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第一章:リスタート
エミリーを治して
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「セスッ」
イザベラが名を呼ぶと、背中を向けて着地したセスが顔だけを振り向かせた。
「助けに来るのが遅くなってすみません。もう大丈夫です」
大好きな柔らかい微笑み。会いたかった背中。聞きたかった声。
やっぱり助けに来てくれた。
なのに喜ぶことも安堵することも出来ずに、イザベラはエミリーを抱く手を震わせた。
涙のせいで歪む視界には、セスの他にもジェームス王子と、数名の男たちがいた。
「この化け物どもが。お前たちの相手は俺たちだ」
彼らはジェームス王子の護衛騎士だろう。立派な鎧をつけていて、臆することなくガーゴイルとオークに向かっていく。
「……お嬢様……」
「喋らないで」
頬を伝う滴が、ぱたぱたと紙みたいに白いエミリーの顔に落ちた。肩口を押さえる手の隙間から、じわじわと赤い色がエミリーのワンピースを染めていく。
今すぐ医者に診せて、治療をすればエミリーは助かる。だがここは街道の真ん中。医者のいる町には最低でも半日以上かかる。エミリーを救うには、聖女の魔法しかない。
「アメリアッ!」
イザベラは隣に立つアメリアを見上げた。どこか別の場所を見ているような、光のない目をした彼女にすがる。
「お願い、アメリア! エミリーを治して」
アメリアのぼんやりとさせていた焦点が、イザベラで結ばれる。
その途端に、アメリアの雰囲気が変わった。
「イザベラ様」
優しく、慈愛に満ちた表情と柔らかく落ち着いた声。なのに、ゾクッと腹の底が冷たくなった。
「大丈夫ですよ。エミリーさんは治してあげます」
しゃがみこんだアメリアが、指先をこちらに伸ばしてくる。イザベラは、何故か逃げたしたくなる気持ちをぐっと抑えた。アメリアの指先はそのままイザベラの頬に伸び、飛び散ったエミリーの血を掬い取ってからエミリーに向かう。
「あるべき姿ならぬもの、存在すること能わず。傷よ、去ぬがよい」
アメリアから立ち上る柔らかな白い光がエミリーの傷口を包んだ。傷口を確認しようとゆっくりと手を退ければ、とろりと血がこぼれる。
「治ってない……」
ぽつりとつぶやいた自分の声が、遠くから響いた。
そんな馬鹿な、とイザベラは思う。聖女の回復魔法は絶対だ。治せないなんて有り得ない。
「まずいですね。回復魔法で治せる範囲を超えているのかも」
表情を曇らせたアメリアが、もう一度光を放つ。
それでも傷は塞がらない。
懐かしい聖なる光。だが、それでは駄目だ。足りてない。どうして、足りないの。
待って、どうして懐かしいの。足りないって思うの。前世の知識? 小説に書いていたっけ?
混乱するイザベラの少し向こうでは、モンスターとセス達の戦闘が繰り広げられている。
「シッ!」
鋭い呼気と共にセスが剣でガーゴイルに斬りつける。ガガガ、という音を立てて剣が走るが、表面に傷がついたのみ。
「どうした、その程度かァッ」
縦横無尽の剣撃をものともせず、ガーゴイルが爪を振るった。剣と腕をクロスさせてガーゴイルの爪をセスが受けた。
ミシッ。嫌な音を響かせて、セスの体が軽々と吹き飛ばされる。二、三度回転して起き上がったセスの左腕は、ぶらんと力なく垂れさがっていた。
「オラオラァッ!」
オークの腕が護衛騎士の一人の腹を捉え、甲冑を着けた大の男の体が、文字通りに宙を舞う。
「くそ! 化け物どもめ」
ジェームス王子がオークを撃つが、僅かに動きを止めたり傷を与える程度で効いている素振りが見られなかった。
イザベラが名を呼ぶと、背中を向けて着地したセスが顔だけを振り向かせた。
「助けに来るのが遅くなってすみません。もう大丈夫です」
大好きな柔らかい微笑み。会いたかった背中。聞きたかった声。
やっぱり助けに来てくれた。
なのに喜ぶことも安堵することも出来ずに、イザベラはエミリーを抱く手を震わせた。
涙のせいで歪む視界には、セスの他にもジェームス王子と、数名の男たちがいた。
「この化け物どもが。お前たちの相手は俺たちだ」
彼らはジェームス王子の護衛騎士だろう。立派な鎧をつけていて、臆することなくガーゴイルとオークに向かっていく。
「……お嬢様……」
「喋らないで」
頬を伝う滴が、ぱたぱたと紙みたいに白いエミリーの顔に落ちた。肩口を押さえる手の隙間から、じわじわと赤い色がエミリーのワンピースを染めていく。
今すぐ医者に診せて、治療をすればエミリーは助かる。だがここは街道の真ん中。医者のいる町には最低でも半日以上かかる。エミリーを救うには、聖女の魔法しかない。
「アメリアッ!」
イザベラは隣に立つアメリアを見上げた。どこか別の場所を見ているような、光のない目をした彼女にすがる。
「お願い、アメリア! エミリーを治して」
アメリアのぼんやりとさせていた焦点が、イザベラで結ばれる。
その途端に、アメリアの雰囲気が変わった。
「イザベラ様」
優しく、慈愛に満ちた表情と柔らかく落ち着いた声。なのに、ゾクッと腹の底が冷たくなった。
「大丈夫ですよ。エミリーさんは治してあげます」
しゃがみこんだアメリアが、指先をこちらに伸ばしてくる。イザベラは、何故か逃げたしたくなる気持ちをぐっと抑えた。アメリアの指先はそのままイザベラの頬に伸び、飛び散ったエミリーの血を掬い取ってからエミリーに向かう。
「あるべき姿ならぬもの、存在すること能わず。傷よ、去ぬがよい」
アメリアから立ち上る柔らかな白い光がエミリーの傷口を包んだ。傷口を確認しようとゆっくりと手を退ければ、とろりと血がこぼれる。
「治ってない……」
ぽつりとつぶやいた自分の声が、遠くから響いた。
そんな馬鹿な、とイザベラは思う。聖女の回復魔法は絶対だ。治せないなんて有り得ない。
「まずいですね。回復魔法で治せる範囲を超えているのかも」
表情を曇らせたアメリアが、もう一度光を放つ。
それでも傷は塞がらない。
懐かしい聖なる光。だが、それでは駄目だ。足りてない。どうして、足りないの。
待って、どうして懐かしいの。足りないって思うの。前世の知識? 小説に書いていたっけ?
混乱するイザベラの少し向こうでは、モンスターとセス達の戦闘が繰り広げられている。
「シッ!」
鋭い呼気と共にセスが剣でガーゴイルに斬りつける。ガガガ、という音を立てて剣が走るが、表面に傷がついたのみ。
「どうした、その程度かァッ」
縦横無尽の剣撃をものともせず、ガーゴイルが爪を振るった。剣と腕をクロスさせてガーゴイルの爪をセスが受けた。
ミシッ。嫌な音を響かせて、セスの体が軽々と吹き飛ばされる。二、三度回転して起き上がったセスの左腕は、ぶらんと力なく垂れさがっていた。
「オラオラァッ!」
オークの腕が護衛騎士の一人の腹を捉え、甲冑を着けた大の男の体が、文字通りに宙を舞う。
「くそ! 化け物どもめ」
ジェームス王子がオークを撃つが、僅かに動きを止めたり傷を与える程度で効いている素振りが見られなかった。
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