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第一章:リスタート

『神様』と少女(?視点)

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 『神様』は少女の中で、今にも高笑いを上げそうな衝動を堪えた。

 ――痛い、痛いよ。嘘でしょ、ゲームと違うっ――

 少女の心が荒れ狂う。思惑通り、異世界から連れてきた少女は、大混乱だった。

 ――落ち着け。かすり傷だ――

 わざとらしく猫なで声で少女をなだめてやると、さらに泣きわめいた。

 ――無理! だって痛いよ、怖いよ。神様の嘘つき。私は主人公なんでしょ。危ないことなんてないんじゃなかったの?――

 ――そうだ。お前は主人公。全ての運命がお前の為に動く。どんなことがあろうともお前が命を落とすことなどないし、今だとてかすり傷だろう? しかし主人公に試練はつきもの。多少の危険は諦めるがよい――

 嘘などついていないというのに。馬鹿な女だ。
 能天気で、現実を見ていない。そういう女を選んだ。

 ――かすり傷って、あんなに鋭い爪で引っかかれたんだよ。痛いし、怖いし、血だって出てる。ゲームのイベントだったらヒロインは怪我なんてしてなかったのに――

 それはそうだろう。『神様』はまた漏らしそうになってしまう笑いの代わりに、甘い甘いどくを流した。

 ――仕方がなかろう。繰り上げてシナリオを変えたのだから。だったら私と代わればよい。痛いのも怖いのも引き受けてやろう。少しだけ眠っているといい。その間に嫌な部分は全て私が肩代わりして、聖女の力を目覚めさせておこう――

 ――本当? 神様――

 『神様』の言葉に少女の心が安堵にほっと緩み、喜びに明るくなる。
 ああ、本当にこの少女は痛みや恐怖に弱い。自分に都合のいい提案をしてやれば簡単に食いつく。

 ――ああ。起きたら全てが上手くいっている――

 ――良かった! ありがとう、神様。じゃあ、私は寝るね。おやすみなさい――

 ――おやすみ、私の可愛い聖女――

 おやすみ、私の可愛い可愛いお人形せいじょ
 眠りに落ちる少女の意識に入れ替わり、『神様』の意識が浮上を始めた。

「……メリアッ!」

 誰かがアメリアの腕を掴んで揺さぶっている。その誰かを知っている『神様』は暗い悦に入る。

 ああ、その願いを叶えてやろう。希望を見るといい。喜べ。
 それから……。

 声、音。腕や指の感覚。波打つ心臓。血の香り。何百年ぶりかの肉体の感覚を味わう。そして。

「お願い、アメリア! エミリーを治して」

 目の前で必死に叫ぶ女の姿に、アメリア・・・・は微笑んだ。

 ……絶望に染めてやろう。
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