琥珀の夢は甘く香る ~アンバーの魔女と瞳に眠る妖魔の物語~

遥彼方

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依頼1ー熱気と闇を孕む商業国ナナガ

治安維持警備隊第二部隊の仕事

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「痛い、痛い、痛いっ!!」
 涙を浮かべて踞り金切り声を上げる少女を見て、銃を構えたダグスは顔をしかめた。

「ちっ! 妖魔だと分かっていても良心が痛むな、こりゃあ」

 ふーっと肺に溜まったくわえ煙草の煙を言葉と共に吐き出す。構えた対妖魔銃は狙いを定めたままだ。妖魔相手には何が起こるか分からない。娘と変わらない年齢の少女を撃つことに、いくら良心が咎めても攻撃の手を弛める訳にはいかなかった。

「仕方ありませんよ、ダグスさん。宿主っていうのは見た目は普通の人間ですからね。それよりもこれで正体を現してくれればいいんですが」

 そう言いながらすかさず対妖魔銃を発砲するのは、第二部隊隊長カーズだ。彼の狙いは少女の頭だったが、恐ろしい速さの跳躍でかわされた。
 しかも撃ち抜いた筈の右腕から、ポロリと弾が落ちて小さな傷口はみるみる無くなっていく。思ったほどの威力もなく再生速度も速いな、とカーズは冷静に分析した。

「なにするの、ひどい!」
「ああ、酷いな。これも仕事だからね。手は抜かないさ」
 涙目の少女の抗議を軽く受け流し、カーズは部下へ告ぐ。いちいち宿主の言葉を真に受けていたら身がもたない。

「小銃を持つものは足止めだ! 効く効かないは度外視しろ。動きを停滞させればそれでいい。剣を持つものは周りを固めて、側に来たときだけ対応! ただし、無理はするな! 命をくれてやるほど妖魔は力を増すぞ。自分の命を最優先しろ!」

 カーズの指示で迅速に散開する第二部隊の隊員たちは、流石に場慣れしている。高位妖魔を仕留めるには火力がないものの、依頼した妖魔狩りが現場にくるまでの足止めや、更なる被害の阻止は第二部隊の管轄だ。

 カーズは利き手でない方に持つ従来拳銃を発砲する。淀みなく、頭、腹を狙っていくが全て着弾する前にバラバラにされた。少女は月下に銀髪をなびかせて、まだ空中を舞っていた。

「ふむ」
 カーズはまた拳銃を撃ち牽制しながら観察する。妖魔を相手にする時、何よりも必要になるのが観察力と推察力だ。プラスして経験も活きてくる。

 それにしても滞空時間が長い。それに銃弾がバラバラにされた時、微かに指を動かした。地面に転がる死体の切断面は惚れ惚れするほど綺麗な面を晒している。
 凄腕の剣士が斬ったらこうなるかもしれないが、中の臓器を傷付けずに表面の肉と骨だけをやっている。剣のようなでかい刃物ではない。そもそもそんなものを振り回しているようには見えなかった。

「医療用のメスみたいなやつならありかもしれないが、まあ、それも違うな」

 カーズは長年の経験と身に付けた観察力と勘をフル動員させて、なんとなくあたりをつけていく。メスなら視認できるだろうから、切るだけでない目に見えない何か、だ。それも柔軟性のあるものだと思う。

 ふわりと少女が地面へ着地した。跳び上がる時の動きと空中での動きに違和感、着地の時にも指が動いた。
 空中では微かに足も動かしていた。何かを蹴る動きだ。目を凝らしてもその何かは見えない。

「第一部隊のエリート様は行った行った! ここからは俺たちの管轄だ!」
 更地の端へ散開した剣士が第一部隊隊員の退路を確保してやる。特に先ほど狙われていた隊員は、優先して逃がさないとまた狙われる可能性がある。

「し、しかし」
「しかしも糞もあるか! こっちは自分で手一杯なんだよ。命張る現場舐めんな、エリート部隊!」

 現場で叩き上げられた者ばかりな故か、気性の荒い者が多い部隊である。本部や支部で会った時ならそれなりに礼儀は通すが、ここではそんなものは無意味だ。
 第二部隊の隊員たちの心の中では「さっさとどっか行きやがれ、この足手まとい! 邪魔だ、ボケ!」と罵詈雑言なのだが、そこまで言ってしまうと後がややこしい。

 チェルシーは混乱していた。急に『ご飯』が増えたのは嬉しいが、今までと勝手が違う。おまけに次はこれ、と狙っていた『ご飯』の前で邪魔な男に通せんぼをされた。

「逃がさないんだから」
 邪魔をする男はもう『ご飯』でなくていい。細切れにしてやろうと指を動かした。

 小太りの隊員の前にいた剣士が、小さな空気の動きと独特の気配を感じ反射的に剣を向ける。プツリと切れた感触が剣を握る指先へ伝わった。キッと少女に可愛らしく睨まれたが、殺気は可愛らしいとは到底言えない。

「この感触、隊長! 正体は糸だ!」
「なるほど。あの動きからして指から伸ばしてるな。空中にも張り巡らしてある。気を付けろ、切れ味抜群なやつだぞ」

 第二部隊の扱う剣は普通のものではない。ミズホ国の宝石を加工する際に出る、石の粉末を混ぜた金属が使われているのだ。
 同じく小銃の弾にも石の粉末が使ってある。しかし弾は消耗品な為、あまり貴重な石の粉末は使えない。貴重な石の粉末は小銃の弾よりも主に剣の素材に使用してあった。
 要するにミズホ国の宝石にはランクがあり、それによって威力が変わる。小銃には下のランクが使われ全隊員に支給、上ランクの石が素材の剣は第二部隊の手練れが持つ。
 そして、新しい対妖魔銃には最上ランクの石の粉末が使用され、更に石の効力をを上げるように開発されたそうだ。

「糸の硬度は高くない。剣で斬れるぞ! 剣士と銃士、持ち場を入れ代われ! 剣士は糸を斬ることを優先! 銃士はサポートだ!」
 指示を変更してからカーズは独りごちた。

「ったく、高位妖魔にも通じるって触れ込みの癖して、あんまり効いてないな。これだから机上の空論ってやつは当てにならない」

 そうはいっても、全く通じていない訳ではなかった。これなら上手く頭か心臓を撃ち抜けば高位妖魔でも仕留められるだろう。データ取りは上々、マギリウヌ国の連中もさぞ喜ぶ。
 最初から第二部隊に任せておけば良かったものを、何を先走ったのやらとカーズは足元の死体を見下ろした。握ったままの対妖魔銃を強引に抜き取り、側にいた部下へ渡す。

「今に始まったこっちゃねえよ、隊長! まあ、高位妖魔の相手なんざ三年ぶりか」
「違えねえ!」
 軽口を叩き、剣士は糸を斬って相手の手札を減らす。新たに糸を張る仕草を見せれば小銃で動きを止め、攻撃の素振りを見せれば剣士が踏み込んで中断させる。
 基本的に中級妖魔までしか仕留められない第二部隊は、足止めに徹する事に関してはエキスパートだった。

 傷一つ付ける威力がない武器で、なんとか騙し騙しの時間稼ぎをして妖魔狩りが来るまでもたせる。打開する鍵として対妖魔銃があるだけ今回はマシだ。

「毎度の事だが、厳しいねえ。気張れよ! お前ら!」
 おうよと応える頼もしい部下たちに、カーズは頬を弛めた。
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