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第一章:リスタート

エミリー!

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「ハッハァ! それそれェッ」

 ふっとイザベラの周りが暗くなった。見上げれば、ガーゴイルの姿があった。鋭い牙を覗かせた口が凶悪な笑みの形を作り、イザベラの太ももくらいの腕が振り下ろされる。

「きゃああああっ」

 ガーゴイルの腕が今度はアメリアの足を捉えた。バランスを崩したアメリアが転び、ごろごろと地面を回った。

「アメリア!」

 イザベラは彼女に駆け寄り、助け起こした。

「痛い、痛い、痛いっ。どうしてっ、どうして私がっ」

 やはりわざと外したのか、スカートの裾と皮膚を浅く裂いただけのようだ。獲物をわざとひと思いにやらず、遊んでいるのだ。

「大丈夫、怪我は大したことないわ。走って」
「無理、痛いっ。ううぅっ、我慢よね、神様ぁっ」

 半泣きのアメリアと一緒に立ち上がった。

「追いついたぞぉ、一人、もらったぁ!」

 そこへ今度はオークの一撃がきた。イザベラはアメリアの腕を持ったまま、夢中で横に跳んだ。

 ガドン! ガーゴイルと違って遊びと無縁の攻撃が、轟音とともに地面をえぐる。揺れと無理な移動でアメリアの体重を支え切れず、イザベラは彼女と一緒に倒れた。

「さぁて、もう鬼ごっこは終わっちまったなァ」

 慌てて起き上がろうとするイザベラだったが、ワンピースが引っ張られて動けない。見れば逃げられないように裾をガーゴイルが踏んでいた。

「離しなさいよっ」

 抜け出そうと力任せに裾を引っぱるが、びくともしない。

「イザベラ様っ」

 隣には逃げようかイザベラを助けようか、迷っている様子のアメリアがいるが、彼女に逃げろと言う余裕がなかった。

「死ね」

 ガーゴイルの腕が振り上がり、そしてイザベラに向かって振り下ろされた。その動きがスローモーションのように見える。
 これだけゆっくり動いているのなら普通に逃げられそうなのに、自分の体の動きもゆっくりだった。もどかしく思いながらも身をよじる。

 それでもあの爪に裂かれるのは避けられない。

 衝撃に備えてイザベラが歯を食いしばった、その時。

「駄目えぇっ、お嬢様!」

 イザベラの代わりに目の前に躍り出た誰かの影が、ガーゴイルの爪に裂かれ。

「お嬢様っ!!」
「アメリアッ!」

 花が咲くように飛び散った赤、複数の馬のいななきと蹄の音、耳をつんざく銃声が飛び込んできた。
 ピピッ、とイザベラに細かい液体が飛び散ってくる。遅れて鼻をつく鉄臭さと、どさりとイザベラの方に倒れてくる体を受け止める。

「エミリーッ、どうして」

 ガーゴイルに裂かれ、まだ血が溢れている肩口をぎゅうっと押さえた。

「アメリアから離れろっ、モンスター!」
「殿下!」

 ガァアァン。また銃声が響き、アメリアに伸ばしていたオークの手が弾かれる。

「お嬢様ぁあああっ」

 馬に乗ったセスが剣を抜き、勢いを殺さないままガーゴイルに剣をぶつけた。

「うおッ」

 石のガーゴイルを斬ることは出来なかったものの、数歩よろめかせることには成功。ガーゴイルにぶつかった馬が耐え切れずに転倒するが、飛び降りてイザベラの前に着地した。
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