いつかまたきっとって、夢を見ちゃう。
あたしも紫苑の心がほしくて、つい期待してたの。

さっきの彼女もきっとそう。
ずっと、紫苑を追いかけていくんだわ。紫苑の心はいつか必ず手に入るって、信じてるから。


「でもね、女性に気持ちいい夢を見せるのがホストクラブ。
そしてそんな仕事をするのが、僕たちホストなんだよ」

「…………………っ
ホストなんて…ヒドい生き物よ。
心を売って女を気持ちよくさせるだけさせて、でも絶対に手に入れさせてくれない…!」


あたしがどんなに紫苑に惹かれたか。
どんなに胸をドキドキさせながら期待したか。

紫苑は何も知らない。
お金を払った恋人ゴッコなんて、こんな仕打ち、ツラいだけ…。



「…心なんて、初めから売っていないよ」

「………………っ」


……本当は、わかってた。
お金で買うのは一時の時間だけ。


「僕たちが売っているのは、心じゃない。
夢なんだ」

「………紫苑…っ」

そう。
あんなに甘い甘い時間は過ごせたのに、買えたのは紫苑との一時であって、紫苑の心じゃない。

お金があればいつか紫苑の心を手に入れられるって思ってたけど、そんなわけないんだ。


「ごめんね。
僕の心は、お金で買えないんだ___…」









「おかえり、愛さ……
え、どうしたのっ!?」

席に戻ったあたしに、煌が驚いて顔を覗き込んだ。

さっき紫苑と話してたので、すっかり目が赤くなるまで泣いてしまった。すぐに顔を洗ってメイクも直したんだけど、やっぱり近くに寄るとバレちゃったかな。

「何かあった?
もしかしておれ、また何か失礼な事しちゃってたとかっ」

「ううん。
何か胸がいっぱいになっちゃってね…っ
でも大丈夫よ。
さっ、飲もっか」

あたしは空いたグラスにボトルのシャンパンをつごうとした。
すると、その手をギュッと煌に握られたのだ。


「…無理しちゃ、ダメだよ。
ツラいなら、もう帰った方がいい」

「…煌…」

煌の言葉は他のホストたちとは違う、いつも心からの本音。


「近くまで送って行くよ。
いいかな」

「うん、ありがと」

それはお金で買う癒やしとは違う、本当の愛情なんだよね。
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