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「写真!? それは………………………ん ぁっ」



抱きしめられた身体がグラリと揺れたかと思うと、わたしの唇は柔らかいものに強く押し当てられていた。


その力があまりにも男性的に強かったのと、佐伯先生の予想もしていなかった行動に、わたしは驚いたと同時に恐くなって身体が強張った。


息もできなくて、苦しいっ



「んっ、んっ………っ
いやぁっ、やめて!!」



熱くなってきた顔に、ガクガクと震え出した手足。

だけどわたしはギュッと手に力を入れると、思い切り佐伯先生の身体を押し退けた。



「っ
まな………っ」



佐伯先生は一瞬よろめいたけれど、すぐにわたしの方へと向き直った。


やっぱり、力じゃあ佐伯先生は止められないっ



「…佐伯先生っ
どうして、何を……っ」



ゆらり 身体を揺らしながら近付いてくる佐伯先生に、わたしはソファチェアに座ったまま身構えた。


もう、いつもの佐伯先生じゃあない。


抱きしめられた時は、夢の中でもがいたわたしの事を思ってだろうけど。
さっきの押し当てるようなキスは、治療でも何でもないよ!



「どうしちゃったんですか!?
佐伯先生、変ですよっ」


「…変じゃないよ。僕はまなを、早くこの腕に抱きたいだけだ。
君は…まなだろう?」



まな?

さっきから佐伯先生の言っている“まな”って、あの入院しているまなさんの事を言っているの?


そんなっ
いくら何でも、赤の他人であるわたしをまなさんと間違えるなんて。

どうしちゃったの、佐伯先生!?



「佐伯先生っ
まなさんがどんな人なのかは知りませんが、わたしは佐伯先生の仰る“まなさん”じゃありません。
よく見て下さい!」



佐伯先生にとって、まなさんがとても大切な人なのは、よくわかった気がした。

病室でも、あんなに愛しそうに声をかけていたもんね。


でもそんな大切な人を、間違えちゃうなんて……


「……あぁ、よく見てたよ。君は本当に、まなに似ている。
その髪。その瞳。何もかもが、まなの生き写しだ。
さすが、よく似た姉妹だと思っていたよ」



「ぇ………………?」



聞き間違いだろうか。


今、佐伯先生はわたしとまなさんの事を、姉妹って─────…?




「君たち2人には、申し訳ない事をしたと思っているよ。
僕が言い出した旅行。なのに僕だけが生き残って、みんなは……まなは………っ」


意味が、わからなかった。

佐伯先生は、何の話をしているの?


旅行?
生き残って?

旅行────



──『思い出深い、楽しい旅行になるといいね』



「……………………っ」



さっき夢の中で聞いた言葉が、頭の中で蘇った。



──『さっ、向こうで父さんたちが車で待ってるよ。
ほらひとみ、早く早く』



旅行…車……生き残った…?



─────ズキンッ



頭が、強く痛む。



(はぁ…はぁ……っ)



呼吸が乱れる。
息が、苦しいっ



「…………佐伯先生は、わたしの過去を知ってるんですか…?
姉妹って、わたしにはお兄ちゃんがいるだけなのに…っ」



「知ってるも何も、君たち家族をバラバラにしてしまったのは、僕が原因なんだよ。
僕が、君の入学祝いと兼ねて婚約祝いの旅行に行こうなんて言い出さなければ、今頃みんなは……っ」



声を震わせながら言う佐伯先生の言葉に、わたしはただただ驚いて聞いていた──。




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