48 / 94
第一章:リスタート
セスの嫉妬
しおりを挟む
「今のは……」
完全に消えた後、険を鞘に戻したセスが呟く。
「セス!」
「うわっ」
イザベラは目の前の背中へ抱きついた。ぎゅっと抱き締め、背中に顔を押し付ける。
「お嬢様! 離れて下さい。今の俺は」
「嫌! やだ、離れないっ」
体を捻って逃げようとするセスを、イザベラはますます力を込めて抱き締めた。
「怖かった。セ、セスが、セスが、お父さんみたいに、なっちゃうんじゃ、な、ないかって」
体の震えが止まらない。
「お父さん? お嬢様、今のに何か心当たりが?」
「セスぅ。セスのままだぁ。良かったぁあ」
言葉と一緒に涙があふれた。
「……あの、怖がらせた張本人が俺なんですが、分かってます?」
「違う! あれはセスじゃない」
鼻声のまま首を振ると、抜け出すのをあきらめたセスがなだめるようにイザベラの手を軽く叩いた。
「いいえ。俺ですよ。俺が呼んだんです」
妙に確信を持った声音でセスが続ける。
「多分、俺の黒い感情が呼んだんです。あの時のお嬢様、俺じゃない誰かを見ていたでしょう?」
「誰か? ……あっ」
裕助だ。あの時のイザベラは、セスに彼を重ねていた。
「俺、そいつに嫉妬してしまって。むかむかしてたらお嬢様、よりによってエミリーに気を取られたじゃないですか……俺どうしようもなくムカついて」
背中に抱きついたまま、セスを見上げる。後ろ頭と耳、頬が少し見えているだけだ。
「なんていうか、本当は俺、エミリーに負けたくなかった」
イザベラはゆっくりと瞬きをした。
エミリーに負けたくなかった。エミリーに嫉妬した?
セスが嫉妬をしてくれた。それって、もしかして。
「お嬢様、変わられましたよね。そのことは嬉しいです。ずっと望んでいたことだった。だけどなんだか悔しくて、腹が立った。そしたら黒いものが入り込んできたんです」
カリ。イザベラはセスから左手を離し、親指の爪を噛んだ。
麗子に敵意を向ける人間を、決まって覆うあの黒い影。あれは一体何なのだろう。
物心ついたときには見えていたため、当たり前のように思っていた。皆が見えるものではないと知ったのは、随分と成長してから。寺で厄払いをしてもらったり霊媒師や占い師に見てもらったりもしたが、分からずじまい。それからずっと、黒い影について考えてきたものの答えは出なかった。
片手からするりとセスの体が抜ける。爪を噛む手にそっとセスの手が添えられた。
「お嬢様。爪を噛む癖なんてなかったですよね?」
イザベラの腕から抜けて、セスが探るように覗き込んでくる。
「そうだったかしら」
とぼけた返事をしつつ、イザベラは瞳を泳がせた。困った。なんと答えたものだろう。
「イザベラ様!!」
そこへ、別の人間の声が割り込んできた。
完全に消えた後、険を鞘に戻したセスが呟く。
「セス!」
「うわっ」
イザベラは目の前の背中へ抱きついた。ぎゅっと抱き締め、背中に顔を押し付ける。
「お嬢様! 離れて下さい。今の俺は」
「嫌! やだ、離れないっ」
体を捻って逃げようとするセスを、イザベラはますます力を込めて抱き締めた。
「怖かった。セ、セスが、セスが、お父さんみたいに、なっちゃうんじゃ、な、ないかって」
体の震えが止まらない。
「お父さん? お嬢様、今のに何か心当たりが?」
「セスぅ。セスのままだぁ。良かったぁあ」
言葉と一緒に涙があふれた。
「……あの、怖がらせた張本人が俺なんですが、分かってます?」
「違う! あれはセスじゃない」
鼻声のまま首を振ると、抜け出すのをあきらめたセスがなだめるようにイザベラの手を軽く叩いた。
「いいえ。俺ですよ。俺が呼んだんです」
妙に確信を持った声音でセスが続ける。
「多分、俺の黒い感情が呼んだんです。あの時のお嬢様、俺じゃない誰かを見ていたでしょう?」
「誰か? ……あっ」
裕助だ。あの時のイザベラは、セスに彼を重ねていた。
「俺、そいつに嫉妬してしまって。むかむかしてたらお嬢様、よりによってエミリーに気を取られたじゃないですか……俺どうしようもなくムカついて」
背中に抱きついたまま、セスを見上げる。後ろ頭と耳、頬が少し見えているだけだ。
「なんていうか、本当は俺、エミリーに負けたくなかった」
イザベラはゆっくりと瞬きをした。
エミリーに負けたくなかった。エミリーに嫉妬した?
セスが嫉妬をしてくれた。それって、もしかして。
「お嬢様、変わられましたよね。そのことは嬉しいです。ずっと望んでいたことだった。だけどなんだか悔しくて、腹が立った。そしたら黒いものが入り込んできたんです」
カリ。イザベラはセスから左手を離し、親指の爪を噛んだ。
麗子に敵意を向ける人間を、決まって覆うあの黒い影。あれは一体何なのだろう。
物心ついたときには見えていたため、当たり前のように思っていた。皆が見えるものではないと知ったのは、随分と成長してから。寺で厄払いをしてもらったり霊媒師や占い師に見てもらったりもしたが、分からずじまい。それからずっと、黒い影について考えてきたものの答えは出なかった。
片手からするりとセスの体が抜ける。爪を噛む手にそっとセスの手が添えられた。
「お嬢様。爪を噛む癖なんてなかったですよね?」
イザベラの腕から抜けて、セスが探るように覗き込んでくる。
「そうだったかしら」
とぼけた返事をしつつ、イザベラは瞳を泳がせた。困った。なんと答えたものだろう。
「イザベラ様!!」
そこへ、別の人間の声が割り込んできた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
21
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる