もう捕まらないから

もう逃がさないから

　朝、麗らかな日差しで目が覚めた。
　久しぶりの快適な睡眠で気分が良かった…のは一瞬だった。
　隣に温もりがなかった。一瞬で意識が覚めた。ベットから抜け出して彼女を探す。

　ない。

　彼女もいなければ彼女の荷物も靴も何もかも彼女に関するものが消えていた。まるで彼女が初めからいなかったといっているみたいに。

　それならどれだけ良かったか。

　机の上には一つの紙切れがあった。
　『さよなら』と書かれてある文字は涙でにじんでいたし字が少し歪んでいた。

　ただ彼女が書いたということだけはわかる。これで彼女がここを出ていったこと、ここに居たという事が嫌というほど分かり俺の心を激しく乱した。

★☆★

「俺と付き合ってください」

「っ！はい！これからもよろしくお願いします！」

　俺、桐生英知はこの頃は幸せの絶頂にいた。好きになった人に告白して承諾された。その頃はただ浮かれていた。

　付き合って一年あたりに周りのせいで自分が桐生財閥の御曹司ということがバレて美咲をびっくりさせてしまった。

　美咲は驚くだけでさして今までとの態度は変わらなかった。今まで通り普通の彼氏として扱ってくれてその気にしない態度にますます惚れてしまった。

　付き合って三年目に俺の目の前には痛い女が現れた。
　自称俺の婚約者な彼女は俺と美咲を別れさせようと何かと文句を言ってくる女だ。

　当然俺とこの女の中には婚約なんてものはないし、する気もない。するんだったら美咲ただ一人だけだ。こんな女と結婚したい物好きがいるんだったらこの目でみてみたい。

　なんで好きな人との仲を壊されなくちゃいけないんだよ。

　その時はイライラしていて、久しぶりに美咲とあって久しぶりによく寝れた日。

　


　幸せが壊れた。




　朝起きたら美咲がいなくて美咲が置いた手紙をみて絶望した。
　ただ、涙で滲んだ手紙しか美咲がいたという証拠がなくて心を痛めた。

　
　そこから俺は絶対に捕まえてやると決意して美咲を探した。
　美咲がいないと生きていけない。
　あの声も、あの肌も全て全て俺の物だ。

　美咲がいなくなって10日後。
　あの女の会社を重点的に調べて美咲を見つけ出した。
　
　久しぶりに見た美咲はとっても笑顔で楽しそうな顔をしていた。
　許せなかった。
　俺はこんなにも君がいなくて辛いのに君は辛くないのかと。

「英知様、お顔が…」

　注意をしてくれた人に感謝をする。
　こんな人殺しのような顔をしていたら彼女に怖がられてしまう。
　笑顔をつくって車から降りると彼女は驚いた顔をする。

「…美咲」

　名前を呼ぶと彼女は震える。
　青白い顔をした少女が愛しくてたまらない。彼女はバックを落とした。

「美咲、心ぱ…」

　逃げ出した。一度目ならず二度までも俺から逃げ出した。

　でも俺がこのまま彼女を逃がすはずないじゃん。捕まえるに決まってる。
　美咲、



　もう逃がさないから







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　読んでくださりありがとうございます。
　英知の自称婚約者さんがなんか可哀想な感じになってしまいました。m(__)m