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第一章:リスタート

何をしているの

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 大通りから灰色の影のような脇道に飛び込んだ。黒ずみ、手入れされていない壁。狭い通路。とてもマリエッタのような人間が好んで行きそうな所ではない。そんなところへわざわざエミリーを連れて行ったという事実がまた、悪い想像を誘う。

「あの、言いにくいんですがマリエッタ様たち、エミリーさんに嫌がらせをしていたみたいで」

 やはり、とイザベラは唇を噛んだ。

「エミリーはマリエッタたちにいじめられていたのね」
「はい。そうだと思います」

 手足にあったあざや擦り傷の数々。いくらエミリーがドジだといってもあれは多すぎる。
 誤魔化されたりせず、きちんと追及するべきだった。

 いいや、違う。

 誤魔化されていたのではない。浮かれていた。エミリーという友人が出来たことに。自分が変われているような気分になって、浮かれて、肝心の友人の様子のおかしさを見逃していた。

 兆候は、あったのに。

「どの道なの?」

 路地を奥へと進むがエミリー達の姿が見えない。路地は一本道ではなく、別の脇道が多数見えた。

「こっちです」

 前に出たアメリアが指さしたそのうちの一つの道を進むと、突き当りに朽ちかけた倉庫があった。そこからわらわらと、出てくる色とりどりのドレス。

「イザベラ様」

 よくマリエッタと一緒にいる令嬢たちだった。驚いた顔をこちらに向ける彼女たちに、イザベラは微笑んだ。

「こんにちは。こんなところで何をしているのかしら? 皆さん」

「な、なんでもありませんわ。失礼」
「ごきげんよう、イザベラ様」

 彼女たちはぎこちなく笑みを浮かべ、おざなりな挨拶でそそくさと立ち去る。イザベラは彼女たちに構わず、ぽっかりと口を開けた目の前の倉庫の入り口に歩み寄った。

「お嬢様」

 セスが警戒をあらわにした声をかけてくるが、無視をする。イザベラは倉庫にためらいもなく飛び込んだ。

「エミリー!」

 倉庫の中は、暗くなりかけた外よりもなお暗かった。カビと埃の臭いが充満した倉庫内に、人影が二つ。立っている女と、床にうずくまる人影。

「い、イザベラお嬢様ぁ」

 人影のうちの、床にうずくまっていた方が声を上げた。

「あら、イザベラ様」

 エミリーの前、こちらに背を向ける形でマリエッタがいた。こちらを振り返ることなく、イザベラの名を口にした彼女の横をすり抜ける。
 うずくまるエミリーに駆け寄り、床に膝を着いて彼女を抱きしめた。

「お、お嬢様。今の私、汚いです。お洋服が汚れてしまいますです」
「構わないわ」

 片頬に手を当てて、エミリーが涙声で呟いた。その手は黒く、頬や着ている服もあちこち汚れていた。当てている手から覗く頬は腫れている。

「マリエッタ! これはどういうことかしら。エミリーに何をしたの」

 エミリーを腕の中に抱え、イザベラはマリエッタを振り返った。
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