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第一章:リスタート

自己嫌悪

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「あの中で少しましなものを選んだとしても、満足できるアクセサリーなんてなかったと思います。もちろん、アクセサリー以外でもです」

「そうね」

 うつむき、ぎゅっとセスの手を握りしめる。

 死を経験して、変わってみせると誓った。けれど本当に変わったのだろうか。

 確かにエミリーとは仲良くなった。でもそれは、打算でエミリーを懐柔して味方につけただけ。それなのにエミリーという存在を心地よいと感じて、エミリーに好意を向けられるたびに自分が変われたような気になって。挙句の果てに、心のどこかで平民であるエミリーを馬鹿にしていた。

 否。平民としてだけじゃない。
 おっちょこちょいのエミリーが失敗する度に呆れ、しようのない子だと自分より下に見ていた。その癖、エミリーが向けてくれる愛情だけを享受していた。

 なんて醜いのだろう。

 変わるための努力をしている、変わったつもりになって。
 何も、変わっていない。

 断罪されたあの時の自分と。
 男をだまし、手玉にとっていた前世の自分と同じ。
 醜い自分のままだ。

「イザベラ」

 名を呼ばれて顔を上げると、柔らかな青い視線にぶつかった。口元を緩く上げたセスが、あっちの方向を指さす。

「あれ、食べてみません?」

 指の方向を追うと、店先で串に刺した肉を焼いている。煙と共に香ばしい匂いが通りにも漂っていた。肉を焼く店主から客が直接肉の串を受け取り、金を渡している。肉を手に入れた客は、その場で肉にかじりついていた。

「あれを……?」

 急にどうしてこんな事を言い出したのだろう。イザベラは戸惑った。

 イザベラは皿に盛っていない料理など食べたことがない。しかし現代の日本に生きていた麗子は抵抗がない。

 買ってすぐ道でぱくつくのは行儀が悪いが、縁日の串焼きのようで……実のところ夢だった。

 祭りの縁日。麗子は両親に連れて行ってもらったことなどなく、友人と行った事もなかった。大人になり家を飛び出してから自由に行けるようになっても、一人で行く気にはなれず。かといって貢がせていた男と行くのも嫌だったのだ。

 だから興味のないふりをして、いつも横目で手を繋いで食べ歩いている親子連れやカップルを眺めていた。

「それと、あっち。あれも美味しそうじゃないですか?」

 セスが今度は向こうを指さす。そちらは丸っこい何かを上げていた。漂ってくる匂いは甘くて、多分お菓子だ。ドーナツのようなものだろうか。

「予算としては余裕がないですから、どっちも買って分け合いましょうよ」

 戸惑うイザベラにセスがにこにこと続ける。

「今の俺たち、単なる同級生でしょう? だから買い食いしません? 俺一度やってみたかったんです」
「……でも、プレゼントは……」

 エミリーの出したテストはどうするのだろう。言いよどんでいると、セスの一言が遮った。
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