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第一章:リスタート

選んだプレゼント

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「思い出」

「え?」

 意味を測りかね、イザベラはまばたきをした。

「形に残るものだけが贈り物とは限りませんよ。思い出だって、プレゼントです。お嬢様と二人で身分関係なくいられるなんて、今だけですから。普通の同級生みたいに買い食いして、街を歩く。そんな思い出を俺にくれませんか?」

 緩い笑みを浮かべたまま、セスの静かな熱を孕んだ青い目がイザベラを見据えていた。

「俺だけじゃない、お嬢様も。本当に欲しいのは、形のないものでしょう。違いますか」

 青い瞳に映った少女の目が、揺れる。繋いだ手に、柔らかく力が加わった。温かい。

「旦那さまや奥様から価値のある宝石、高級なドレスを贈られても、お嬢様はいつも寂しそうでした。プレゼントとメッセージカードを置いて、窓の外を見て溜め息を吐いておられました」

 どうして、セスはいつもこんな風に。

「だから俺、アクセサリーとか物じゃなくて、楽しい思い出をあげたいなって」

 イザベラの心の、脆い部分を暴いてしまうのだろう。

 嬉しいような、泣いてしまいたいような。
 そんな気持ちが零れ落ちてしまわないように、イザベラはぎゅっと口を結んだ。

「駄目、ですか?」

 今にも泣きそうなイザベラに不安になったのだろう。急に笑顔をひっこめて、恐る恐る聞いてきた。

「駄目じゃないわ」

 掠れる声を振り絞り、ふるふると首を振る。それからイザベラは口角を上げた。

「エミリーに自慢しなくちゃ、ね。楽しかったわ、どう、いいでしょう? 最高のプレゼントでしょって」 

 セスが一瞬青い目を開き、すぐに破顔した。

「はい! お嬢様」

 嬉しそうに首を縦に振ったセスに、イザベラが照れ隠しに釘を刺す。

「それと、お嬢様じゃなくて、イザベラ!」

「あ、はい! ……イザベラ」

 セスも照れくさくなったのか、はにかんだ笑みでイザベラの名を呼び直した。
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