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第一章:リスタート
絶望的な状況
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「喜べよ、嬢ちゃん。モリス伯爵は前々からあんたのことを欲しかったんだとよ」
男がぐい、と身を乗り出して震えるイザベラの顎を掴んだ。
「可哀想になぁあ? あんた、死ぬよりも酷ぇ目に合わされるぜ」
ぐい、と上に引かれ、真正面から目を覗かれる。
「そんな」
目の前の男の楽しそうな顔を、イザベラは絶望的な気持ちで眺めた。
このままではあの男に買われる。またあの地下牢に戻る。せっかくやり直したというのに、またあの破滅ルートを辿る。
「お願い。お金なら払うわ。いくらもらう予定だったの? その倍額出すから!」
「倍額ぅ?」
男の目が細くなった。
「そうよ。倍額、いえ、三倍でもいいわ! うちは公爵家よ。お金ならいくらでも……」
「そりゃぁ、魅力的だがよぉ。どうやって払う? ああ? モリス伯爵がつけたあんたの値段は、二億セーント。その三倍っつったら六億セーントだ。そんな大金、今持ってねえだろ。言っとくけどな。貴族の後から払うって口約束は信用しねえぞ」
小馬鹿にしたように見下ろされる。
「へっ、家に戻ったら告げ口すんだろが。しなくてもよぉ、その金はどうせ親の金だろ。どう言い訳してパパに金を用意してもらう気だ? ああん?」
「そ、それは」
イザベラは言葉に詰まった。男の言う通りだ。
六億セーント。日本円に換算すると一億円強のはず。そんな大金、いくら公爵家とはいえ簡単には出せない。もし用意できても、理由を問われる。
「娘をさらった盗賊に誰がホイホイと金を払う? 娘の命と引き換えなら払うだろうけどよ、その娘はもう家に戻ってるのに? あいつらが薄汚い平民の俺らに? 払うわけねぇだろが」
「だったら公爵家に連絡して、身代金を要求すれば……」
「おお、それなら払うかもしれねえなぁ。で、のこのこ金を取りにいったら取っ捕まって死刑ってわけだ」
イザベラを見下ろしたまま、男が大げさに肩をすくめる。それからぐっと顔を近づけた。
「いいか。公爵家の娘に手を出したのがバレたら、俺らも終わりなんだよ。そんな危険は冒さねえ」
息のかかる距離で噛んで含めるようにゆっくりと言うと、顎から手を離す。
「その点、モリス伯爵に買われちまったら、死体になるまで出られねえ。叩けば埃の出まくる伯爵は絶対に秘密を洩らさねえ。モリス伯爵はよぉ、俺ら界隈じゃあ信用のある貴族なんだよ」
イザベラは、押されたわけでもないのに後ろによろめいた。イザベラの背中に、柔らかい温もりがあたる。エミリーだ。
足先にも、同じような感触がした。床にはまだ意識のないアメリアがいる。
「諦めるんだなぁ。恨むなら、あのマリエッタとかいう貴族の嬢ちゃんを恨みな」
ははは、と笑い声を上げると、幌の向こうに戻っていった。
男がぐい、と身を乗り出して震えるイザベラの顎を掴んだ。
「可哀想になぁあ? あんた、死ぬよりも酷ぇ目に合わされるぜ」
ぐい、と上に引かれ、真正面から目を覗かれる。
「そんな」
目の前の男の楽しそうな顔を、イザベラは絶望的な気持ちで眺めた。
このままではあの男に買われる。またあの地下牢に戻る。せっかくやり直したというのに、またあの破滅ルートを辿る。
「お願い。お金なら払うわ。いくらもらう予定だったの? その倍額出すから!」
「倍額ぅ?」
男の目が細くなった。
「そうよ。倍額、いえ、三倍でもいいわ! うちは公爵家よ。お金ならいくらでも……」
「そりゃぁ、魅力的だがよぉ。どうやって払う? ああ? モリス伯爵がつけたあんたの値段は、二億セーント。その三倍っつったら六億セーントだ。そんな大金、今持ってねえだろ。言っとくけどな。貴族の後から払うって口約束は信用しねえぞ」
小馬鹿にしたように見下ろされる。
「へっ、家に戻ったら告げ口すんだろが。しなくてもよぉ、その金はどうせ親の金だろ。どう言い訳してパパに金を用意してもらう気だ? ああん?」
「そ、それは」
イザベラは言葉に詰まった。男の言う通りだ。
六億セーント。日本円に換算すると一億円強のはず。そんな大金、いくら公爵家とはいえ簡単には出せない。もし用意できても、理由を問われる。
「娘をさらった盗賊に誰がホイホイと金を払う? 娘の命と引き換えなら払うだろうけどよ、その娘はもう家に戻ってるのに? あいつらが薄汚い平民の俺らに? 払うわけねぇだろが」
「だったら公爵家に連絡して、身代金を要求すれば……」
「おお、それなら払うかもしれねえなぁ。で、のこのこ金を取りにいったら取っ捕まって死刑ってわけだ」
イザベラを見下ろしたまま、男が大げさに肩をすくめる。それからぐっと顔を近づけた。
「いいか。公爵家の娘に手を出したのがバレたら、俺らも終わりなんだよ。そんな危険は冒さねえ」
息のかかる距離で噛んで含めるようにゆっくりと言うと、顎から手を離す。
「その点、モリス伯爵に買われちまったら、死体になるまで出られねえ。叩けば埃の出まくる伯爵は絶対に秘密を洩らさねえ。モリス伯爵はよぉ、俺ら界隈じゃあ信用のある貴族なんだよ」
イザベラは、押されたわけでもないのに後ろによろめいた。イザベラの背中に、柔らかい温もりがあたる。エミリーだ。
足先にも、同じような感触がした。床にはまだ意識のないアメリアがいる。
「諦めるんだなぁ。恨むなら、あのマリエッタとかいう貴族の嬢ちゃんを恨みな」
ははは、と笑い声を上げると、幌の向こうに戻っていった。
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