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第一章:リスタート
平民の教育
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「何って教育ですわ。見て下さいな、イザベラ様。そこの卑しい平民が汚したのです。平民風情が、私たち貴族の大切なドレスを汚すなんて。許されることではありませんわ。そうでしょう? イザベラ様」
これ見よがしにマリエッタがドレスの裾を摘まんで広げた。微かに白くなった紺色のドレスの裾と一部分が灰色になった白いフリル。それだけだ。
「大切? ドレスが、平民よりも大切だと貴女は言うの?」
「ええ。もちろん。私、分かっておりますのよ。この間は平民を大切に、なんてイザベラ様はおっしゃってましたけど、そんなもの建前ですわよね。だってイザベラ様、おっしゃっていらっしゃったではありませんか。平民なんて家畜みたいなものだって」
無邪気な様子で、マリエッタがふふっと肩を震わせる。
「家畜……」
イザベラもまた、小さく肩を震わせた。
平民は、家畜。貴族の腹を満たすためにいる、家畜。ぐうの音も出ないように支配し、そこそこ甘い汁を吸わせ、生かさず殺さず飼いならす、家畜。
貴族の中で当たり前のようにはびこっている考えで、かつてのイザベラもまた、同じように思っていた。
「何か深い考えがあって、平民の肩を持ってらっしゃっただけですよね? ね? イザベラ様」
「……」
後々のことを考えれば、そうだと頷いた方がいい。
辺境伯令嬢であるマリエッタ。彼女の領地は貿易の要と言える港を有していて、様々な物資と莫大な富を持ち、その権力は王家と縁の深い公爵家に匹敵する。
彼女を敵に回すのはまずい。
「私たちは家畜なんかじゃありません!」
「黙りなさい! この売女。卑しい平民の癖に、軽々しく殿下と口をきいて。身の程知らずにも程がありますわ!」
たまりかねたように声を上げるアメリア。彼女を怒鳴るマリエッタ。二人を尻目にイザベラはエミリーを見た。
「私は大丈夫でございますです。これくらい、慣れてますです」
片方の頬を腫らしたエミリーが、にっこりと笑ってこっくりと頷いた。
イザベラは次に傍らに立つセスを見上げる。
セスもまた、軽く頷いた。真っ直ぐにイザベラを見る青い瞳が、何をしても味方だと言っている。
「ごめんね、エミリー」
エミリーを抱く腕にぎゅっと力を入れてから、イザベラは立ち上がった。マリエッタの正面に立ち、真っ直ぐに彼女と目を合わせる。
パン。
暗い倉庫に、大きな平手の音が響いた。
これ見よがしにマリエッタがドレスの裾を摘まんで広げた。微かに白くなった紺色のドレスの裾と一部分が灰色になった白いフリル。それだけだ。
「大切? ドレスが、平民よりも大切だと貴女は言うの?」
「ええ。もちろん。私、分かっておりますのよ。この間は平民を大切に、なんてイザベラ様はおっしゃってましたけど、そんなもの建前ですわよね。だってイザベラ様、おっしゃっていらっしゃったではありませんか。平民なんて家畜みたいなものだって」
無邪気な様子で、マリエッタがふふっと肩を震わせる。
「家畜……」
イザベラもまた、小さく肩を震わせた。
平民は、家畜。貴族の腹を満たすためにいる、家畜。ぐうの音も出ないように支配し、そこそこ甘い汁を吸わせ、生かさず殺さず飼いならす、家畜。
貴族の中で当たり前のようにはびこっている考えで、かつてのイザベラもまた、同じように思っていた。
「何か深い考えがあって、平民の肩を持ってらっしゃっただけですよね? ね? イザベラ様」
「……」
後々のことを考えれば、そうだと頷いた方がいい。
辺境伯令嬢であるマリエッタ。彼女の領地は貿易の要と言える港を有していて、様々な物資と莫大な富を持ち、その権力は王家と縁の深い公爵家に匹敵する。
彼女を敵に回すのはまずい。
「私たちは家畜なんかじゃありません!」
「黙りなさい! この売女。卑しい平民の癖に、軽々しく殿下と口をきいて。身の程知らずにも程がありますわ!」
たまりかねたように声を上げるアメリア。彼女を怒鳴るマリエッタ。二人を尻目にイザベラはエミリーを見た。
「私は大丈夫でございますです。これくらい、慣れてますです」
片方の頬を腫らしたエミリーが、にっこりと笑ってこっくりと頷いた。
イザベラは次に傍らに立つセスを見上げる。
セスもまた、軽く頷いた。真っ直ぐにイザベラを見る青い瞳が、何をしても味方だと言っている。
「ごめんね、エミリー」
エミリーを抱く腕にぎゅっと力を入れてから、イザベラは立ち上がった。マリエッタの正面に立ち、真っ直ぐに彼女と目を合わせる。
パン。
暗い倉庫に、大きな平手の音が響いた。
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